中国の旧正月前後に、毎年と同じく、全国で大規模な「帰省ラッシュ」が発生しました。ネット上で出回っている動画によると、今年の帰省ラッシュには、北京空港はがらんとしているほか、観光名所の桂林市にある、両江空港も閑散としており、各地の高速鉄道駅の利用客が、非常に少ないことが分かりました。一方、廃止予定の旧式鈍行列車、「緑皮車」は、意外にも多くの中国人が、帰省や都市への移動手段となっています。各地の鉄道駅の待合室では、「緑皮車」を待つ乗客で溢れかえっていました。

 過去20年間で、中国の航空や高速鉄道などの交通手段が、急速に発展しました。中国の高速鉄道の運行距離が世界一となり、その速さが世界の注目を集めています。高速鉄道は快適で安定しており、時間も節約できるため、近年、中国人の長距離旅行の第一選択となっています。

 では、今年はなぜ異例の状況が生じたのでしょうか?まず、中国の鉄道の発展について、簡単に振り返ってみましょう。

 「緑皮車」とは、深緑色ベースの塗装を施した、旧式の鈍行列車のことです。高速鉄道が登場する前の、20世紀60年代から90年代にかけて、中国の鉄道では、基本的に緑皮車が主流でした。それは当時、中国の時代の象徴でもありました。

 緑皮車の時速は約120-160キロメートルですが、実際の運行では、時速約70キロメートルにしか達しないことが多いです。それは、緑皮車がしばしば特定の駅で一時停止し、反対方向から来る列車が、駅を通過するのを待つ必要があるからです。一般の民衆にとって、緑皮車の最大の利点は、その切符が非常に安価であることです。しかし、欠点も明らかで、それは乗車時間が長く、車内の環境が良くないことです。

 90年代以降、中国経済の急速な発展に伴い、多くの緑皮車が廃止され、より先進的な高速列車に置き換えられました。現在の中国の高速鉄道は、非常に発達しています。中国国内で最も速い高速鉄道である京滬高速鉄道は、運行時速が480キロメートルに達し、一般的な高速鉄道の時速も、220-350キロメートルに達します。高速鉄道の特徴は、切符が高いが、効率的で時間を節約でき、車内の条件が良いことです。

 例えば、広東省深セン市から、河南省信陽市までの高速鉄道の切符は、630元(約13,000円)、乗車時間は約6時間です。一方、緑皮車の切符は170元(約3,500円)、乗車時間は約18時間です。言うまでもなく、緑皮車を選ぶ主な理由は、お金を節約することです。今年の旧正月前後に高速鉄道が閑散としていたのに対し、緑皮車が盛況だったことは、多くの中国人の生活水準が以前と比べて大幅に低下し、もはや高速鉄道に乗る余裕がなくなったことを示しています。

 緑皮車に乗る人の大部分は農民工(非農業の仕事に従事する,農業戸籍者のこと)です。今年、中国経済の不振により、多くの農民工があまりお金を稼げず、緑皮車に乗ることは大変ですが、節約した400元(約8,300円)で、家族に多くの正月用品を買ってあげることができます。

 旧正月前後に、多くの緑皮車が人でいっぱいになり、通路にも人が立ち並ぶ光景は、1990年代初頭、多くの貧しい農民工が都市へ働きに行く光景と似ています。

 緑皮車に乗る農民工たちは、現在の中国経済の不景気を、知らないかもしれませんが、彼らは心の中で、今、お金を稼ぐことが以前よりも、ずっと難しくなったことをよく知っています。

 過去20年以上にわたり、中国のインフラ建設は、中国経済の急速な発展の主要な推進力となっています。しかし現在、至る所に見られる空き家や、人通りの少ない橋や道路は、中国の過剰なインフラ建設の深刻な結果を浮き彫りにしています。

 上海から北京までの高速鉄道「復興号」に乗れば、最高時速は350キロに達します。旅の間、車両の振動はほとんど感じられず、遅延もほとんど発生しません。しかし、途中の風景はやや荒涼としており、無人の住宅群や乗客のいない豪華な鉄道駅などが目立ちます。

 北京大学の経済学者である、マイケル・ペティス(Michael Pettis)氏は、これらの荒涼とした景色の背後には、深い理由があると指摘しています。彼は、中国の急速な発展が限界に達していると考えています。

 ペティス氏によると、世界の高速鉄道の70%が中国にあるにも関わらず、中国経済は世界経済全体の17%しか占めていません。

 ペティス氏は、「中国では、投資総額がGDPの44%を占めており、これは非常に高い数字です。他の高投資国ではこの比率は通常33%で、世界平均は25%です。つまり、中国は投資額を削減しなければならないのですが、投資自体が富をもたらすわけではありません」が、「もし国が建設プロジェクトを減らせば、建設労働者は解雇され、失業者が増えることになります。しかし、政府は同時に国民による消費の増加を望み、経済発展を促進したいと考えています。この目的を達成するためには、政府が公的資金を提供しなければならないのですが、政府の支出が既に非常に高いため、実行が非常に難しいです。中国の多くの矛盾が非常に目立っており、経済成長が顕著に減速するでしょう」と述べました。

 外資の大量撤退、経済の低迷により、多くの工場が倒産しました。多くの労働者が正月明けに以前働いていた都市に戻ると、工場がすでに倒産したことに気づきました。一部の都市では、仕事が見つからない人々があふれています。

(翻訳・吉原木子)