中国不動産大手である恒大(エバーグランデ)の経営危機が、多くの銀行などの金融機関に波及し、経済の混乱を悪化させています。さらに、習近平は金融機関の責任者を突き止め、責任を問うために動いているとの情報があり、恒大の最大債権者である中国民生銀行が最も危険にさらされています。
習近平は9月に行われたある会議で、不動産業界の不正行為を徹底的に取り締まるために、経済が減速することさえ容認できると述べました。特に、許家印(シュー・ジアイン)と恒大の経営陣が、銀行から融資を受ける際に銀行幹部にキックバックや賄賂を提供するなど、違法な資金調達に関与していないかどうかを重点的に調査すると強調しました。習近平は、「汚職を徹底的に調査する」必要があるとも述べました。
180の銀行に波及、民生銀行が最もリスクを抱える
恒大の債務リストには、約180以上の銀行や金融機関が関与しています。当局は恒大の主要な債権者として20の銀行を特定し、国有銀行や一部の地方政府が管理する銀行を含めて重要な調査対象としました。
2023年9月末、恒大の創業者である許家印は強制捜査の対象となり、中国共産党政治局の常務委員9人を含む780人以上の高官や官僚に賄賂を行ったと供述しました。特に、銀行の金融システムに関して、許家印は1億元(約20億円)の融資に対して3000万元(約6億円)、つまり、30%の高額なキックバックで賄賂を行い、多くの銀行幹部をコネにできたと供述しました。現在、多くの銀行幹部が当局に連行され、連行されなかった銀行幹部は日々怯えているようです。
恒大の20の債権者の中で、元党書記で中国銀行頭取(とうどり)の劉連舸(リュウ・レンガゥ)は、収賄(しゅうわい)と不正融資の疑いで、2023年10月7日に「双規(そうき、逮捕状なき強制捜査)」されました。その2日後の10月9日、中国光大銀行の前頭取(とうどり)である李暁鵬(リー・シャオペン)も捜査されました。
また、恒大の最大の債権者である民生銀行も調査対象となっています。その管理諮問委員会の元副会長である邢本秀(シン・ベンシュウ)は、2023年5月13日に連行されました。邢本秀は2月に退職したばかりで、わずか3か月後に調査対象となりました。
恒大破綻に関連する不良債権などに対応するため、民生銀行は2023年7月に恒大グループとの取引がすべてプロジェクト・ファイナンスであることを発表しました。この取引は特定のプロジェクト用の土地や建設プロジェクトを担保としていました。同時に、プロジェクト企業の株式質入れと恒大グループの連帯責任担保も追加されました。また、恒大のリスクが発生した後、民生銀行は徹底的に調査し、一定の成果を上げ、コントロール可能なリスクだと主張しました。
しかし、外部からの意見では、恒大が再生の見込みがない状況で「リスクを管理可能」だとすることは、恒大が再生できることを前提としていると指摘しました。恒大の最大債権者である民生銀行も金融危機に陥っている現状では、恒大はすでに救えません。なぜなら、中国のプロジェクト・ファイナンスは通常、「ノンリコースローン(非遡及型融資)」であることが多く、恒大の場合、建設中の住宅プロジェクトを完了できない状況では、銀行がどれだけの資金を回収できるかは予測が難しいからです。
通常のローン(リコースローン)は、借り手の信用に基づいて融資を行い、返済の原資は借り手の全財産が返済責任を負うことになります。ノンリコースローンの場合は、借り手は債務全額の返済責任を負いません。例えば、不動産を対象とした場合、返済の原資は対象となる不動産の産み出すキャッシュフローのみを返済原資に限定します。銀行などの貸し手も、借り手に対し、対象の不動産以外の財産をもって返済することを要求できず、不動産運用終了後の不動産売却額が返済金額を下回っていても、それ以上は借り手に請求できません。
2020年6月30日まで、恒大グループの負債には、128の銀行型金融機関と121以上の信託、地方融資平台、資産運用、小規模融資などの非銀行型機関が含まれていると示す資料もありました。そのうち、国内の銀行型金融機関からの借入残高は2163億元(約4.4兆円)に達し、中でも民生銀行は293億元(約6000億円)と最も多くの債務を抱えています。民生銀行は比較的規模が小さいため、リスクが最も高いとされています。
民生銀行の2022年の財務報告書によると、同行の年間営業収益は1425億元(約2.9兆円)で、年間純利益は353億元(約7200億円)でしたが、恒大グループからの293億元(約6000億円)の借入金は、2022年の純利益の83%を占めていました。
2023年の上半期、民生銀行の営業収入と利益が同時に減少し、それぞれ3.6%と3.5%の減少が見られました。
民生銀行への国有資金注入
2023年10月26日、民生銀行の株式取引で6件のブロック取引(大口取引)が発生し、合計取引量は941万株、取引金額は3472万元(約7億円)でした。同株式は過去3か月で合計23件の大口取引があり、合計取引金額は50.2億元(約100億円)に達しました。
これに対し、北米の投資コンサルタントのマイク・サンは、大紀元とのインタビューで次のように述べました。「大口取引が連続して発生しているのは、政府が民生銀行の資本を補充するための措置である可能性が高い。上半期の財務報告によると、民生銀行の資本充足率(ESR)は12.69%だったが、恒大への293億元の融資はほぼ不良債権となったため、実際の資本充足率は資本の健全性を示す8%を下回った。10月31日に第三四半期の財務報告書が発表される直前に、これらの大口取引の意図は資本を補充し、投資家に良好な財務データを示し、投資家の信頼を高め、以前の河北省滄州(そうしゅう)銀行の取り付け騒ぎの再発を防ぐことにある」
国有企業である中央匯金(かいきん)投資は2023年10月11日に4大国有銀行の株式を増資し、今後も増資を続けると発表しました。この措置は、当局が恒大の破綻による金融システムの危機を懸念していることを示しています。
恒大破綻の悪影響は金融機関に波及しており、さらに、地方政府の債務危機も金融危機を引き起こす可能性がある別の潜在的なリスクとなっています。例年通り、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)は間もなく開催されます。三中全会は通常、経済問題を議論しなければならないため、習近平は現在、巨大な経済的・政治的圧力に直面しているでしょう。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙10月26日の報道では、中国当局は不動産デベロッパーを支援し、国民の不動産購入意欲を刺激するための措置をいくつか講じていますが、不動産デベロッパーの債務再編を支援する包括的な計画は打ち出していないと指摘しました。その結果、銀行や他の利害関係者が損失の矢面(やおもて)に立たされることなります。記事によると、北京の決定層に精通した関係者は、包括的な債務再編計画が欠如している一因は、習近平が不動産バブルを収束させなければならないと指示したためであると述べました。そのため、大手不動産業デベロッパーや地方政府を救済し、未完成の住宅を引き渡すよう求める提案は、中国当局の認可を得ていないとされています。
(翻訳・藍彧)