中国経済の低迷が長引く中、中国の若者たちは将来に絶望しています。彼らの精神状態はネット上の流行語から窺い知ることができます。2021年は寝そべりを意味する「躺平(タンピン)」という言葉が流行り、2022年は投げやりを意味する「摆烂(バイラン)」が流行り、2023年は「四不青年(4つのことをしない)」、そして今年は「十不青年(10のことをしない)」というネット上の流行語が共感を呼んでいます。 アナリストは、当局が若者に良好な雇用環境を提供できず、若者は求職や就労で苦い経験をしすぎたため、将来への希望を完全に失ってしまったと分析しています。
「十不(10のことをしない)」とは
最近、中国のインターネット上では、「十不青年(10のことをしない)」が話題になっています。10のことをしないとは、「 献血しない」「寄付しない」「結婚しない」「子供を作らない」「家を買わない」「宝くじを買わない」「株式投資をしない」「基金を買わない」「高齢者を助けない」「感動しない」ことを指します。 この言葉がネット上に登場すると、たちまち1万を超える「いいね!」がつきました。
実は、これらの 「しない 」の背後には、それぞれの無力さにまつわる悲痛な物語があります。
「 献血しない」
「 献血しない」は、2023年11月に起きたある事件がきっかけです。2023年9月、上海の「余(よ)」という女性がチベットのアリで交通事故に遭い、自分の「叔母」に連絡しました。 「叔母」は上海市衛生健康委員会を通じてアリの地元政府に連絡し、アリの地元政府はアリ地区の公務員全員を動員してこの女性のために献血を行いました。 献血量は7000ccにも及び、 そのため、余という女性はネットユーザーから「血槽(桶=おけ)のお姉さん」と揶揄されるようになりました。
当時、あるネットユーザーは「このような公的資源を動員して自分のために使うには、どれだけの力が必要なんだ? 金があってもできない。このようなことは中国ではすでに常態化しており、権力さえあれば、公的資源を動かすことができる。 全体主義的な独裁国家では、このようなことが多すぎる。ただ表に出てきていないだけだ」とコメントしました。
別のネットユーザーは、「この事件は権力者や富裕層の庶民に対する傲慢さと残忍さを浮き彫りにしており、庶民である自分たちはいつでも権力者や富裕層の移動式血液バンクになる可能性がある。自分の身を守るための消極的な方法のひとつは、献血をしないという選択肢だ」とコメントしています。
2022年、江西省の高校生、胡鑫宇(こ・きんう)さんの死亡事件が中国全土に衝撃を与えました。 内部情報の分析と多くの公開情報に基づき、ネットユーザーらは胡鑫宇さんはある高官と血液型が一致したため、生きたまま臓器を摘出されて死亡したのではないかと疑っています。 この悪質な事件はまた、献血者に胡鑫宇さんのように臓器を収奪されるかもしれないという不安を抱かせ、それが現在中国の若者が「献血をしない」大きな理由の一つとなっています。
「寄付しない」
「寄付しない」理由は、寄付したお金が郭美美(クオ・メイメイ)のような人間に流れる可能性があるからです。
2011年6月、当時29歳で「中国赤十字会事業総経理」と実名で名乗っていた郭美美は、微博でその富を誇示しました。彼女は広い別荘に住み、マセラティやランボルギーニなどの名車を乗り回し、ブランド腕時計をし、エルメスのバッグを10個以上所有していました。郭美美の富の誇示は、中国赤十字会に広範な懸念と論争を引き起こし、中国人は赤十字会への寄付金の流れに疑問を呈しました。
「結婚しない」「子供を作らない」「家を買わない」
「結婚しない」「子供を作らない」「家を買わない」は、以前のネット流行語「四不青年(恋愛しない、結婚しない、家を買わない、子供を作らない)」に由来しており、 若者たちの現実に対する絶望感を表しています。 実際、多くの若者が努力してみたものの、過度な競争に敗れているのです。
