4月10日、米メディア「ワシントン・タイムズ」は、中国共産党の最高意志決定機関である中央政治局常務委員会の委員7人の汚職と隠し資産について、米情報機関が報告書を作成中であるとの記事を掲載しました。この報告書ができあがれば、米メディアで報道される可能性があり、中国の政界に激震が走るのは間違いないことと思われます。この記事の著者は、「ワシントン・タイムズ」のコラムニストで記者のビル・ガーツ氏で、米軍や元ホワイトハウス首席戦略官のスティーブ・バノン氏とも関係が深いとされています。ガーツ氏の著書『誰がテポドン開発を許したか-クリントンのもう一つの”失敗”』は全米ベストセラーとなり、1999年には日本語版も出版されました。

 報告書の標的は、中国共産党の習近平総書記および中央委員会の委員205人、政治局委員25人、政治局常務委員7人を含む中国共産党の高官であることが明らかになりました。このほか、中国の各省の共産党書記29人の汚職および隠し資産についても、米情報機関が報告書を計画しているといいます。

 では、米国はなぜこのような報告書を作成するのでしょうか?米国のアブリル・ヘインズ国家情報長官は昨年12月から、2023会計年度国防権限法(NDAA)第6501条に従い、ブリンケン国務長官と協力して、「中国共産党指導部の資産と汚職活動」に関する非機密扱いの報告書を完成させ、公表しようとしています。おそらく、腐敗した中国共産党当局者が米国に隠した多額の資金が、米国の金融市場を妨害、または米国の国防財政に影響を及ぼしているのでしょう。

 米国とその西側同盟国の諜報能力をもってすれば、中国高官の腐敗や海外資産に関する多くの情報をすでに把握していると思われます。例えば、2016年4月3日、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)はパナマ文書の一部をウェブサイトで公開し、140人以上の世界の政治家やその家族が税率がゼロか極端に低いタックスヘイブンを使って蓄財や金融取引をしていた実態を暴露しました。そのうちの3分の1近くは香港と中国本土に事務所を置いており、中には中国共産党の元政治局常務委員劉雲山(りゅう・うんざん)の娘婿である賈麗青(か・れいせい)や張高麗(ちょう・こうれい)の娘婿である李聖潑(り・せいはつ)、元国務院総理の李鵬(り・ほう)とその娘の李小琳(り・しょうりん)、元中国人民政治協商会議全国委員会主席の賈慶林(か・けいりん)の孫娘の李紫丹(り・したん)と賈慶林の娘婿の李伯潭(り・はくたん)、中国共産党元副主席曽慶紅(そう・けいこう)の弟である曽慶淮(そう・けいわい)、鄧小平の姪の栗小兵(りつ・しょうへい)とその夫である兪一平(ゆ・いっぺい)などが含まれています。

彼らの資産はどれほど?

 香港の実業家、袁弓夷(エルマー・ユエン)氏は2021年8月、海外の中国語メディアに対し、中国共産党高官の海外資産は控えめに見積もっても約10兆ドルに上ると明かしました。あるメディアは、江沢民の孫、江志成(こう・しせい)だけでも、海外に少なくとも1兆ドル(約155兆円)の資産があり、すでに5000億ドル(約77億円)がロンダリングされていることを明らかにしました。新型コロナが世界的に大流行していた当時、米国と複数の国が中国高官の海外資産10兆ドル(約1550兆円)について調査し、コロナ被害の補償に充てようとしているという情報が流れていました。

 中国財政部財政科学研究所の賈康(か・こう)元所長は、2022年8月に微博に文章を転載し、スイス銀行が発表した情報によると、中国人100人だけでスイス銀行に預けている預金の合計は7兆8000億元(約167兆円)で、1人当たりの平均預金額は780億元(約1.6兆円)に上ると述べました。ウィキリークスによると、中国高官がスイス銀行に開設した口座数は5000に上り、その7割が中央政府の高官であるといいます。

 香港の雑誌「争鳴(そうめい)」はかつての報道の中で、国務院研究室、国家発展改革委員会などによる複数の調査報告書に基づき、約10兆2700億元(約220兆円)の資産が国外に流失していると結論付けています。主な資金源と経路は、1)中国共産党の高級・中級幹部とその家族、親族による長期にわたる蓄財、2)国有企業、私営企業、中外合弁企業の幹部とその家族が特権を利用したプロジェクト請負などによる資金、3)中国共産党の特権階級による闇金融を利用した国外への送金、4)中国資本の海外機構、海外にある地方政府機関およびその傘下企業の幹部による蓄財、5)公務や海外赴任を条件として企業を開業し、蓄財、6)移住や留学を利用して資金を海外に流出、などが挙げられます。

報告書による中国共産党への打撃

 米国在住の時事評論家蘭述(らんじゅつ)氏は4月16日、エポック・タイムズに対し、米国が中国高官の海外資産、特に政治局常務委員7人の海外資産を公表すれば、中国共産党への致命的な打撃は計り知れないものとなり、中国共産党の史上かつてない衝撃を受けることになると指摘し、「中国社会全体の中国共産党に対する見方を完全に変えさせ、社会内部に巨大な遠心力を一気に生み出すだろう」「(中国の)各レベルの政府機関が公務員に減給や規模縮小を強要し、多くの人が職を失っている現在、このような状況下で、この報告書が発表されれば、その影響は想像を絶するものになるだろう」と述べました。

 蘭述氏は、米国がどのような目的でこの報告書を公表するとしても、それは中国人民と全世界にとって大きな意味を持つと指摘し、「この報告書が本当に公表された場合、中国共産党は台湾問題を処理するエネルギーを失い、内部で発生するこの遠心力は中国共産党の体制全体を混乱に陥れるだろう」と述べています。

 ただし、これは中央政治局の7人の常務委員の海外資産が公開された場合のことを指しており、省レベルの幹部数人の資産が公開されるだけでは、打撃はそれほど大きくないと強調しています。

 米国の元外交官で元海兵隊大佐のグラント・ニューシャム(Grant Newsham)氏は、著書『中国が攻めてくるとき(“When China Attacks”)』の中で、「腐敗に対する人々の怒りが習近平と中国指導部を恐怖に陥れるだろう」と述べています。ニューシャム氏は、中国共産党の汚職腐敗の問題は、共産主義体制に根差しており、根絶できるものではないと指摘しています。

 また、汚職腐敗の調査は中国共産党のトップ500人とその家族から始め、繰り返し広く公表するよう提案しています。

(翻訳・銀河)