中国では近年、目標を下げてのんびり過ごそうとする若者のライフスタイルを指す「タンピン(躺平)=寝そべり)」という言葉が流行語となっています。
20代女性のタンピン生活
最近、中国のネット上で、「00后(2000年代生まれ)が10万元(約210万円)を蓄えてから仕事を辞めて極めてシンプルな生活を送る」という投稿が話題になっています。
この20代の女性は、TikTok(ティックトック)での動画投稿で、仕事を辞めてから貯金の利息で半年間生活していると述べました。1日の利息収入は5元(約100円)にも満たないそうです。
この女性が投稿した一連の動画によると、10万元(約210万円)の預金利息は、1日約4.70元(約100円)で、このわずかなお金で食費を賄っています。彼女は起床が遅いため、朝食を抜いて昼食をとります。昼食はジャガイモ1つと唐辛子の炒め物にご飯1杯、夕食はトウモロコシ1本で済ますこともあります。別の日には、昼食がトマトと卵の炒め物にご飯1杯、夕食が焼きおこげとポテトスティックのこともあります。
栄養失調を心配するネットユーザーもいるが、彼女は「毎日野菜を食べている。身長が167センチで体重が約53キロ、毎日1200カロリーを摂取すれば十分。毎日数元での食事は健康でお腹も満たされる。また、コレステロールが少し高いので、医師にもっと野菜を食べるよう言われている」と答えました。
彼女はまた、仕事を辞めたが、アルバイトや露店をしており、お金を稼いだときは贅沢な食事をするので、健康状態は良好だと述べました。
「毎日仕事に行かず、物欲の少ない生活をしていてつまらなくないのか」と聞かれた彼女は、「毎日とても充実して過ごしている。自然に目が覚めるまで眠り、それから自炊する。暇な時には、映画やドラマを見たり、体を鍛えたり、手作りのヘアクリップを露店で売ったりしている。最近は日々の生活を動画に記録している。これがとても面白いし、現在の生活状態にとても満足している」と答えました。
20代男性の考え
また、20代男性のティックトックでの投稿も話題となりました。
彼は次のように述べました。
「10万元の預金があると思っても、実際には一銭もないかもしれない。なぜなら、私たちのような20代前半で未婚・子供もいない若い起業家の9割は、両親と一緒に暮らしている。水道光熱費、食費、健康保険などはすべて両親が支払っている。両親の家を出て自分で家を買うか借りるかすると、家賃、食費、水道光熱費、健康保険料など様々な費用がかかる。これらすべてを考慮すると、10万元は足りない。はるかに足りない」
彼は例として、自分が広州市で起業した際の費用を挙げました。1か月の家賃が8180元(約17万円)、1か月の水道光熱費が1000元(約2.1万円)、車2台の駐車代が1か月2000元(約4.2万円)、車の保険料が1年で2万元(約42万円)かかっていたと述べました。「両親には、どれだけ稼いだかを自慢できない。これらの費用を考えると、1年で20万元(約420万円)がなくなっているからだ」と彼が述べました。
また、「多くの20代の若者が、両親の収入を自分の収入として扱い、自分がお金を稼いだと思っているが、実際にはそうではない」と指摘しました。
この男性の動画は、多くのネットユーザーから共感を呼び起こし、「本当にその通りだ」「あまりにも現実的!」といったコメントが寄せられました。
丁さんのタンピン
若い女性、丁璇(ていせん)さんは遼寧省凌海市(りょうかいし)でタンピンして生活を送っています。
丁さんはソーシャルメディアコンテンツの作成者です。多くの中国の若者と同様に、勤務先の会社がコロナ禍で経営不振に陥り、減給された彼女が生活費を節約するために、家賃の安い所に引っ越すことを決意しました。丁さんはネット上で凌海市の2LDKの物件を3万元(約64万円)という非常に安い価格で買えることを知り、即座に購入しました。凌海市は中国東北部の遼寧省にある小さな町です。
丁さんはABCニュース(オーストラリア)とのインタビューで、「3万元で住宅物件を買えるなんて、北京での1年間の家賃よりも安い。凌海市でタンピンして生活を楽しむことができる」と語りました。
近年、多くの丁さんと同じ「タンピン」の夢を持つ若者(特に女性)が、凌海市のような小都市で安価な不動産物件を探しています。丁さんは、「女性は職場で出世するのが難しいし、30歳前後で結婚して子供を持つと職場では間違いなく差別される。大都市で必死に働いても最後は差別されるなら、小さな町で家を買った方が気楽な逃げ道だと思う」と述べました。
18歳から35歳の中国人6万人を対象にした2023年のオンライン調査によると、回答者の約12.8%が「タンピンしたい」と答え、28.5%が「タンピンしたいが実現できない」と答えました。
「物件購入・結婚・子供持ち」コストが高すぎる
26歳の酥酥(そそ)さん(女性)は以前、上海でネットショップを経営していたが、遼寧省阜新市(ふしんし)で4万元(約85万円)の2LDKの家を購入しました。酥酥さんは現在収入がないが、心配していません。
彼女はABCニュースに対し、「毎月の出費がごくわずかで、月に1000元(約2.1万円)あれば十分だ」と述べました。酥酥さんは、自分のような若者が家を買ったり、結婚したり、子供を持ったりすることにお金がかかりすぎるため、タンピンしていると語りました。
希望を失った中国人
あるネットユーザーは次のように述べました。「中国人の不安や焦燥(しょうそう)は当然のことで、中国では不確実性があまりにも多いため、一歩間違えれば意外や不幸が起こる。そのため、これまでのすべての努力、甚だしい場合は数世代にわたる努力や貯蓄が一瞬にして水の泡になってしまう可能性がある。多くの例が挙げられる。たとえば、コロナ禍で破産した企業、洪水で家や車を失った人々、恒大グループの未完成物件を購入した人々、強制的に取り壊された工場や家屋など。例は枚挙にいとまがない」
総じて、中国人は生活の希望を失いつつあります。
中国の時事コメンテーターである張豊氏は「自信や希望は本当に貴重なものだ」と述べました。「多くの人が憂うつになり、何事にも興味を持たなくなっている。退屈、タンピン、どんな言葉が使われようとも、実はすべて内面の虚無を表している」と述べました。
出世のために努力したい人は、努力を重ねても成果が上がらない「激しい競争」のジレンマに陥り、また、他人に利用されるだけの存在になってしまっていると感じることもあります。
(翻訳・藍彧)