中国教育部の初歩的な統計によると、2024年の大卒者数は1,179万人で、前年比21万人増の過去最高を記録するとのことです。
卒業シーズンが目前に迫っていますが、今年の大学生の就職率はどのような状況なのでしょうか。 中国の人力資源と社会保障部は、新たに19の職業を発表しましたが、その中には「ライブ配信者」も入っています。
中国のブロガー 「財形姉さん」は、文章を投稿し、もしライブ配信も職業と見なされるのなら、中国の就職率は100%に達し、今後失業する人はいなくなるだろうと揶揄しています。
「中国インターネット視聴覚発展研究報告書2024」によると、昨年12月現在、中国のライブ配信者は1,508万人に達しており、 これは平均100人に1人がライブ配信を行っていることを意味します。ライブ配信を本業とする若者が増えている中、この業界の実際の状況はどうなっているのでしょうか。
2%のライブ配信者が80%のお金を稼ぐ
中国科学院大学経済管理学院の呂本富(ろ・ほんふ)教授は、98%のライブ配信者は最低限の生活も維持できていないと考えています。
呂本富氏は4月に発表した文章の中で、現在、ライブ配信を主な収入源としている配信者の95.2%が月収5,000元(約11万円)以下で、月収10万元(約210万円)以上の配信者はわずか0.4%に過ぎないというデータを示しています。
つまり、2%のキャスターが80%の収入を得ており、残りの98%は最低限の収入さえ確保できない状況なのです。
菏沢の 「郭有才現象 」が物議を醸す
山東省菏沢市(かたくし)で、屋台で串焼き肉を売っていた郭有才(かく・ゆうさい)さんが、自身の歌声を頼りに一夜にして人気を博しました。
5月中旬から、スーツヘアに口ひげを生やした郭有才さんは、長い間寂れていた菏沢南駅前で1990年代の台湾の歌「約束」を熱唱し、その様子をライブ配信しました。思いがけないことに大ヒットし、わずか10日間で郭さんのTiktokフォロワーは1,000万人を超え、1日の収入は最高で380万元(約8,200万円)を超えました。 山東省の地級都市である菏沢市も数日のうちに、毎日40万人が訪れるホットな観光スポットに変貌し、全国各地から多くの人々が殺到し、郭さんの歌う姿をライブ配信しました。
もちろん、郭さんが爆発的に人気を集めたのには理由があります。 彼の歌声は、数え切れないほどの同年代の人々の苦悩や痛み、および成金への憧れや欲望を代表しているのです。歌に込められた彼の感情とオーバーなジェスチャーが相まって、人々の心を揺さぶりました。
郭さんの歌声は70年代、80年代生まれの人々の記憶を呼び起こし、この世代の疲れた心を癒し、心の琴線に触れました。
「世界新聞網」の5月24日の報道によると、郭さんが脚光を浴びると、地元政府は一夜にして道路を緊急補修し、さらに中継車3台を派遣し、郭さんが地元の文化と観光経済を活性化させることを期待していています。
菏沢南駅前の広場には毎日多くのファンが駆けつけ、郭さんはライブが終わると人々に取り囲まれました。郭さんの成功を目の当たりにした多くの若者は、ネット有名人になれば一夜にして大金持ちになれると思い、次々と郭さんの真似をして菏沢南駅でライブ配信を行いました。ネット上に投稿された動画によると、熱狂的に踊る人や棍術を披露する人、スオナを吹く人、孫悟空の格好をした人など、様々な芸を披露し、それをライブで配信しています。
しかし、爆発的な人気が出てわずか10日後、微博には郭さんの影響を受けて出現した「鬼の群舞のようなライブ配信」は 「社会の腫瘍 」であるとの批判の声が出始めました。これを受け、当局は駅周辺で関連する活動を禁止する告知を出し、郭さんも一時的にライブ配信を停止すると発表しました。
この「郭有才ブーム」はわずか10日間で幕を下ろしました。多くのメディアは、このブームは菏沢市の観光商品である牡丹の開花期間よりも短いとからかっています。
ライブ配信現象の背後にある経済不況
ボイス・オブ・アメリカ(VOA)6月1日の報道によると、浙江省杭州市で電子商取引業に従事する何(か)さんは、地位も名声もない人々の感動的な物語は多くの人々に一攫千金を夢見させ、炎に群がる蛾のようにライブ配信に群がるようになったと語っています。
台湾企業「ブラボー・アイデアズ(創意点子)」の創設者陸意志(りく・いし)氏は、素人の爆発的な人気は 「偶発的であるが、必然的でもあり 」、プラットフォームが素人の有名人とファン経済を作り上げたあとは、正確なビジネスモデルとかなりの経済規模のサポートが必要になると述べました。
陸氏は、努力して一晩で成功を成し遂げた人の中で、平凡に見える人ほど人々の共鳴を呼びやすく、それらは背後の設計者によって意図的に作り上げたイメージであり、底辺の感動的な物語はコンピュータのアルゴリズムを介して大量のアクセスを稼ぎ、最終的にそれをお金に変えるのだと指摘しています。
ライブ配信で一夜にして突然人気爆発する現象は中国で度々見られています。昨年5月の山東省淄博市の串焼き肉ブームから、今年3月の甘粛省の「天水マーラータン」ブーム、4月の河南省開封市の仲人(なこうど)王さんブーム、5月の菏沢南駅の郭有才現象に至るまで、そのブームの持続期間はますます短くなっています。
これらの現象に対して、アメリカ在住の経済学者デービー・ファン(Davy Jun Huang)氏は、この種のいわゆる「ネット有名人観光スポット」は多くの場合、薄っぺらな詐欺であり、群衆の心理を利用しているだけで、実際には健全な発展モデルではないと分析します。また、「文化的価値があり、社会の全体的な発展に有利な旅行プロジェクトを打ち出してこそ経済を活性化させることができる。中国はこの分野で非常に不足している」と述べています。
在米中国専門家の王赫(おうかく)氏も、「地域の特色を発見し、育てることにもっと力を入れる必要がある。中国には数千年の歴史があり、各地域にはそれぞれの特色があり、この分野で真剣に研究し、力を入れれば、経済発展の一つの方法になる可能性もある。 しかし、現時点では、大袈裟なものや模倣が多く、本当に力を入れているものは非常に少ない。だからこれらは一時的な現象で、その多くは風のように過ぎ去っていく」と述べています。
(翻訳・銀河)