中国の全国両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議全国委員会会議)期間中、国務院総理の李強氏が政府工作報告で、人口高齢化への対応を国家戦略として実施すると提案し、具体的な措置として、都市・農村住民の基礎年金の最低基準を月20元(約400円)引き上げるなどと述べました。
政府工作報告の起草チームの責任者である中国国務院研究室の黄守宏主任は記者会見で、都市・農村住民の基礎年金の最低基準を月20元引き上げることは、19.4%増に相当し、引き上げ幅が大きいと述べました。中国には1.7億人の高齢者が都市・農村の基礎年金を受け取っています。
その後、中国の公式メディアは続々と、「都市・農村の年金が大幅に引き上げられる」という見出しで報道しましたが、この「大幅な引き上げ」の主張は多くのネットユーザーから嘲笑を招きました。
「月20元の増額は巨額の資金だね」
「本当に大金だね」
「まったく使いきれない」
「その恩恵に感謝するね」
「幸福があふれる」
「党は本当に偉大だね」
黄守宏氏によると、中国の都市・農村の基礎年金の最低基準は、元々月103元(約2000円)しかありませんでした。月20元増額されると、国民の基礎年金は1人当たり月123元(約2400円)に達し、19.4%の増加となります。この増加率は確かに大きいですが、なぜ嘲笑されているのでしょうか?その理由は非常に簡単で、中国の都市・農村の基礎年金があまりにも低すぎるからです。たとえ20元増加しても、増加率が19.4%であっても、中国共産党幹部の定年後の待遇とは雲泥の差があるからです。
中国の3種類の年金制度
中国には、公務員制度、企業労働者制度、都市・農村住民(農民を含む)制度の3種類の年金制度があります。公務員が最も高く、次いで企業労働者、都市・農村住民が最も低く、上記の基礎年金基準は最後のものを指します。
中国の31の省レベル行政区の基礎年金基準は一律ではありません。公開情報によると、最低の基準は雲南省で、1人当たり月額103元(約2000円)です。1人当たり月200元(約4000円)未満の省は26あります。200元から300元(約6000円)の省が3つあります。首都北京の基準は924元(約19000円)で第2位です。基準が最も高いのは上海で、1人当たり月1400元(約28000円)です。
江西省鷹潭市(ようたんし)は地級市(省と県の中間にある行政単位)です。鷹潭市社会保険事業センターが昨年旧正月期間中にネット上で発布した「2023年1月分の定年退職者の年金支給通知」から、3種類の年金の支給状況を大まかに把握できます。
1.36万名の公務員定年退職者に6,909万元(約14億円)の年金を支給、平均して1人あたりの月額は5,080元(約10万円)です。7.55万名の企業定年退職者に17,885万元(約36億円)の年金を支給、平均して1人あたりの月額は2,368元(約5万円)です。13.78万名の都市・農村住民の定年退職者に2,854万元(約5億円)の年金を支給、平均して1人あたりの月額はたった207元(約4000円)です。
鷹潭市の都市・農村住民の定年退職者数は、公務員の定年退職者の10倍を超える一方、彼らの年金は最も低く、公務員定年退職者の年金の4%しかありません。
中国の農村高齢者の実際の生活
90歳の湯桂秀さんは子供がおらず、夫もずっと前に亡くなっています。一人暮らしの湯さんは1ムー(約99平方メートル)の畑で野菜を栽培し、これが彼女の唯一の収入源です。彼女が受け取る年金は月55元(約1100円)です。しかし、これだけでは、一般的な都市ではサラリーマンの一回の昼食代にしかなりません。
この88歳の老人は、毎日5元(約100円)の薬代のために、野菜を売り続けいています。
(男性撮影者)「おばあちゃん、おいくつですか?」
(老人)「88歳だ」
(男性撮影者)「そんなに高齢なのに、なぜまだ野菜を売っているのですか?」
(老人)「売らないと(収入がなく)薬を買えないのだ。毎日5元の薬を飲まないといけない」
中国共産党幹部、ピラミッドの頂点に立つ権力者たち
民主国家では、役人の定年後の待遇は一般市民と実質的な違いがないが、中国共産党の幹部の定年後の待遇とは大きく異なるのです。中国共産党の幹部の定年後待遇は上記の三つの年金制度に該当せず、特権階級は独自の特別な待遇基準を持っています。中国共産党幹部は年金支給のほかに、多くの特別手当を享受しています。
昨年9月、中国の元経済貿易部長である鄭拓彬氏の年金や手当の内訳と疑われる写真がSNSで拡散されました。
写真によると、鄭拓彬氏の当月の年金及び特別待遇の明細は以下の通りです。月額年金 10,079元(約20万円)、生活手当25,198元(約5万円)、家政婦代 3,500元(約7万円)、 定年手当 9,810元(約20万円)、その他、書籍・新聞代、クリーニング代、北京滞在手当、電話代、交通代などの詳細な付帯手当があり、月額合計は49,249.50元(約100万円)になります。
公開情報によると、鄭拓彬氏は1924年生まれで、中国共産党第十二期、第十三期中央委員を務め、1985年に対外経済貿易部長に任命され、1992年に定年退職しました。
2015年『軍事情報ウオッチ』によって機密解除された中国共産党幹部の定年後の待遇基準に関する記事は、世間の注目を集めました。記事では、省・閣僚レベルの引退幹部の待遇が開示されました。具体的には、専任の運転手兼警護員、専任の医療・看護スタッフが提供されます。また、年に4回、各3週間の国内旅行や休養を享受でき、同行する家族や子供の人数は制限がありません。
さらに、省・閣僚クラスの定年退職幹部の1人あたりの平均年間福利厚生・手当など(年金と階級待遇経費を除く)は112万元(約2,200万円)を超えます。副省レベル幹部は、同様のもので、年額約94万元(約1,800万円)近くを受け取ります。
最近、上海瑞金(ずいきん)病院のICU病棟で4年間を過ごした元幹部の範祖祥氏(76歳)についての動画がネット上で急速に広まり、広範な議論と論争を巻き起こしました。この動画は、範祖祥氏の医療費がなんと7300万元(約15億円)以上もかかったという驚くべき事実を明らかにしました。
この植物状態になった定年退職した老幹部は、ICUでの生命維持費が1日に16万元(約300万円)かかります。彼は国の規定で全額払い戻すという特別待遇を享受しており、それと別に月6万元(約120万円)以上の年金をもらっています。こうして2年間のICU費用はすでに1.1億元(約20億円)を超えています。子供たちはチューブを抜くことに強く反対し、毎年の誕生日には看護師たちがケーキを買ってきて彼にバースデーソングを歌います。彼が生きている限り、病院、家族、そして本人の3つの当事者全てに利益をもたらすことになります。しかし、一般の市民の医療資源の数百倍、あるいは数千倍にも上る莫大な費用はどこから来るのか、この問題について誰も関心を持っていないようです。
(翻訳・藍彧)