多くの人がこの光景を見た時、これが廃棄された電動スクーターを集める場所だと思うでしょう。実際には違います。
ここにある数百万台の電動スクーターや電動自動車は、すべて中国の交通警察が様々な理由で没収した一般市民が合法的に使用していた車両です。つまり、これらはすべて私有財産です。ここは中国広東省中山市の車両没収場の1つに過ぎません。警察に没収された車両が毎日数百台もここに運ばれると言われています。
ここは貴州省貴陽市の電動スクーター押収センターであり、その光景は衝撃的です。この膨大な数の車両が最終的にどこに送られるかは誰にも分かりません。
2023年6月から7月にかけて、中国当局は突如、電動スクーターを規制する運動を開始しました。広東省深セン市から始まり、瞬く間に全国に拡大しました。そして、不条理なドラマが次々と上演されました。
多くの人がある日の朝、目を覚ますと、自宅の玄関先に駐輪していた電動スクーターが消えていることに気付きます。周りを探してみると、規格外の車両という理由で警察に撤去されたことを知ることになります。実際、警察は家々を回って、いわゆる「規格に適合しない」電動スクーターを没収していました。
道路上では、電動スクーターに乗っている人が突然警察に呼び止められ、その場で電動スクーターの合格証明書や登録情報の提示、電動スクーターの重さを量るよう求められます。関連する証明書を提示できなかったり、警察が規定した重量を超えたりした場合、即座に没収されます。その後、数千元(約数万円)をかけて購入した電動スクーターが、荒れ地に積まれた鉄くずの山と化してしまうのです。
ここに映し出された光景は氷山の一角に過ぎません。中国ではほぼすべての都市に電動スクーターの墓場があります。
電動スクーターは中国政府が積極的に推進する新エネルギー支柱産業です。しかしながら、不思議なことに、企業の製造や店舗の販売、そして市民の購入も許可されているが、道路上では警察による没収が頻繁に起こります。
電動スクーターは所有者の私有財産であるので、警察が任意に没収する権利があるのかと疑問に思う人もいるでしょう。知っておくべきことは、中国共産党の辞書には私有財産という概念が一切存在しないということです。電動スクーターを強制的に没収する警察は、市民の質問に対して「これらはすべて国家の財産だ」と答えます。
数年前、中国当局は環境保護と安全を理由に、一般市民のオートバイの使用を禁止し、電動スクーターのみの使用を許可しました。そのため、全国の電動スクーター産業は急速に拡大し、電動スクーターは中国の都市と農村で最も広く使用される交通手段となりました。
中国の市場調査機関「中商産業研究院」のデータによると、2023年末までに中国の二輪電動スクーターの数は4億台に達し、2022年の年間生産量は7000万台を超えていました。
数年前のオートバイの没収と同様に、中国当局がなぜこのような大々的な電動スクーターの没収運動を展開するのでしょう?多くのネットユーザーは、これは中国当局が消費を促進し、経済成長を牽引するために、古い電動スクーターを没収して新しいものを買わせる強制的な措置だと考えています。今の流行りの言葉で言えば、これは消費財の「以旧換新(買い替え促進策)」です。しかし、これは自発的ではなく、警察が公然と国民から強奪しています。
「以旧換新」と呼ばれる買い替え促進策は、習近平氏が最近提唱したものです。2月23日、中国共産党中央財経委員会は習近平総書記の主宰下で全体会議を開き、今後の「経済振興策」を打ち出しました。それは大規模な企業設備更新の推進と、消費財の「以旧換新」の推進、すなわち中古消費財の淘汰(とうた)と新品への買い替えの推進と、物流コストの低減という3本柱の経済救済策です。
確かに、新しいものを好まない人はいないでしょう?しかし、古い電動スクーターがまだ使えるのに、なぜ買い替えなければならないのでしょうか?それは浪費ではありませんか?買い替えする必要があっても、政府が補助金を提供しても、大部分の費用は自己負担になります。
多くのネットユーザーは、「3年間のコロナの流行で厳しい封鎖政策などを経験した後、手持ちのお金がほとんどなくなってしまった。今考えているのは、どうやってお金を稼ぐかであり、消費する能力はほとんどない」と述べました。
一部のネットユーザーは、「現在、各地で古い物を新しい物に買い替えする政策が相次いで打ち出されている。しかし、大規模な新品への買い替えの前提として、国民がまず手元にお金を持っていなければならない。今、国民も中国当局も、お金がないことを国民は知っている。新居や新車の買い替えのお金がどこから出てくるのか?政府からの補助金はどこから出るのか?電動スクーターと同じように、2年間の使用期限を設定し、期限が来たら買い替えしない場合は没収され、さらに市民に強制的にローンを組んで新品を購入させるのか」と疑問を呈しました。
また、次のように指摘するネットユーザーもいます。「買い替え促進策で消費を刺激することは不可能だ。なぜなら、現在の中国経済が困難に陥っている根本的な原因は、失業と負債者の増加であり、それによって一般市民がますますお金に困っている。ほとんどの人が十分な消費資金を持っていないため、買い替えすることができない。失業と金欠という根本的な問題を解決しない限り、現在の経済的苦境を打開することができない。そうでなければ、直接的に消費を刺激することは無駄だ。買い替え促進策は、結局のところ国民からお金を巻き上げる別の方法に過ぎない」
コロナの流行期間中に中国当局の過激な封鎖政策により、中国のほぼすべての産業が壊滅的な打撃を受けました。中国の対外貿易の停滞は、グローバルサプライチェーンの中断や再構築をもたらしました。
2023年、グローバルサプライチェーンが再構築され、各国の経済が回復し始めた中、中国は経済回復を迎えませんでした。外資系企業の撤退、企業の倒産、労働者の失業が中国全土を襲いました。家や車などは売れず、中国当局はさまざまな方法で内需を拡大し、消費を刺激しようとしたが、いずれもうまくいきませんでした。
2024年に入り、中国の経済は好転の兆候が全く見られず、中国当局は地方政府の巨額の債務を軽減するため、商業銀行に債務を負担させるという異例の措置を取りました。これにより、国全体に影響を及ぼす金融危機が勃発するかもしれません。このような状況下で、習近平氏が2月に打ち出した消費財の買い替え促進策も、効果が得られない可能性が高いでしょう。
(翻訳・藍彧)