昨年来、中国の若者の失業は深刻さを増しています。当局の公式データによると、昨年上半期の若者の失業率は1月に17.3%、6月には21.3%を記録しました。 それ以降、公式データは公表されていません。なお、この失業率は都市部に限られており、農村部は含まれていません。
また、仕事を辞めることを選択する人も多く、 2022年1月から10月にかけて、中国の人材派遣会社脉脉(マイマイ)が1554人の被雇用者を対象に行った調査によると、約28%が仕事を辞めているといいます。辞めたいと思っている人の割合は、辞めた人の2倍でした。
脉脉(マイマイ)のデータによると、2023年上半期、20代の回答者の約34%が、中国のコンシューマー・インターネット業界からの辞職を検討していました。 コンシューマー・インターネットは若者にとって主要な就職先です。
最近、若者の間では「離職パーティ」が流行っています。浙江省の銀行に勤めていた27歳の梁(りょう)さんは、昨年5月に仕事を辞めました。 退職の日、友人たちは彼のために離職パーティを開き、太鼓や銅鑼を叩いて離職を祝いました。 梁さんはCNNの取材に対し、銀行の広報部門に勤務していたが、毎日多くの仕事を機械的にこなす日々で、多くのエネルギーを消費していたと語りました。さらに、自分が出したアイディアは最終的にいつも却下され、そして消えていったといいます。
「宝くじを買わない」「株式に投資しない」「基金を買わない」
「宝くじを買わない」「株式に投資しない」「基金を買わない」。 これらも、近年中国経済の低迷が続く中、若者の金銭管理の現状と心理状態を表しています。
上海出身の賀(が)さんは、上海の商業銀行のマネージャーを務める友人がいるが、以前は月給が2万元(約40万円)から3万元(約60万円)だったが、今は5千元から7千元に下がり、業績が上がらないと今後の給料から差し引かれることになる、と大紀元に語りました。 賀さんは、「はっきり言って、経済の破綻は決まっていることだ。みんなはただ最後の瞬間を待っているだけだ 」と嘆きました。
「高齢者を助けない」
なぜ「高齢者を助けない」も入っているのでしょうか。 多くの人は、当たり屋に脅迫されたりゆすられたりするのを恐れているのです。 最も代表的なのが、2006年に江蘇省南京市で起きた「彭宇(ほうう)事件」です。被害者になった彭宇さんは当時、バスから降りる際、高齢女性の徐寿蘭が転ぶのを見て、駆け寄って助け起こし、病院に同行し診察まで受けさせました。しかし、思いがけないことに、徐寿蘭は彭宇さんを相手取り、南京市鼓楼区(ころうく)裁判所に「損害賠償」を求める訴訟を起こしたのでした。裁判所は判決で、彭宇さんに4万5000元の支払いを命じました。
この事件は当時、全国的に注目されました。特に、判決の際に、裁判官が 「あなたがぶつけたわけでもないのに、なぜ助けたのか?」と彭宇さんに質問したことは人々に衝撃を与え、中国人に「人助けの心」を完全に捨てさせました。
「感動しない 」
「感動しない 」は、実は中国共産党当局への非協力運動です。当局の「ゼロコロナ」政策によって経済が停滞し、若者の失業危機が深刻化する中、習近平総書記は大学生に書簡を送り、新時代の中国の若者は農村部に行き、「自ら苦を嘗めるべきだ」と述べました。
しかし、この空虚なスローガンは、若い世代から予想外の抵抗を受け、若者たちは疑問を呈し、野心と努力を放棄し、苦を嘗めることを放棄しました。つまり「感動しない」は、最近の若者がもはや中国共産党のプロパガンダを信じず、官製メディアが捏造した虚偽でセンセーショナルなストーリーに騙されないという事実を反映しているのです。 これは実は、中共の「中国の夢」というイデオロギーに対する暗黙の挑戦でもあるのです。
どの国でも、若者は国の未来を代表するものです。しかし、若者がすでに絶望しているとしたら、その国の未来はどうなるのでしょうか?
(翻訳・銀河)