バースデーケーキ(pxhere, CC0)

 誕生日を迎えられる際に、どのような祝い方をしていましたでしょうか?バースデーケーキを食べて、願い事をしながらロウソクを吹き消す。これは全世界共通の誕生日の祝い方かもしれませんね。このやり方は実は、古代ギリシャの伝説に由来していることをご存知でしょうか?

 古代ギリシャでは、月の女神への信仰が篤かったのです。その月の女神の誕生日を祝う際には、祭壇に蜂蜜のお菓子を供え、同時に神聖な雰囲気を醸し出すために、たくさんのロウソクを灯し、月の女神への畏敬の念を表現しました。やがて月の女神だけでなく、古代ギリシャ人は子供の誕生日でも、軽食や菓子類をテーブルに並べ、ロウソクを灯してお祝いしました。火を灯したロウソクには不思議な力があり、誕生日を迎えた子供が心の中で願い事をし、すべてのロウソクを一息で吹き消すと願いが叶うと信じられているのだそうです。これが段々と世界中に広まり、今は誕生日祝いの定番になりました。

 では、誕生日にはケーキの他に何を食べるのでしょうか?もちろん、国によって代表的なバースデーフードは異なり、その食べ物が意味するものも違います。親への感謝を思い起こさせるものであったり、誕生日を迎える本人の長寿や幸福と健康を祈ったりと、実に様々なのです。今回は、世界中の誕生日フードにはどのようなものがあるか見ていきましょう。

1.スペインの誕生日パーティーの必需品「アーモンドトゥロン」

 スペイン人にとって、生命の誕生は神聖なものであり、家族の誕生日は祝うべきものと信じられています。誕生日を迎えると、家族や友人たちは、その日が本人にとって特別な一日になるよう、巧みな工夫を凝らします。おもてなし好きで温かい心をもつスペイン人にとって、盛大なパーティーを企画することができるこのタイミングを逃すはずがありません。

店頭に並べられるトゥロン(Tamorlan, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)

 パエリアは誕生日パーティーで最も代表的な食べ物で、もちろん、ケーキも欠かせません。その他、スペイン人の誕生日パーティーで一般的に食べられているのは、アーモンドと蜂蜜から作られ、砂糖菓子のような味のするスペイン独特の伝統的なスイーツ「アーモンドトゥロン」があります。トゥロン(Turrón)とは、フランスのヌガーに似たスイーツです。ヌガーが30%程度しかナッツを使用しないのに対して、トゥロンは70%ものナッツを使用します。めでたい誕生日では、たっぷりのアーモンドの香りに包まれることになります。

2.台湾人の誕生日に欠かせない食べ物「豬腳麺線」

 漢民族の伝統では、50歳を過ぎると、その誕生日が「寿(じゅ)」と呼ばれ、誕生日を祝うことが長寿を祝う意味から「祝寿(しゅくじゅ)」と呼ばれます。

 台湾の民間の風俗習慣によれば、ほとんどの人は60歳になってから、誕生日を祝うパーティーが「寿宴(じゅえん)」へと変わります。そんな伝統的な誕生会「寿宴」では「豬腳麺線」と呼ばれる豚足そうめんが欠かせない料理です。豚足は身体の力強さと健康を表し、そうめんは長寿の象徴であるため、豚足そうめんを食べることは美味を楽しむだけでなく、無病息災の祈りと永らえる長寿を願う意味もあります。

豬腳麺線(ネット写真)

 現在、元祖の「豬腳麺線」を味わおうとしても容易ではない状況です。ですが、台湾各地には今でも伝統を守り、お客様一人ひとりに美味しさのおすそ分けを続けている老舗があります。複雑な味付けをせずシンプルな味わいの豚足そうめんは、古来の「力強さ」と「長寿」という意味を象徴しています。

3.韓国の誕生日の伝統「昆布スープ」

 現代の韓国人もバースデーケーキを食べて親戚や友人と誕生日を祝います。しかし、多くの韓国人は今でも依然として、家族の誕生日には昆布スープを用意するという伝統的な習慣を保っています。

昆布スープ(대경라이프, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

 朝鮮半島は山と丘陵が多く土壌が痩せていたため、初期の住民たちは豊かな産物を手に入れる機会がなく、産婦はお産の時でさえ栄養を付けるために昆布を買うことしかできませんでした。一方、昆布はカルシウムとヨードが豊富で、しかも値段が安いだけでなく、血液を浄化させることができ、さらに栄養不足のために産婦の歯や髪が抜ける問題を軽減し、産後の身体の回復にも役立ちました。

 そのため、韓国人が誕生日に昆布スープを飲むのは、自分を産んでくれた母親との思い出を残し、母親に対する敬意を表すためなのです。

4.中国の伝統的な長寿祝いの代表「桃」

 桃は長寿祝いのプレゼントの代表格で、ますます寿命が延びるようにとの意味から来ています。伝説によれば、戦国時代、斎の国の武将、思想家・孫臏は母親の誕生日を祝うために桃を使って、母親の顔を輝かせたといいます。

 孫臏は18歳で家を出て、兵法を学ぶために鬼谷子(きこくし)を師として弟子入りしました。12年間、家を離れた後、母に会いに故郷に戻るために休暇願いを申し出ました。鬼谷子は桃を一つ摘んできて、母親の誕生日のお祝いに持って帰るようにと孫臏に渡しました。孫臏は家に帰ると、師からもらった桃を取り出して母親に差し出しました。母親は一口食べて「この桃は氷砂糖よりも蜂蜜よりも甘いわ」と言いました。そして彼の母親は桃を食べ終わらないうちに全身が若返り、顔の皺さえも消えてしまいました。

日本で販売されている桃饅頭(katorisi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 後世の人々は孫臏に倣って、両親の長寿と健康を祈り、お祝いの気持ちを表すために桃を贈ったり、小麦粉で作られた桃の形がする点心を一緒に食べたりしました。

 さまざまな国や地域の誕生日料理には、願い事や感謝、健康長寿を祈るなど、伝統文化の伝承から生まれた大切な意味が込められていることが分かります。皆さまの誕生日には、美味しい食べ物を味わうと同時に、その食べ物にまつわる素敵な意味合いを思い出していただければと思います。

(翻訳・夜香木)