中国の江蘇省南京市に住む郝鵬飛さん(60歳、男性)は昨年定年退職した際、現実が若い頃に想像していたものとはまったく異なると感じました。
「定年後はもっと楽(ラク)して好きなことに没頭して生活ができ、ストレスや悩みを抱えることなく過ごせると思っていた」と、郝さんがアルジャジーラ(アラビア語と英語で放送する衛星テレビ局)とのインタビューで述べました。
郝さんは国営の製造会社で管理職として勤務し、昨年60歳の誕生日を迎えるまで働いていました。彼は仕事を続けたかったが、会社の規定に従い、60歳で退職しなければなりませんでした。しかし、郝さんの年金生活は長続きしませんでした。
中国の年金制度は現在、資金不足に陥っており、中国の景気低迷、人口の高齢化、若者の失業率の上昇などの問題が、中国の年金問題をさらに深刻にしています。郝さんを含む3人の中国人の物語から、中国の一般市民が定年退職後に年金に頼って生活することが難しい状況が見て取れます。
再就職を余儀なくされる郝さんのケース
郝さんは、住宅ローン、家のリフォーム、医療費が毎月の年金収入を上回り、再び再就職しなければなりませんでした。彼は今、昼間はあるレストランの会計士として働き、夜はホテルの警備員として勤務しています。
彼は、「妻が20年前に背中を負傷してから、ずっと働けなくなり、専業主婦として、家計の支出をやり繰りして、できるだけ支出を削減しようとしている」と述べました。
伝統的に、中国の高齢者の多くは定年退職後に子供たちと一緒に同居しますが、郝さんはそれを選択肢とは見なしていません。「息子は家族4人で上海の小さなアパートに住んでいる。そこには私夫婦のための部屋がないので、私と妻は南京市で生活しなければならない」と郝さんが語りました。
今年の中国の旧正月期間中に、息子一家が南京市に住む郝さん夫婦の家に里帰りして、旧正月を過ごしました。しかし、旧正月の家族団らんの間でも、郝さんは支出を最小限に抑えました。
中国の求人サイト「51job.com」が2022年に実施した調査によると、中国の高齢者の3分の2以上が定年退職後に再び職場に戻る意向を持っているという結果が示されました。
一部の中国の公式メディアは、定年退職者の再就職が中国経済にプラスの効果をもたらすと称賛しているが、郝さんは異なる見解を持っています。「これは、多くの人にとって、現在の年金制度はまともな生活を提供できないことを示している。これは将来にとっても良い兆候ではない」と述べました。
デンマーク国際問題研究所の上級研究員である楊江氏は、定年退職者が再び職場に戻る傾向は、中国の年金制度が人々のニーズを満たすのが難しいことを反映していると述べました。
農民である顧さんのケース
農村人口や民工(出稼ぎ労働者)の年金はさらに雀の涙です。
中国には、公務員制度、企業労働者制度、都市・農村住民(農民を含む)制度の3つの年金制度があります。公務員が最も高く、次いで企業労働者、都市・農村住民が最も低い水準となっています。
都市の定年退職者である郝さんが受け取る基本年金は、月平均約7万円ですが、農村人口や出稼ぎ労働者は月額約4千円しか受け取ることができません。
顧成吉さん(63歳、男性)は南京市の建設現場で働いているが、戸籍は農村にあるため、南京市の社会保障などを受ける資格がありません。中国には顧さんのような出稼ぎ農民労働者が約3億人近く存在します。
顧さんは、アルジャジーラとのインタビューで、次のように述べました。「今受け取っている年金は貯金している。老後の生活に十分なお金を貯めるには、少なくともあと10年は働かなければならない。しかし、自分の体力があと10年も建設現場で、過酷な労働をこなすことができるかを心配している。同じ会社で長年頑張ってきた。会社も私が優秀な労働者であることを知っているので、今はもう少し楽な仕事をやらせてくれている。しかし、それでもまだ重労働であることに変わりはなく、夜に背中や膝が痛くて眠れないことがある」
今後の中国、年金生活者はより苦しいだろう
昨年、中国の60歳以上の人口は過去最高の約3億人に達し、今後の10年間でさらに約3億人が定年退職年齢を迎えると予想されています。
中国当局が規定した退職年齢は、男性が60歳、女性が50〜55歳ですが、労働市場に参入する人々はますます少なくなっています。
2023年には、中国の人口が2年連続で減少し、出生率も史上最低を記録しました。中国社会科学院(政府系シンクタンク)が発表した年金積立金の将来推計「中国年金清算報告2019-2050年」は、都市部の会社員が加入する公的年金に関して、「年金保険料率を16%まで引き下げた場合、支出が収入を上回る状況が2028年に現れ、2035年には年金積立金を使い果たしてしまう可能性がある」と推計されています。これにより、「現在の30代は年金がもらえない最初の世代になる」との懸念が広がっています。
この懸念を裏付ける事例として、2016年には黒竜江省の年金がすでに積立残高を使い果たし、継続が困難な状況に陥っていました。
デンマークの銀行の中国エコノミストであるアラン・フォン・メレン氏はアルジャジーラとのインタビューで、「(中国は)重大な課題が存在しており、年金改革が必要だ」と述べました。しかし、福祉改革が国民からの強い反対を引き起こす可能性があります。昨年、武漢市や大連市の当局が定年退職者の医療給付を削減すると発表した後、高齢者が街頭で抗議する事態が起きました。
孫さんのケース「女性定年退職者の訴え」
広州市の医療製品サプライヤーの会計士を務める孫夢潔さん(53歳、女性)は、アルジャジーラとのインタビューで、「このような(年金)改革が中国各地の高齢者を苦しめるのではないかと心配する。彼ら(中国当局)は、私たちが年を取ったら子供に頼らなければならない時代に戻ることを期待してはいけない」と述べました。
孫さんは、できるだけ長く働く計画を立てています。「この先の数十年、国家の年金にも誰にも頼ることができなくなるのが心配なので、できるだけ多くのお金を貯めておきたい」と彼女は述べました。
2020年には、中国人の高齢者1人を支える労働者は5人いましたが、2050年には1人の高齢者を支える労働者はわずか1.5人になると予測されています。
北京に拠点を置く民間シンクタンク「安邦諮問(アンバウンド)」は、中国の高齢化について、中国語のBBCニュースに対し、先進国の高齢化よりも深刻な問題は、中国の経済が十分成熟していない段階で高齢化が進んでいることだと指摘しました。つまり、国や社会による富の蓄積がまだ不十分で、社会保障制度も不完全であるため、高齢化社会の到来に対する備えは不十分です。
(翻訳・藍彧)