中国の改革開放の初期、多くの台湾企業が中国本土に進出し、中国は次第に「世界の工場」となっていきました。しかし、近年、中国当局の政策の変化によりビジネス環境はますます不安定になり、台湾企業を含む多くの海外資本が中国から撤退し、インドやベトナムなどにサプライチェーンを移転しています。台湾の鴻海(ホンハイ)グループ傘下のフォックスコンもその一例です。

フォックスコンの重要性

 今年5月以降、フォックスコン撤退のニュースが嵐のように河南省を駆け巡りました。フォックスコンの大規模な撤退は、河南省にどれほどの影響をもたらすのでしょうか?

 まず、河南省がどれほどフォックスコンに依存していたかを見てみましょう。2010年にフォックスコンが鄭州市に進出して以来、フォックスコンは鄭州市の対外貿易のほとんどを支えてきました。データによれば、フォックスコンは一時期、鄭州市の輸出額の80%以上を占めていました。つまり、河南省の対外貿易の繁栄に、フォックスコンが大きく貢献していたのです。

 これは一つの側面に過ぎません。フォックスコンの鄭州工場には約30万人の従業員がおり、これにフォックスコンに依存する上流、下流の企業、例えば飲食業や宿泊業を含めると、全体で100万人を超えると推定されます。鄭州市の常住人口は約1200万人で、労働人口は約700万人です。つまり、労働人口の7人に1人が、直接的または間接的にフォックスコンに依存して生計を立てていたのです。雇用機会、税収の貢献、そして不動産価格への影響など、フォックスコンは河南省の経済において重要な役割を果たしていたのです。

 データによると、昨年、河南省におけるフォックスコンの影響力は他の企業とは比べ物にならないものでした。フォックスコンの昨年の輸出入額は4,000億元(約8.8兆円)にも達し、鄭州市の輸出入貿易の74%を占め、河南省全体で見ても、フォックスコンは全体の約半分を占めていました。

 今年の第一四半期、河南省の輸出入貿易は前年同期比で30.9%も減少しました。輸出も減少し続け、以前の1,000億元(約2.2兆円)近くから、現在は652億元(約1.4兆円)にとどまっています。これらの状況は、フォックスコンの撤退による影響が大きいと考えられています。

 以前、フォックスコンが撤退を仄めかした時、中国の一部のネットユーザーは何と言ったでしょうか?「さっさと出て行け。フォックスコンがなくても地球は回る」。確かに地球は回り続けていますが、鄭州市のフォックスコン産業チェーンはストップしました。20万人以上のフォックスコン従業員が失業に直面しているだけでなく、その背後には数え切れない家族がいます。また、工場周辺の飲食店や宿泊施設なども大きな影響を受けています。少なくとも数十万、あるいは100万人以上の人々の生活が脅かされています。

 河北省廊坊市にあるフォックスコンの駐車場を見てみると、かつて車で埋まっていた駐車場が今はガラガラです。道路脇の駐車スペースもかつては満車だったのに、今は空っぽになっています。

フォックスコン撤退の理由

 昨年8月、フォックスコンの創業者である郭台銘(かく・たいめい)氏が台湾の総統選への出馬を表明しました。しかし2か月後、フォックスコンが中国で税務調査の対象となりました。このことから、中国共産党当局が郭氏の出馬に不満を抱いていることがうかがえます。

 北京当局は以前から政治的手段で台湾企業に圧力をかけてきました。民主社会では企業が政治に影響を与えることができることを知っているからです。例えば2021年、台湾の遠東集団が税務調査を受けましたが、その主な理由は、遠東集団が2020年に多くの民進党陣営の候補者に資金を提供したと言われたためです。また、2016年には台湾の海霸王(ハイパーワン)集団が税務調査を受けましたが、その理由は蔡英文総統の一族と密接な関係があると噂されたためです。

 北京当局による台湾企業への抑圧は冷ややかな効果を生み、彼らに中国でビジネスをすれば、常に家財を没収され、家族が消されるリスクがあると感じさせます。中国市場がどれだけ大きくても、外国企業は投獄のリスクを常に抱えているのです。

加えて、「国安法」や「反スパイ法」などの法律を使って当局がやりたい放題できるため、多くの外資系企業が中国からの撤退を加速させています。

 ベトナムのメディアは昨年夏、フォックスコンがベトナムに3億ドルを追加投資し、3万人を雇用する計画だと報じました。今年2月、フォックスコンはベトナムと45ヘクタールの土地を2057年まで借用する契約を結びました。

  フォックスコンは昨年5月、インドのテクノロジー・ハブであるベンガル―ル郊外の広大な土地を3700万ドルで購入することを発表しました。フォックスコンはインドで約9つの製造拠点を運営しており、30以上の工場を持っています。2025年までにフォックスコンの生産の約30%が中国本土以外で行われると予想されています。

  フォックスコンの撤退に伴い、32万人の雇用もなくなりました。現在、鄭州市航空港経済総合実験区の歩行街はかつての繁栄を失い、フォックスコンが進出した時の活気はなくなり、一時は「小さな香港」と呼ばれていたものの、今はその面影はありません。

  フォックスコンの鄭州工場の32万人の従業員について考えてみましょう。フォックスコンが撤退すると、彼らは失業し、その多くが低学歴の若者であるため、再就職の圧力は大きくなります。もしこの30万人以上がフードデリバリの仕事に従事することになった場合、誰が食べ物を注文をするのでしょうか?

遅れた謝罪

  最近、中国のネット上で、ある中国人男性が土下座してフォックスコンに謝罪する動画が話題となりました。

 男性は、「自分は以前、フォックスコンをブラック企業だと思っていたが、地元の靴工場で働いてみて、フォックスコンの良さに気付いた」と話しています。

 この男性は、靴工場ではトイレにも自由に行けないが、フォックスコンでは2時間ごとに10分の休憩があり、喫煙エリアもあったと述べています。靴工場では、作業で手袋が必要で、1日3元を自腹で支払わなければならなかったが、フォックスコンでは工場が毎日手袋を1組支給していたといいます。

  また、賃金についても比較しています。靴工場では月給が4,500元で、毎日午前6時50分から夜11時まで、1日17時間労働でした。一方、フォックスコンでは1日10時間労働で、4,500元の月給だったといいます。

 さらに、フォックスコンでは病気になっても医療費を負担してくれ、会社が費用をカバーしてくれるのに対し、靴工場では社会保険すら用意されていなかったといいます。

 しかし、時すでに遅し、フォックスコンはすでに撤退しており、河南省に再び戻ってくることはないでしょう。

 (翻訳・銀河)