腰に赤い絹布を巻いているダンサーは、頭を深く下げて、大地に向いています。そのしっかりとした両足はとても力強く、まるで大地に深く根を下ろし、そして四方に無限に広がる大木のようです。遠くから流れてきて、段々と強くなる音楽に合わせて、ダンサーがゆっくりと頭を上げて、希望に満ちた眼差しと喜ばしく満足な微笑みを浮かべ、また頭を高く上げて、澄み切った青空を見上げます。この静けさを打ち破るのは、欣快(きんかい)に鳴らし始める銅鑼と太鼓。こうして、元気にあふれる「秧歌(おうか、ヤンガー)」の踊りが、龍が躍り上がるように舞台に沸き立ちます――。
これは、2011年新年のはじめに、アメリカニユーヨーク州のリンカーンセンターで、世界最高峰の中国古典舞踊と音楽の芸術団、「神韻芸術団」がお届けした公演中の演目「大秧歌(ヤンガー)」の様子でした。
「秧歌舞」は、千年以上の歴史がある中国民間舞踊の一つです。「秧」は草木の苗のことで、「秧歌舞」はその名前通り、農事作業から最初に起源したとされる舞踊で、中国北部地域に広く伝わっています。田植えの際に「ヤンガー」を踊るという記載は、宋の時代にすでにありました。畑で耕作の合間に銅鑼か太鼓を叩いて「ヤンガー」の歌を口ずさんだり、もしくは農作業を終えて自宅の庭で歌いながら踊りだして、心の喜びと一家団欒の幸せを表しました。
新年や祝日などのめでたい日には、雅楽、聖歌、戯曲や雑技がすべて負けてしまい、最も盛り上がるのはやはり「ヤンガー」舞だけです。賑やかな「ヤンガー」ダンサーの大群は町中を回り、祝日を祝う喜びを存分に表現します。この喜ばしい光景は、たとえ皇帝陛下のお目にかかっても、大層ご機嫌になられるのは間違いないでしょう。
ですから、「秧歌」はめでたい歌で、太平の世を讃える歌、勤勉と美徳を讃頌する歌、豊作を祝い願う歌、天地の生を愛でる徳への感謝を表す歌なのです。
正直に言いますと、神韻芸術団の演目を見る前に、「ヤンガー」はこんなに素朴で美しい踊りとは思わなかったのです。逆に、「ヤンガー」の美しさを理解することすらできませんでした。なぜなら、私が生まれ育った時代に、「ヤンガー」は「天地への敬意と感謝」を捧げるためではなく、「天地と戦う熱狂」を表すものだったからです。
あの時代の「ヤンガー」の歌詞からは、「道古人」や「勧善歌」のように善行を勧める伝統的な道徳観を聞いたことがなく、「有花堪摘當須摘、莫待無花空折枝①」のような勤勉を勧める思いを聞いたこともなかったのです。代わりに、「ヤンガー」の歌詞から聞いたのは「打土豪分田地②」、「合作社③」のようなことだらけでした。そして、歌いながら「共産党の恩恵」を感謝をしなければいけませんでした。農民は農村戸籍④で社会どん底の階層に落とされても共産党に「恩」を感謝しなければいけないし、声を張り上げて「一畝当たりの収穫量が三万斤(15,000㎏)」の大嘘を歌いながら共産党に「恩」を感謝しなければいけないし、餓死者が野に溢れた大飢饉の時代でも共産党に「恩」を感謝しなければいけませんでした。野菜が値下がりした今年も、米が値上がりした昨年も、不作の年も、豊作の年も、農民が貧困で格差社会の底辺にいることは変わらなかったのです。世界のどこにも類を見ない悲哀(ひあい)の中で、中国の農民は派手な服を着て、「ヤンガー」を踊りながら共産党を讃えなければならないのです。このような核心が歪められた「ヤンガー」から、どうして美しさを感じ取れるのでしょうか?
「ヤンガー」の意味が変異した後、「ヤンガー」舞が自ずと没落して、さらには悪者扱いされるようにました。このような悪者扱いは、中国共産党が中国伝統文化を段階的に破壊する縮図の一つです。この中でも最も破壊的なのは趙本山(チャオ・ベンシャン)に他なりませんでした。趙本山は「ヤンガー」の動作が基礎となる戯曲形式「二人転」を春節連歓晩会⑤に登場させた後に、海外にも持っていきましたが、罵声の中で終わってしまいました。彼の演出は下品で「大不評」でしたが、共産党文化で中国伝統文化を破壊する面からみると「大成功」だったと言えるでしょう。なぜかと言いますと、「ヤンガー」本来の美しさが皆無にされてしまい、「ヤンガー」という民俗舞踊が徹底的に低俗舞踊に荒らされてしまったからです。
しかし、今日、長い間失われていた「ヤンガー」の本当な美しさは、世界各国のトップクラスの劇場で再び現れました。神韻芸術団の世界巡回公演により、「ヤンガー」はこの芸術の饗宴の中で豪華なご馳走の一品のように、世界各地各民族の人々に眼福をもたらします。神韻の舞台上にいるダンサーたちの腰に巻く紅絹が龍のように飛ぶ様子や、心のこもった踊る姿は、「ヤンガー」の本来の姿と味わいが復興しています。
私は信じます。朗らかな陝北高原の「ヤンガー」、元気で活発な東北部の「ヤンガー」、豪放磊落な山東省の「ヤンガー」などなど、各地それぞれの特色豊かな「ヤンガー」がいつか必ず、中国本土でかえり咲きます。喜ばしい「ヤンガー」を踊りながら、共産党の統治のない太平の世を讃える時代が必ず来ると、私は信じます――。
註
①花が開いて折るに堪へなば直ちに須(すべから)く折るべし、花無きを待って空しく枝を折ること莫(なか)れ。杜秋娘『金縷衣』より
②「地主から土地を取り上げ分け合う」。中国共産党が国民党との内戦時代に行った政治スローガン。
③1950年代の中国における共産主義の農業生産共同組合。配給制度下の農産物流通や資材供給を担った。
④中国戸籍制度上の都市と農村との二元的な管理制度。
⑤中国の国営テレビで旧暦1月1日の春節を跨いで行っている年越しカウントダウンイベント番組。
(文・宋紫鳳/翻訳・心静)