中国青海省循化(じゅんか)サラール族自治県の村々では、村人たちは良い天気を逃さないよう、唐辛子を糸でつなげて干しています。近年、地元政府は唐辛子産業の発展に注力し、2.5万ムー(約75万坪)の唐辛子畑が黄河の谷地(やち)に広がっています。青海省だけでなく、中国政府が推進する貧困撲滅戦略の一環として、中国の唐辛子産業は28の省・自治区・直轄市に広がっています。
唐辛子は明朝末期に中国に伝わり、400年以上の歳月が経過した今、唐辛子の栽培面積は中国の野菜ランキングのトップに位置しています。2021年、中国の唐辛子の栽培面積は世界全体の36.7%を占め、唐辛子の産量は世界全体のほぼ半分に達しています。
中国農業農村部(農林水産省に相当)の統計によると、2022年には中国の唐辛子の輸出額が17億ドル(約2600億円)に達しました。唐辛子の栽培によって多くの農民が徐々に貧困から抜けてきた一方、毒唐辛子の問題も浮上しています。
唐辛子の農薬残留問題が浮上
スペインは2023年8月、中国産唐辛子の粉末から危険性の高い農薬「クロルピリホス(有機リン系殺虫剤)」を検出しました。
同様、過去1年間、台湾の国家食品医薬品管理局(厚生労働省医薬品局に相当)も中国から輸出された乾燥や粉末の唐辛子から他の2種類の農薬を頻繁に検出しています。
台湾農業部農業試験所鳳山支所の野菜部門の研究員兼主任である王三太(わん・さんたい)氏は、「この3種類の農薬はいずれも、台湾の唐辛子栽培の規定では使用が認められていない」と述べました。
中国公式の統計によると、中国河南省柘城県(しゃじょうけん)の唐辛子の栽培面積は40万ムー(約1200万坪)を超え、20万人が唐辛子産業に従事し、その結果3.6万人が貧困から抜け出ることができました。
程明(仮名)さんは柘城県の唐辛子製造業者であり、唐辛子の栽培から加工までの各段階に精通しています。程さんは、「農薬の使用と残留基準に関して、朝天椒(チャオティエンヂヤオ、唐辛子の一種)について言えば、それは台湾の規定に100%準拠することはできない。台湾と中国の規定および検査基準の違いは非常に大きく、中国の唐辛子は台湾の基準を満たすことができない。サイズが大きめな唐辛子の品種は、農薬残留の検査には合格できるかもしれないが、辛さは比較的弱く、価格も朝天椒より高い」と述べました。
王三太氏は、農薬残留は各国の管理基準だけでなく、法の執行と遵守の度合いにも関わると考えています。台湾の基準は国際的に見ても比較的厳格であり、一部の基準はアメリカや日本よりも高いのです。中国の唐辛子が他の国や地域に輸出される場合、国際的な許容基準に合わせる必要があります。実際、中国の国内市場でも唐辛子への需要が非常に大きく、良心的な政府は、消費者のために食品の品質をしっかりと管理・検査すべきです。
唐辛子の残留農薬の危険性
唐辛子に残留する農薬が、人体の健康に与える影響は無視できません。毒物学の専門家であり、台湾中原大学(ちゅうげんだいがく)の招名威(しょう めいい)准教授は、中国産の唐辛子に残留する油溶性農薬が脂肪組織に蓄積しやすく、特に生殖器系の脂肪に蓄積しやすいため、発育や生殖器系に損傷を引き起こしやすいと指摘しました。妊娠しにくい、胎児の健康が損なわれるなどの状況が生じる可能性があります。
クロルピリホスの健康への危険性は既に広く知られています。2020年には欧州連合(EU)がクロルピリホスの全面禁止を実施し、2021年にはアメリカも全ての食品での使用を禁止すると発表し、台湾も2024年4月から全面禁止する予定です。
一方、中国は2017年から野菜でのクロルピリホス使用を禁止していますが、近年では中国から台湾に輸出される唐辛子、菊花、クミン、ミント、吉林人参などの農産物でクロルピリホスの残留が検出されています。
招名威氏は、「中国の農村地域は教育や科学の普及が不十分で、農民が農薬を安全に使用する方法が分からなかったり、農薬の危険性に対する認識が不足したりすることが多い」と述べました。
王三太氏は、農薬販売業者のモラルも問題の一因であり、一部の悪徳農薬業者は金儲けのために禁止された農薬の名称を変えたり、再パッケージしたりして農民を騙しているため、農民による農薬の不適切な使用につながっていると指摘しました。
異常気象が唐辛子に与える影響
気候変動も唐辛子産業に影響をもたらしています。ここ数年の夏季、中国北部では持続的な豪雨が続き、一部の産地では唐辛子の苗が死滅する深刻な問題が発生しています。この異常気象が頻発すると、病害虫の危機も増大し、唐辛子で生計を立てようとする農民たちの希望が次第にくじかれています。
王三太氏によると、唐辛子の適切な成長温度は15°Cから25°Cであり、水は必要ですが、浸水は避けなければなりません。土壌が過度に湿りすぎ、温度が高い場合、唐辛子はさまざまな病気にかかりやすく、枯れてしまう可能性があります。
異常気象は唐辛子の産地に新たな課題をもたらしており、王三太氏は、ここ数年、中国の華北地区で水害が発生し、雨が湿気と病害をもたらし、多くの不確実性が増加していると指摘しました。特に、病原菌による唐辛子の青枯病(あおがれびょう)は、通常、熱帯・亜熱帯地域に多く見られるが、北部での降雨が過剰な場合に北部地域に広がる可能性があります。青枯病を防除する適切な薬剤がないため、それを克服する唯一の方法は、耐病性品種の唐辛子を栽培することです。また、気候変動の影響で、小型害虫も防除が難しくなっています。
近年、アジアの主要な唐辛子の栽培地はいずれも炭疽菌(たんそきん)の脅威に直面しており、唐辛子の品質と収量が低下しています。中国も例外ではありません。王三太氏によると、唐辛子は成長の初期段階で炭疽菌に感染する可能性があり、病徴は現れないため、農民が防除のタイミングを逃しやすく、現在、国際的には炭疽病耐性の唐辛子品種はまだ存在していないとのことです。
唐辛子の育種、長期的な計画が必要
中国は積極的に唐辛子の栽培産業を強化しており、現在中国で使用されている唐辛子の種子の95%は国内産です。各地で唐辛子産業が急速に発展する中、中国の農業専門家は、より耐病性の強い品種を育成すべきだと警告しています。
王三太氏は、「中国の多くの研究機関は唐辛子の生産量に重点を置いており、病害虫や細菌に耐性のある唐辛子品種の研究が不足している。そのため、唐辛子の新品種の研究方向を調整することが中国の農業研究者にとって最優先の急務である」と述べました。
唐辛子の残留農薬の問題を解決しなければ、中国の唐辛子農家は本当の意味で貧困から脱することができません。王三太氏は、「唐辛子の病虫害を防除するために、化学薬品に反対しているわけではないが、育種がこれらの問題を長期的に解決する方法だ」と述べました。
(翻訳・藍彧)