2020年以降、中国の出生率は減少を続けており、2023年には261年ぶりの最低値を記録しました。
また、ここ数年では新型コロナにより大量の中国人が死亡しています。2022年7月、上海市公安局のデータベースから中国人10億人分の個人情報が流出しました。 専門家は、「このことは、データの流出時点で中国の人口は10億人しかいないことを意味している。つまり、新型コロナで4億人が死亡した」と分析しています。
低すぎる出生率と驚異的な死亡者数が相まって、中国では深刻な人口危機が発生しています。こうした背景から、中国各地の地方政府は人を呼び込んで人口を増やす方法を模索しています。
各地で人の取り合い
遼寧省瀋陽市が5月13日に新たな規定を発表しました。新規定に基づいて、瀋陽市政府はこれまでの戸籍制限をほとんど撤廃しました。これまでとは打って変わって、申請すれば誰でも瀋陽市の戸籍を取得することができるとのことです。
人口危機はすでに全国的な問題となっています。昨年から、中国の多くの都市が人口増加のために、戸籍の取得制限を緩和する様々な政策を打ち出しました。 この動きは「人の取り合い」と呼ばれています。
例えば、河南省鄭州市は昨年1月から、「一人が家を借りれば、家族全員に市の戸籍を与える」という政策を開始しました。広東省広州市は昨年7月、7つの区で戸籍政策を緩和することを提案しました。江蘇省南京市は昨年11月、ポイント制を導入し、信用スコアが100点であれば賃貸契約でも戸籍取得が可能になる政策を提案しました。
江蘇省蘇州市も、賃貸契約で戸籍取得を可能にする政策を提案しました。浙江省寧波市は、3年間市内に居住すれば戸籍が取得できるという政策を昨年11月から実施しています。山東省青島市は、市内で家を借りている人であれば、本人およびその近親者の戸籍取得を認めると発表しました。湖北省武漢市は昨年12月、住宅購入者に限定していた戸籍取得条件を解除しました。
戸籍政策による外来人口の誘致のほかにも、各都市はさまざまな施策を採っています。
以前は毎年、大学卒業時に合わせて専門職人材の誘致活動が行われていましたが、今では多くの都市で通年のテーマとなっています。 例えば、江蘇省揚州市はブランドを立ち上げて、年間を通して人材誘致を行っており、山東省青島市は「採用ナイトバザール」を開催し、山東省日照市は「毎日仕事があり、毎月採用がある」というスローガンを打ち出しました。
中国で崩壊する近代の身分制度
中国各地の地方政府が打ち出したこれらの新たな措置によって、中国共産党(中共)が政権簒奪以来、人々の移動を制限するために厳格に実施してきた戸籍制度が事実上廃止されたのに等しいのです。
政権を樹立した翌年の1950年、中国共産党は独自の厳格な戸籍制度を開始しました。1958年、中国共産党は全住民を「農業戸籍」と「非農業戸籍」の2つに分類しました。いわゆる「農業戸籍」は農民の代名詞であり、「非農業戸籍」は都市戸籍を指しています。この戸籍は一生涯変えることができず、生まれた子供も親の戸籍を受け継がなければなりません。この制度によって、中国の人々は、自由な移動を完全に制限されました。
農業戸籍に分類されるのは農民であり、「農民」が都市部の戸籍を持つ「労働者」になるのはほとんど不可能でした。一方、都市部の戸籍を持つ人々も自由に移動することはできません。 中小都市の出身者が北京や上海のような大都市に移住できる可能性は極めて低く、ほとんど不可能でした。
この「農民」と「都市住民」の区分は、一種の見えない身分制度でもあり、都市戸籍を持つ人々は通常、より多くの福祉や権益を享受することができます。このため、中国の戸籍制度をインドのカースト制度になぞらえ、「中国の現代カースト制度」と呼ぶ人もいます。
1978年、中国農村部の労働人口の一人当たり平均年収はわずか133元でした。 一方、当時の都市戸籍の労働者の平均月給は約40元で、年収に換算すると480元、農民の3.6倍でした。都市戸籍を持つ人々は、病院で公的医療を受け、定年退職後には年金を受け取る権利があります。 一方、農民には公的医療を享受する権利もなければ、年金もありません。
中国科学院の元研究員で日本在住の王勇博士は、次のように述べています。「私が大学で学んでいた1980年代、田舎出身の同級生がいた。その同級生の父親が肝臓がんと診断されて都会の病院に行ったが、何の治療も受けずに田舎の実家に帰った。なぜ治療を受けなかったのか。 農民である彼は、政府の公的医療サービスの対象外であり、家族のわずかなお金では治療費を支払うことができなかったのだ。治療費を借金すれば、家族全員が莫大な借金の奈落の底に突き落とされる。家族に負担をかけたくない父親は治療を受けずに、家で死を待つことにした。一方、私の両親は都市戸籍なので、私も生まれた時から都市戸籍を持っていた。都市部での生活経験から、病気になったら病院に行くのが当たり前だと感じていた。だから、同級生の父親のことを知ったときは驚きを禁じえなかった。中国の農民の運命がこれほど悲惨だとは夢にも思わなかった」
「同級生の父とは対照的に、私の祖父はとても幸運だった。祖父は1980年代半ばに亡くなった。生前は定年退職した普通の労働者だったが、毎月15元の年金を受け取っていた。 さらに、父と叔父が毎月いくらかのお金を渡していたので、祖父と祖母は不自由なく生活できていた。一方、農村部に住む祖父の弟は、年金がまったくなかった。私は父と一緒に農村部に住む祖父の弟を訪ねたことがあり、父が特別にまとまったお金を渡したが、そのときの祖父の弟の感激した表情は今でも忘れられない。祖父は晩年、突然の脳出血で倒れた。公費負担の医療サービスを受けることができたため、病院では比較的良い治療を受け、退院後は杖をついて室内を歩けるようになった。当時、父と母の両家の複数の親族が、祖父の治療のためにさまざまな薬を購入したが、そのかなりの部分が公費負担だった。農民だったならば、家で横になって死を待つしかなかっただろう」
中国共産党当局はいまだに戸籍制度の廃止を拒んでいます。しかし、経済発展の需要や人口減少が続いていることから、戸籍制度の厳しい執行をある程度緩めています。 中国公安部が今年1月に発表したところによると、東部の「ごく一部の」メガ都市と中部・西部の一部省都を除き、他の都市では戸籍制度が全面的に自由化され、制限も緩和されたとのことです。
(翻訳・銀河)