近年、中国当局は「貧困撲滅」の成果を自賛し、中国が繁栄しているというイメージを作り出そうとしています。しかし、約10億人の農村貧困層が貧困から脱却し、「奇跡を創造した」という主張は、現在、中国当局自身のデータによって否定されています。
中国の民間シンクタンク「胡潤研究院」は3月25日に「2024胡潤グローバル富豪リスト」を発表しました。このリストには、資産総額が10億ドル(約1500億円)以上の企業家として、世界各国から3279人が名を連ねています。最も多くランクインしたのは、814人の中国企業家で、中国はこの部門で第1位を占めましたが、昨年に比べて155人の減少が見られました。
テンセントの馬化騰CEO(53歳)の資産総額は前年比10%減の2500億元(約5兆2000億円)となり、中国の資産家ラインキングで1つ下げて3位になりました。
飲料水メーカーの「農夫山泉」創業者で、会長兼社長を務める鍾睒睒氏(70歳)は、純資産4500億元(約9兆4000億円)で、昨年より9%減少しました。
全体的に見ると、中国の「10億ドル企業家」の総資産額は合計で約19兆元(約400兆円)に達し、前年より15%の減少を記録しました。
中国の富豪たちの財産が減少した理由として、中国の経済不況の影響を受けているだけでなく、富豪たちが自身の財産を海外に移し、投資やリスクヘッジを行っているためと、専門家は指摘しました。現在、経済不況の影響を実際に受けているのは、中国を離れることができない中・低所得層の人々です。
また、中国国家発展改革委員会の下部機関が2023年12月に「中国収入分配年次報告2021」を公表しました。この報告書は、中国内の所得格差と経済状況に関する詳細な分析を提供しています。
程暁農博士が発見した3つの重要な事実
米国在住の政治・経済学者、程暁農博士は、YouTubeチャンネル「政経最前線」で3月31日に公開された動画の中で、中国当局のこの報告書に対して詳細な分析を行いました。報告書のデータから、程博士は3つの重要な事実を発見しました。
第一の事実は、中国の貧困層の人口が非常に多く、大多数の人々の所得が中国の最低賃金ラインの近くにあることです。報告書によると、2021年に約84%の人口が月収3000元(約6万円)未満で、2024年の最低賃金が月収2400元(約5万円)であることから、この84%の中国人の収入が最低賃金水準の近くにあることが示されています。
第二の事実は、中国の中産階級の人口が非常に少ないことです。低収入層の84%を除くと、残り最大で16%の中国人(約2億人)が中産階級に該当すると考えられます。この2億人のうち、1.5億人の月収は3000元から5000元(約6万円から10万円)で、これは台湾の最低賃金の約8割に相当します。程博士は、台北市と北京や上海などの中国の重要都市との物価水準に大きな差はないため、中国と台湾の物価水準は似ており、収入の比較も適切だとされています。
しかしながら、月収3000元から5000元(約6万円から10万円)の1.5億人は、その賃金水準が台湾の最低賃金より低いため、中産階級には算入されません。中国の富裕層(人口の約1%)を除けば、月収5000元以上を稼ぐのは総人口の4%未満、すなわち5000万人以下の中国人だけが、中国の中産階級と見なされます。中国の中産階級は人口のわずか4%を占めているのに対し、台湾の中産階級は人口の5割を占めており、比較すると台湾の中産階級の割合は中国の10倍以上にもなります。
程博士は、中国に広範な中産階級が存在するという主張は嘘であり、そのような状況が実現したことは一度もないと述べました。この事実が中国版TikTokで見られないのは、この真実が習近平氏の推進する発展、追い越し、崛起(くっき)するといった政治的言説と矛盾するためです。外国人が目にしているのは、中国の一握りの裕福な家庭が行う豪華な消費のみで、それは中国人口の1%に過ぎません。
第三の事実は、中国の中産階級が巨額の借金を背負い、生活が困難であり、いつ貧困層に転落してもおかしくない状況にあることです。中国の5000万人の中産階級は、3人家族で計算すると約1700万世帯に相当します。これらの世帯が、中国の消費市場と不動産市場を支える主要な支柱となっています。
中国人民銀行が公表した公式データによると、今年2月末時点で全国の住宅ローン残高は47.7兆元(約1000兆円)でした。このうち、富裕層が行う不動産投機目的のローンを除くと、約36兆元(約770兆円)が中産階級の住宅ローンです。この1700万の中産階級世帯における、1世帯あたりの平均不動産負債は212万元(約4500万円)となります。
これにより、多くの中産階級家庭は、給与が下がらない場合でも、退職するまで働かなければ、住宅ローンを完済できない状況にあります。つまり、現在の中国の中産階級が、生活を維持しているだけでも十分厳しい状態であり、新たに住宅を購入する余裕はありません。現在、中国で中古物件が成約件数の10倍も売りに出されているのは、このためです。
さらに、経済の不況が続けば、失業や収入減少が発生し、これらの世帯は住宅ローンの返済を中断せざるを得なくなり、最悪の場合、銀行から破産と宣告され、貧困層への転落が現実のものとなるリスクを抱えています。
中国の貧困層の真実
中国当局が発表したこの報告書について、時事評論家の蔡慎坤氏はXプラットフォームで、中国で月収2000元(約4万円)以下の人口は9.64億人に達し、月収1090元(約2万3000円)以下の人口は6億人で、全人口の42.85%を占めると指摘しました。
このデータは、故李克強首相が2020年5月に言及した「中国の6億人の月収が約1000元(約2万円)」という発言と一致しています。特に注目すべきは、月収2000元以下の人口がすでに9.6億人を超えているという事実です。
具体的には、月収1090元以下の6億人のうち、農村出身者の割合が75.6%にも上り、これは低収入層の大部分が農村地域に分布していることを示しています。都市と農村の格差は依然として中国で最大の問題の1つです。この6億人は、中国の中部と西部にそれぞれ36.2%と34.8%分布しており、中西部地域が中国の低収入層の主要な発生源であることを示しています。
蔡慎坤氏は、上述のデータが中国の最も現実的な国情であり、中国の所得分配構造が依然として中低所得層を中心に構成されている事実を決して見過ごしてはならないと強調しました。大多数の中国人が生存することに毎日努力しており、彼らはこの繁栄する時代から取り残され、この社会の沈黙の多数派です。
また、中国国際金融(CICC)の統計によると、2022年において中国で月収5000元(約10万円)以下の人口は約13.28億人に達し、全人口14億人の94.8%を占めています。この高い割合は、中国の広範囲な経済的課題と所得不平等をさらに浮き彫りにしています。
(翻訳・藍彧)