家賃無料でも誰も住まないアパート

 中国の吉林省に住む女性、趙貝拉(ちょうかいら)さんは2009年、農村の古い家と小さな農地を使って、5つのアパート物件と2つの店舗物件を手に入れた時、自分が宝くじに当選したかのように思いました。しかし数年後、中国の不動産市場が長期的な危機に陥り、彼女が手に入れた「宝くじ」がもはや換金不可能であり、そして所有する物件が家賃無料でも誰も住まない状態になっていることを知りました。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙4月23日の報道によると、中国の不動産大手、万達集団(ワンダ・グループ)を筆頭とする不動産開発業者が当時、中国吉林省にある人口の少ない村を選んで、28億ドル(約4300億円)を投じて、この地域をスキー場、ゴルフ場、狩猟場、5つ星ホテルを備えた高級リゾート地に建設する計画を立てていました。開発業者は、地元住民の古い家や農地と引き換えに、新築のアパートを提供していました。

 現在、趙さんが所有している5つのアパートはすべて空き家となっており、店舗物件のうち1つだけにテナントが入っています。この開発プロジェクトは数年前に停滞し、約束されていた観光業の繁栄も実現しませんでした。趙さんは非常に絶望的になり、テナントが管理費などの基本的な費用を支払うことに同意すれば、アパートを無料で賃貸すると申し出ました。

 しかし、この小さな町への人口流入がほぼないため、趙さんが無料で貸し出ししても、関心を示す人はいません。「無料であっても、誰もそこに住みたがらない。町の住民は皆、自分の持ち家がある」と彼女が述べました。

 不動産業界は中国経済において巨大な役割を果たしており、家計資産の約60%から70%を占めています。しかし、この業界は近年、危機に陥っており、恒大グループや碧桂園(カントリー・ガーデン)などの不動産大手が次々と経営破綻し、デフォルトの状態に陥り、購入者が激減し、不動産の売上は激減しています。

中国にはどれほどの空き家があるのか?

 中国の不動産業界がこれ以上進展しなくなった理由は複数あります。1つは、中国で建設された住宅の戸数が実際の需要をはるかに上回っていることです。これは、過剰供給により市場が飽和していることを示しています。週刊投資金融情報専門紙「バロンズ」の報道によると、現在中国では数百万戸もの完成した住宅が未だ売り残っているとされています。

 もう1つの理由は、不動産価格の過剰な上昇が、多くの家庭や投資家にとって手の届かないレベルに達してしまったことです。これにより、住宅の購入や投資が困難になり、需要が低下しています。また、政府の規制強化や金融政策の変更も、不動産市場に影響を与えています。これらの要因が組み合わさり、不動産業界の発展が停滞していると言われています。

 また、中国欧盟商会のヨルグ・ウケッテ会長が今年2月、米CBSテレビが放送するドキュメンタリーテレビ番組『60ミニッツ』で、中国に実際にどれだけの空き家があるかを尋ねられた際、次のように答えました。「全ドイツの人口が8200万人で、すぐにここに引っ越して来て住むことができる。(中国には現在)少なくとも8000万から9000万戸の住宅物件が空いており、未完成のままになっている」

 さらに衝撃的な発言は、中国国家統計局の元副局長である賀鏗(が・こう)氏が昨年9月の会議で、中国全国の空き家は約10億人以上が住むことができると述べました。

 異なる情報源からのデータには大きな違いがあるが、共通しているのは、中国で建設された住宅があまりにも多すぎるということです。不動産の過剰な開発が直接的な原因となり、多くの建築プロジェクトが中途半端に終わっています。

 フランス通信社(RFI)は昨年7月、中国の遼寧省沈陽市近郊にある「国賓大廈(こくひんたいか)」という開発プロジェクトが放棄されたという記事を掲載しました。元々豪華な別荘を建設する予定だった場所には、現在、牛の群れと時折訪れる冒険家だけが住んでいます。この開発プロジェクトは当初、上海の政府系不動産開発会社、グリーンランド・ホールディングス(緑地控股集団)によって計画され、2010年に着工されたが、その2年後に放棄され、未完成物件のままになっています。

 国賓大廈は、中国全土に散在する多くの放棄された開発プロジェクトの氷山の一角にすぎません。

中国の不動産業に未来はあるのか?

 中国の不動産市場はここ数年低迷が続いているが、初期には、販売量の減少にも関わらず、住宅価格は一定の弾力性を保っていました。しかし、香港の不動産代理業大手、中原地産(センタライン・プロパティーズ)のデータによると、2022年までには中国の複数の最も発展した都市の住宅価格が下落し始め、市場価値は5分の1が蒸発しました。これにより、多くの人々が不安を感じており、個人の人生計画にも影響を及ぼしています。

 中国の大手デベロッパー100社による第1四半期の新築住宅販売は、前年同期比で47.5%減少し、過去最低の水準に近づいています。また、今年の3月には、中国の最も発展した都市での中古住宅の価格が前年同期比で7.3%下落し、これは2011年以来の最も深刻な下落率です。

 これらの問題は、多くの中国の中産階級が不動産市場への信頼を失い、需要にさらなる影響を与え、中国経済全体に追加のリスクをもたらしています。

 多くの中国人が不動産で財産を増やし、家計資産の最大7割が不動産に投資されおり、「住宅価格が5%下落するごとに、約19兆元(約400兆円)の家計資産が失われる」とブルームバーグが報じました。明らかに、大幅な価格引き下げの結果、不動産業者や地方政府、そして住宅所有者の利益が深刻に損なわれています。

 米国の大手投資会社フィデリティ・インベストメンツの見解では、中国の現在の住宅価格が一般国民の購買力に見合うレベルに達するには、さらに80%下落する必要があります。したがって、中国の不動産業界は「どう動いても行き詰まる」という奇妙なループに陥っています。

趙さんと不動産業者との共通の価値観

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、趙貝拉さんは現在故郷を離れ、長春市で仕事を探しています。彼女は、もし家が売れても、得た資金を中国の不動産市場に再投資するつもりはないと述べました。「もし売れたら、その収益で米ドルや米国債、ビットコインを購入する」

 不動産業者も趙さんの価値観と同じだったでしょう。なぜなら、不動産業者は当初、趙さんの家と農地を買い取った際、彼女にお金を支払う代わりに不動産物件であるアパートと店舗を提供していたからです。

(翻訳・藍彧)