中国の不動産市場のリスクがすでに金融システムに波及し、銀行が差し押さえ住宅の受け入れを拒否し始めています。最近、中国金融監督管理総局局長の李雲澤氏が、「規格住宅(商品化住宅)」の未完成リスクの処理に全力を尽くすと述べました。
銀行が差し押さえ住宅を拒否し、月々の返済額を引き下げる
滞納による差し押さえ住宅とは、主に住宅購入者が銀行と個人向け住宅ローン契約を結んだ後、連続3ヶ月または1年以内に合計6ヶ月分の返済が滞納した場合、銀行がこれを差し押さえ物件と見なし、同時に「滞納の督促状(とくそくじょう)」を発行することを指します。その後も返済しない場合、または返済計画の変更を銀行と交渉できない場合、銀行が裁判所に訴訟を提起し、このような住宅は差し押さえ住宅となります。次に、裁判所が住宅を競売にかけます。債務者が抵当権設定契約を履行できず、債務を返済できない場合、債権者がさまざまな裁判手続きを経て裁判所に強制執行(差し押さえ)を申請し、債務者名義の住宅は競売にかけられ、競売で得た代金で債権を弁済することになります。
差し押さえられる住宅の増加は、銀行業界の不良債権リスクの増大を意味します。
中国の差し押さえられる住宅の数は増加の一途をたどっており、2017年には抵当流れ住宅が9000戸に過ぎなかったのが、2019年には50万戸に急増しました。2023年末まで、差し押さえ住宅は350万戸を超えています。銀行は大量の差し押さえられた住宅を抱え、売却できずに資金回収ができない問題に直面しています。
銀行が月々の返済額を引き下げるケース
最近、中国のソーシャルメディア「ウェイボー(微博)」で、ある人が遭遇した思わぬ出来事を次のように投稿しました。
「2021年に175万元(約3760万円)をかけて福建省福州市閩侯(びんこう)大学城で住宅を購入し、月々6350元(約136000円)の住宅ローンを返済していたのだが、中国経済の悪化の影響で、3ヶ月前から住宅ローンの支払いが途絶えている。銀行から丁寧なあいさつの電話があったが、実際には月々の住宅ローン返済への督促だった。滞納が4ヶ月続くと差し押さえ住宅の手続きが始まる予定だった。しかし、銀行から次のような通知を受け取った。銀行は住宅を差し押さえせず、月々の返済額を4分の1に下げる「優遇措置」を2年間続け、その期間中に契約通り返済すれば、2年後に改めて話し合いをするというものだった」
福建省で起こったこの「銀行の差し押さえ住宅拒否」は氷山の一角に過ぎません。差し押さえ住宅を手にしている多くの銀行が、訴訟を急がず、債務者を説得し返済を再開させるための慎重な方法をとり始めています。
住宅が差し押さえになった原因
中国で差し押さえられる物件が急増している主な原因は3つあります。
第一に、ここ2年間で多くの都市で不動産価格が大幅に下落しました。住宅価格が30%下落した都市もあります。この状況下で投資目的の購入者は損失を減らすために住宅ローンの返済を中断し、差し押さえを選びます。
第二に、住宅を購入した後、多くの購入者が毎月のローン返済を期限通りに行っていました。しかし、中国経済の不振により収入が減少したり失業したりしたため、返済のプレッシャーを感じて差し押さえざるを得なくなりました。このような人たちは返済を望んでいても、継続する能力がないのです。
第三に、周囲の人々が不動産投資で利益を得ているのを見て、自分の経済力を考えずに急いで住宅を購入した人たちがいます。現在、不動産価格が下落し続け、収入も減少したため、これらの人々も差し押さえを選んでいます。
不動産危機が地方政府に波及
中国金融監督管理総局のウェブサイトが5月24日に発表した情報によると、李雲澤局長は貴州省を視察した際、地方政府、不動産企業、金融機関がそれぞれの責任を果たし、すでに販売されているがまだ引き渡されていない建設中の住宅プロジェクトを重点的に支援し、未完成物件の問題を慎重に解決するよう強調しました。
中国経済の見通しが暗く、不動産市場に依存する地方政府の財政収入が減少し、債務危機が迫る中、貴州省政府は率先して債務問題を解決できないと表明しました。
貴州省政府発展研究センターは以前、財政金融研究部門が貴陽市貴安新区、遵義市(じゅんぎし)、畢節市(ひっせつし)、六盤水市(ろくばんすいし)などを訪れ、「貴州省地方政府の債務状況を解決するための特別調査研究」を行ったとウェブサイトに掲載しました。その調査結果、地方債務問題が重大で緊急に解決すべき問題であることが判明しましたが、財力が限られているため、債務解決作業が非常に困難であり、「自力では効果的に解決できない」ことが分かりました。
債務解決とは、政府の財政内資金や融資プラットフォームの利用可能資金を活用し、一連の政策やプロジェクトと連携して、政府の債務および隠れ債務を解決することを指します。
貴州省財政庁の統計データによると、2023年末までに、貴州省の債務残高は地方政府の隠れ債務を除いて1.5兆元に達しています。
隠れ債務とは、中国の各地方政府がバランスシートに記載しない融資プロジェクトのことで、金融市場では依然として地方政府の負債と見なしています。現在、中国財政部は地方政府の隠れ債務の規模についてのデータを公表していません。
不動産と政府債務のリスクが金融システムに波及
中国人民銀行(中央銀行)の統計データによると、全国の銀行部門の不動産関連の不良債権率は2022年の4.06%から2023年の6.48%に上昇しており、急増しています。不動産関連の貸出残高は全貸出業務の40%を占めています。
中国当局は5月17日に多くの措置を発表し、1兆元(約21兆円)の融資を提供し、抵当貸出の金利規定を緩和し、地方政府が一部の未完成建築物および未販売の住宅を購入することを認めました。
これらの措置の一環として、中国人民銀行は3千億元の借換枠を設定し、国有企業が「適正な価格」で完成済みの未販売住宅を購入し、中低所得者層向けに分譲される低価格の住宅建設に利用できるようにすると発表しました。
過去2年間で、中国当局は一連の措置を講じたが、不動産業界の復興には成功していません。不動産業界の最盛期には、全国GDP(国内総生産)の4分の1を占めていたが、今や中国経済の大きな足かせとなっています。
アナリストは、中国当局が不動産市場への介入を決定したことは重要な動きであるが、全国の数十兆元と推定される不動産在庫と比較すると、提供される1兆元の融資規模は微々たるものであると述べました。
(翻訳・藍彧)