英国の大手銀行、スタンダード・チャータードの最高経営責任者(CEO)であるビル・ウィンターズ氏は、2月12日にドバイで開催された世界政府サミットの期間中、アメリカの経済ニュースチャンネルCNBCに対し、「中国は信頼危機に直面している。中国国内の預金者も海外の投資家も、中国に対する信頼が不足している」と述べました。
中国当局も「信頼」を中国経済のカギと見なしています。公式の主張では、中国経済の発展は非常に良好だとされています。たとえば、習近平氏は2月8日の旧正月の演説で、「昨年の中国経済は世界中で依然として絶好調である」と述べました。つまり、世界中で経済発展において非常に良い状況にあるのは中国だけだということです。
中国政権の中国経済への自画自賛(じがじさん)を国民は信じるのでしょうか?まず、中国の現状を見てみましょう。
1、中国は孤立・閉鎖化へ
今年に入ってから、国際社会からの中国に対する新たな印象の1つは、中国が孤立し閉鎖的になっているというものです。
英国の経済誌「エコノミスト」は2月12日の記事で、習近平氏の偏執が中国を孤立させ閉鎖化にしていると掲載しました。
記事は、中国を訪れる外国人観光客の数や国際便の数、そして中国の国際協力・研究などの側面を詳しく分析し、中国当局の高層が意図的に中国をより閉鎖的にしていると結論付けています。
記事によると、昨年中国に入国した外国人の数は、新型コロナウイルス(中共ウイルス、SARS-CoV-2)流行前の2019年よりも約6200万人(63%)減少しました。つまり、現在の訪問者数はコロナ流行前の約3分の1です。
また、昨年末までの中国と米国間の週間往復便はわずか63しかなく、流行前の週間300便と比べて大幅に低下しています。
さらに、米国の研究者は中国に先進技術を提供していると疑われることを恐れ、中国との科学技術分野での協力もより慎重になっています。米中の科学技術者が共同で発表した研究論文の数は、2020年以降減少しています。中国人学者との国際共同研究論文において、米国人学者の参加率は2013年の47%から2022年には32%に減少しました。
中国国家外貨管理局(SAFE)が2月18日に発表したデータによると、昨年の中国の国際収支における直接投資の増加額は330億ドル(約4.9兆円)で、2022年の増加額と比較して82%減少し、1993年以来の最低水準となりました。
2、中国当局、国民全員に中国経済を称賛するよう求める
2023年下半期から、中国経済の衰退がますます顕著になり、中国当局の最高層も中国経済問題の深刻さに気づいています。昨年12月15日、中国国家安全部(内務省に相当)が経済活動に介入し、民間が中国経済の実態に対する客観的かつ冷静な分析を公表しました。国家安全部は3日連続に声明を発表し、国内の経済実態に対するコメントを全面的に禁止するよう求めました。中国政府の中で外国情報の収集やスパイ摘発などの仕事を担当している国家安全部がウィーチャットを通じて、中国経済に関するネガティブな言論を厳しく批判するメッセージを発信し、エコノミストたちを震えあがらせました。「国家安全機関は経済安保の防壁を決然と構築する」と題された文章は、次のような厳しい口調で中国経済衰退論を批判しています。
「中国経済の衰退を意図した陳腐な言い回しが繰り返し現れているが、その本質はウソのストーリーをでっちあげることで人々を中国が衰退するという誤謬(ごびゅう)に陥れ、『中国の特色ある社会主義制度と道』を攻撃して否定し、中国を戦略的に袋叩きにしようと妄想するものである」
また、「経済の安全は中国の国家安全の重要な構成要素であり、さまざまな重大なリスクや挑戦に対処する必要がある」と強調しました。
米国在住の華人エコノミストである程晓農(チェン・シャオノン)博士は、中国国家安全部のこれらの声明は、中国経済が衰退に直面している中国政権の危機感を強く反映していると考えています。
中国国家安全部が経済に関する報道を管理し始めてから、中国のメディアでは中国経済の見通しや分析に関する報道がすべて方向転換し、経済問題に関する議論は中国政策を宣伝する統一された内容に変わりました。民間で真実を語る数少ない経済学者の発言や記事も中国で完全に封鎖されています。
また、中国当局は中国の外資系企業が中国経済に対して否定的な評価を行うことを禁止しています。
中国当局は2023年、数社の米コンサルティング会社のオフィスを急襲して、複数の地元スタッフを拘束し、国家安全保障の考慮から行ったと述べました。
欧米企業は投資をする前にビジネス環境を広範囲かつ徹底的に調査します。日本経済新聞の中国語サイト2月19日の報道によると、2023年7月1日に施行された改正「中華人民共和国反間諜法(反スパイ法)」の影響を受けて、多くの調査会社の業務が停滞しているため、外資系企業は中国のビジネス環境の調査レポートを入手できない状況になっています。これが投資に水を差すのは明らかです。
3、中国国民の反応
中国国民は、当局が宣伝する中国経済の見通しが明るいことを信じるのでしょうか?
株式市場は国家経済のバロメーターと見なすことができます。上海証券取引所の株価指数(上海インデックス)は昨年下半期から下落し続けています。2月5日、上海インデックスは2700ポイントを下回り、中国の株主たちの間には悲観論やパニックが広がっています。
株主たちはネット上で不満を吐露(とろ)し始めましたが、中国のネット規制が非常に厳しいため、株主が投稿した記事はすぐに削除されました。そのため、多くの株主が在中国アメリカ大使館のウェイボー(中国のSNS)に、キリンを保護する記事のコメント欄に投稿し、株価の暴落や中国共産党の指導者の無能さなどを訴え、中には米国政府に中国政権転覆のための軍隊派遣を求める人さえいました。わずか数時間で17万件の書き込みがありました。
また、X(旧ツイッター)上では、株主に一刻も早く株を売り、中国株式市場から逃げ出すよう呼びかける人々もいました。
4、結論
中国当局が国家安全部を動員して国民の言動を監視し始めたことは、習近平政権が経済面で、もはや有効な対策を打ち出せないことを示しています。また、世論の統制に関しては、中国当局の宣伝機関がもはや力及ばず、国家安全部門が世論をコントロールする必要があるという状況になっていることを示しています。
中国共産党の党首は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『皇帝の新しい服』に登場する皇帝のように、明らかに服を着ていないが、国民には華麗な服を着ていると信じさせ、誰にも真実を語ることを許さないようになっています。
中国の国民は権力に恐れて、当分の間は沈黙を守るかもしれません。しかし、一旦中国経済が崩壊し、中国共産党政権が軍人や警察官の給与さえ保証できなくなった時、この政権は崩壊しないでしょうか?
(翻訳・藍彧)