中国の住宅市場が低迷を続けるなか、各地方政府は、いわゆる「在庫一掃」策を推進するため、購入制限の緩和や頭金の引き下げなど、市場を救済しようとしています。しかし、「割高(値段上昇)の時買い、割安(値段下落)の時買わない」という市場の圧力が、中国経済の先行きを悩ませ続けています。

中国当局の救済策

 5月17日に中国政府が通称「517房市新政」という不動産市場救済の切り札を打ち出しました。517新政策とは5月17日に国務院新聞弁公室の記者会見で発表された「不動産市場の安定的発展最適化政策に関する通知」のことです。

 各地方政府は、いわゆる「在庫一掃」という救済策を推進するため、購入制限の緩和や頭金の引き下げなどの措置を講じ、市場を救済しようとしています。

 しかし、6月初頭に出てきたデータについて、中国共産党中央部の経済に詳しい関係者たちの間では激震が走っているほど、市場の状況は悪化しています。

 ラジオ・フリー・アジアの報道によると、中国の不動産市場の販売は2年以上低迷しており、各地で消費者の購入意欲を回復させるため、今年5月初めまでに、中国の24の都市が住宅購入の制限をすべて解除し、35の都市が購入制限を緩和しました。

 新政策の内容は大まかに言って、不動産市場救済のための3つの金融政策と、最後の切り札ともいえる4つ目の政策に分けられます。

 まず、住宅購入の頭金比率が引き下げられました。1軒目の不動産の場合、頭金は最低15%、2軒目の不動産は25%に引き下げられました。

 次に、不動産購入ローンの金利下限が撤廃されました。また、住宅積立基金ローンの金利も引き下げられました。

 そして、中央銀行は3000億元を低利(1年期限1.75%、4度のロールオーバー可能)で21銀行に貸与し、この資金によっておよそ5000億元の資金を地方の国有企業に流し、滞っている住宅在庫を購入させ、それを保障性住宅(安価な低所得者向け住宅、公団住宅のようなもの)に転用させる大プロジェクトを推進することを発表しました。

 この4つ目の不動産在庫の国有企業による買い取り政策は、一種の不動産価格買い支え政策でもあり、不動産価格の暴落を食い止めるのも1つの目的と見られていました。この4つの政策をまとめて「517房市新政」と呼ばれています。

エコノミストの見解

 米中華系住人が主要顧客の中堅銀行「East West Bank(イースト・ウェスト・バンク)」のチーフエコノミストである許仲翔氏は、「これらの措置は、政府が不動産業界のバブル化を望んでいないことを示し、そのための安全メカニズムさえ提供することで、中国の住宅市場に十分な自信を与えている」と述べました。

 しかし、米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所の中国経済問題研究者である黄天磊氏は、これらの措置の効果は限られていると考えています。その主な理由は、銀行が国の政策に応じるのが難しいからです。彼は次のように述べました。「住宅ローンの金利が下がっても、貯蓄利率が相対的に高い場合、銀行の収益は困難になる。また、政府の救済措置が地方の在庫を一掃できたとしても、最終的に誰も住まなければ、不良債権になるだろう。この3000億元には規定があり、プロジェクトを確定した後、60%は3000億元が負担し、残りの40%は商業銀行が貸出する必要がある。したがって、地方国有企業が商業用不動産の在庫を購入できるようにするための融資規模は全体で5000億元になるが、中国の不動産の過剰生産能力を解消するには少なくとも2兆元が必要だ。中国の主要銀行は国有銀行であるが、完全に国の所有ではなく、国有株が大部分を占めている。理論上、銀行は株主の意見を尊重するべきだが、不動産問題が2年以上続いており、政府が銀行に苦境にあるデベロッパーへの追加融資を命じても、銀行の態度は曖昧である」

 ブルームバーグは、アメリカのジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのデータを引用し、中国の主要都市の住宅価格はさらに30%ほど下落しなければ安定しない可能性があると予測しています。

国民のプロサイクリカル行動

 プロサイクリカル行動とは、景気動向に追随した投資活動を指します。具体的には、資産価格が上昇している時には購入を増やし、価格が下落している時には購入を控え、または売却する行動です。

 ある北京の不動産ブロガーはラジオ・フリー・アジアとのインタビューで、「住宅価格が下がると、誰も買いたがらない。今、人々の購買意欲は増えるどころか減少している。5月には1300万件が成約したが、これは政府の新政策が連続して発表されたことと、5月31日の政策予期によるものだ」と述べています。新政策が続かない限り、6月の住宅成約件数はさらに減少するでしょう。

 許仲翔氏も、中国の不動産市場の問題は市場全体が崩壊するかどうかではなく、人々の購買意欲が不足していることにあると見ています。彼は、「以前は不動産を購入すれば、年間10%の資産価値の上昇が期待できたから、不動産の価値が保たれるだけでなく、優れた投資手段でもあった。しかし、今はそうではない。これが市場を苦しめる本当の原因だが、当局はこれに対して何の対策も講じていない。実際、政府は不動産を価値の貯蔵や投資手段にされることを望んでいないのだ。むしろ、政府は人々が銀行からローンを借り、新興企業に融資するか、株式を購入して長期資本を注入することを望んでいる」と述べています。

 黄天磊氏は、中国の銀行の不良債権率は主に不動産開発業者によるもので、住民向け住宅ローンの不良債権比率は上昇しているものの、まだ「比較的健全な水準」にあると述べました。しかし、中国国民の最大の資産は不動産であり、資産の70~80%を占めているため、住宅価格の下落は必然的に消費に足を引っ張ることになります。

 許仲翔氏は、中国の不動産市場が中国経済に与える影響に加えて、「中国は輸出大国であるため、世界の主要輸入国が対中の関税引き上げなどの制限措置を取ることは、中国経済の発展にさらに大きな影響を与えるだろう」と述べました。

 現在、中国が直面している経済危機は、1990年代の日本の経済危機や今世紀初頭のサブプライムローン問題に端を発した米国の世界金融危機と匹敵し、中国経済に深刻な打撃を与えるとの見方が多いです。しかし、中国の社会制度は日本や米国とは本質的に異なるため、比較の対象にはならないという意見もあります。

 日本と米国は民主主義制度であり、政府は市場をマクロ的にコントロールするだけで、具体的な経済活動には関与しません。一方、中国当局は経済活動に直接介入しています。現在の中国の経済危機は、中国共産党が自らの利益を追求するために引き起こしたものであり、当局が中国経済を救うために自らの利益を放棄できるわけがないと考える人もいます。

(翻訳・藍彧)