中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は3月11日に閉幕しました。この会議に関して、米国在住の中国問題専門家である程暁農(テイ・ショウノウ)博士は、自身の体験をもとにYouTubeチャンネル「政経最前線」で、中国共産党の権力運営の内幕について語りました。

 中国憲法の規定によると、全人代が国家の権力機関であり、立法と政府の監督を担います。表面上では、全人代は中国の議会に相当し、全人代の代表は国会議員に相当します。現在、全人代の代表は2000人以上います。

 程博士は、「民主国家の議会議員とは異なり、中国共産党の全人代代表はすべて傀儡(操り人形)議員であり、全人代の会議は代表たちによる芝居に過ぎない」と述べました。

 中国共産党政権は独裁政権ですが、なぜこのような政権に議会に似た形式が必要なのでしょうか?程博士は、「独裁政権は非常に醜悪(しゅうあく)であり、その醜悪さを隠すために衣を着なければならないからだ。全人代はその衣である」と述べました。

 程博士は、道理に基づいて考えたり判断したりしたのではなく、実際の観察や体験を通じて全人代の内部運営や組織の内幕からこのことを認識したのです。

 現在、海外で時事評論を行っている学者の中で、全人代の内部で職務に就いた経験があるのは、程博士ただ一人です。

 1985年から1986年にかけて、程博士は全人代の事務局研究室で1年間働いたことがあります。内部の職員として、程博士はこの組織の日常的な運営から、中国共産党憲法における全人代が国家の最高権力機関であるという内容がまったく虚偽であることを実感しました。

 2000人以上の全人代代表は、年に一度しか全体会議を開くことができません。そのうち約200人は全人代常務委員であり、2か月ごとに一度会議が開かれます。全人代常務委員会の下には、事務局があります。外部から見る限り、この事務局は全人代常務委員会の指示に従って仕事をしているように見えるが、実際には全人代常務委員会を管理しています。この事務局は、全人代常務委員に対し、会議に出席するかしないか、会議中に何を発言すべきかを命じる権限を持っています。

 この事務局の責任者は秘書長であり、中央総書記の事務所から直接指示を受け、全人代常務委員会の日常業務を指揮します。

 全人代の代表は選挙で選ばれたわけではなく、中国共産党の各レベルの委員会が直接指名します。そのため、一般庶民は自分の住む都市の全人代代表が誰なのかさえ知らない場合があります。したがって、中国のこれらの「国会議員」は選挙区も有権者も持たず、ただ中国共産党に責任を負うだけです。

 台湾国立大学政治学の元教授である明居正氏は、中国の全人代は「ゴム印を押す機械と手を挙げる機械」であると形容しました。

 全人代の代表が毎年開催される会議で、すべての代表が中国共産党の指示に従うのでしょうか?中国共産党と異なる声を上げる者は本当にいないのでしょうか?

 程博士は、毎年北京で開催される会議の間、すべての代表が四重の厳格な監視を受けており、誰もが中国共産党とは異なる声を上げる勇気がないと説明しました。

 1つ目の監視は、代表の中にいる共産党員に依存しています。全体の代表の中で、共産党員は通常70〜80%の割合を占めます。中国共産党の規律によれば、彼らは中央の指導に従わなければならず、いかなる異なる意見も持ってはいけません。毎年の大会の前日、代表の中の党員は全員、人民大会堂に行き、秘密会議に参加しなければなりません。この会議では中国共産党の上層部の幹部がスピーチを行うが、毎回必ず言われるのは、代表たちがこの大会を問題なくスムーズに進行させることを保証しなければならないことです。会議は秘密裏に行われ、共産党員でない代表たちには知らせてはいけません。

 2つ目の監視は、各省の地方代表団内の相互監視です。中国共産党は、異なる地域の代表団が同じ場所に泊まってはならないと規定しています。各省・市の代表団は別々の場所に滞在しなければなりません。また、会議期間中、すべての代表団は睡眠時間を除いて集団で行動しなければなりません。つまり、集団で食事をとり、集団で会場に向かい、集団で会議の議題を討論する必要があります。個人的な行動は許されません。この形式によって、代表同士の相互監視という目的が実現されます。さらに、各省の代表団の団長は、通常、その省の省長(知事に相当)が務め、彼の責任は代表団内の全メンバーの言動を監視し、中国共産党が許可しない言動が出ないようにすることです。

 3つ目の監視は、全人代常務委員会事務局が各代表団に配置するスタッフによるものです。これらのスタッフは名目上、代表たちの意見を聞く連絡員で、代表たちと一緒に食事をしたり、宿泊したりしているが、実際、代表たちの言動を密かに監視しています。各省の知事や市長でさえ、彼らの監視範囲に含まれます。これらのスタッフは毎晩、監視した内容を報告書にまとめなければなりません。もしある知事の言動に異常があれば、その知事の言動に関する報告書は翌朝、中国共産党の最高指導者の目の前に現れることになります。

 1986年の全人代の会期中、程博士は全人代常務委員会事務局から、湖北省代表団に配置され、代表たちの言動を監視しました。彼にはもう1つ特別な任務もありました。それは当時の李先念国家主席の言動を監視することでした。当時、李先念は休憩時間を利用して湖北省代表団を訪れ、自分の出身地の人々を訪ねる予定でした。その日、湖北省知事は会議室の入口に立ち、自分が信頼できる代表のみ入室させることを許可しました。その知事は程博士が現れるのを見て、顔色が悪くなったが、それでも程博士の入室を許可しました。

 4つ目の監視は、中国共産党国家安全部の特殊工作員によるものです。1986年の全人代の会期中、最初の3日間、光明日報の記者と名乗る人物が程博士と同じ場所に泊まりました。しかし、程博士はよくわかっていました。この人物は国家安全部の特殊工作員であり、湖北省代表団全体と程博士自身を監視するために派遣されてきたのです。

 この厳格な四重の監視の下で、毎年の全人代大会はまるで芝居のようです。2000人以上の代表は、まるで操り人形のように操られ、指定された手順に従って、原稿を読み上げ、手を挙げて投票し、要求された議題について議論し、発言します。このようなシナリオが年々、いわゆる人民大会堂で演じられています。これが中国共産党の主張する民主主義です。

(翻訳・藍彧)