中国当局は過去2、3年にわたり、パスポートに対する規制の適用範囲を拡大しており、現在では一般の公務員、銀行員、教師、医療従事者、金融従事者、および政府系金融機関に勤務する人々も規制の対象となっています。

銀行員、黄さんのケース
 北京の国有銀行で働く黄さん(男性)は、2006年にその銀行に入社しました。2016年まで、勤めていた国有銀行では、個人のパスポートに対する厳格な管理が行われていましたが、2016年以降、一般職員は自身のパスポートを自分で保管できるようになり、一方で中級以上の幹部のパスポートは銀行の人事部門が管理するようになりました。

 黄さんは、ボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、「毎年、私たちは幹部用のインテグリティ・フォームを提出しなければならない。その中には出入国状況の申告が含まれている。また、銀行内部には職員の管理システムがあり、毎年パスポート情報の更新が義務付けられている。勤め先が職員のパスポートを預かることは、職員の権益侵害だと思う」と述べました。

大学職員、熊さんのケース
 江西省のある大学で行政関係の管理職を務める熊小芳さん(シゥンショウファン、女性)は、2005年に同校の行政部門に就職しました。

 熊小芳さんはボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、「コロナが流行する前までは、この(パスポートを提出する)規定は、課長レベルの幹部にしか適用されていなかったが、パンデミックの後、段階的に全教職員に拡大された。2022年には学校が新たな内部通達を出し、すべての人がパスポートを提出し、出国を計画する場合は事前に報告する必要があると規定した。しかし、私の知る同僚の中には、規定に従いながらも出国が許可されないケースもいくつかはあった。また、毎年提出しなければならないインテグリティ・フォームには、全教職員が自身の情報だけでなく、子供の留学先、支出の詳細、海外貯金、国内財産などを詳細に報告することが義務付けられている。パスポートの制限と同様、これらの政策に対して私は疑念を抱いている。なぜなら、実際の実権を握っている高官や官僚は、財産をすでに親や子供の名義に変えており、これらの政策は彼らを制約できないからだ」と述べました。

元政府高官のケース
 安徽省人事局の元政府高官である朱さん(男性)は、ボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、2000年に政府官僚になり、2012年には私用のパスポートを取得し、当時はまったく制約を受けなかったと明らかにしました。しかし、2018年の憲法改正以降、中国のパスポート政策は非常に厳格になりました。政府は公務員に対してパスポートの提出を要求し、提出しない場合、上司が懲戒処分される対象となります。さらに、公務員は携帯電話に指定された監視アプリのインストールを義務付けられています。

 朱さんは、「2012年、習近平氏が政権を握る前、私は公務員としてアメリカやヨーロッパへ旅行し、帰国時に同僚にお土産を持ち帰り、当時は何の制約もなかった。パスポートの規制政策が本格的に厳格に実施され始めたのは、2018年の憲法改正以降で、国家主席の任期が最大2期と制限され、政治的な学習が頻繁に行われるようになっている。オフィスの壁には政治関連のキャッチコピーや指導者の語録が満ちて、まるで『赤』の海と化したかのような雰囲気が漂っており、これが私に文化大革命の時代を連想させる」と語りました。

 上司にパスポートの有無を報告するよう要求された際、多くの人が最初はパスポートを持っていないと回答しましたが、その後、繰り返し調査が行われました。

 朱さんは、当時の状況を次のように述べました。「当時の人事局の課長は、私が以前海外旅行をしたことがあるので、パスポートを持っているのではないかと疑っていた。私はパスポートの有効期限が切れていると説明した。しかし、彼は私がパスポートを提出しない場合、政治的な過ちを犯すことになると警告した」

 朱さんは、中国当局がパスポートを厳しく制限する理由について次のように語りました。「中国当局は、すべての国民を政府と緊密に結びつけ、あらゆる逃げ道を断つためだと思う。実際、私の周りにいる90%以上の体制内の人々は、中国の現状に非常に不満を持っている。私の友人や同級生の中には警察官、国家安全局の職員、旅行会社の経営者なども含まれており、彼らは強制的なパスポート提出と携帯電話への監視ソフトウェアのインストール政策に非常に不快感を抱いている」

最高執行責任者、梁さんのケース
 北京市の元弁護士である梁少華(リョウショウカ、男性)さんは、2012年から2018年まで、国務院系の企業「中国光大グループ」傘下の光大永明保険会社で最高執行責任者(COO)として務め、同社の法務業務を担当していました。梁さんは、2012年まではパスポートに制限がなかったと述べました。しかし、2014年と2015年以降、会社は管理職に対してパスポートの提出、および使用前に承認が必要であると通達しました。

 梁さんは、ボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、「当時、この通達は同社の党委員会が出したもので、国有企業内部の幹部は党によって管理されており、企業内の重大事項の決定、重要な幹部の任免、重大プロジェクトの投資決定、大規模な資金の使用など、すべては党委員会の管理下にある」と語りました。

 梁さんは、習近平政権について次のように述べました。「中国は西側諸国と徐々にデッカプリングしており、ロシア、北朝鮮、イラン、アフガニスタンなどの独裁国家と親近し、新たな利益陣営を形成している。胡錦濤政権時代では、中国と西側諸国との交流が頻繁に行われ、国民はまだ希望を抱いていた。しかし、習近平政権が台頭した後、政治的圧力が強まり、多くの反体制派が沈黙するようになった。国際社会の中国に対する見方が悪化し、習近平氏の国際的な招待機会が減り、部下の高官や官僚の海外渡航機会も減った。さらに、中国の外貨準備高が2014年の約4兆ドル(600兆円)から2023年には3兆ドル(450兆円)に減少し、外資系企業の撤退も相次いでいた。中国当局は米ドルで石油を買う必要があるだけでなく、ロシアやアフリカに多額の支払いを行う必要もある。そのため、習近平氏は地方の官僚がドルを使って海外に出張することをますます嫌がるようになっている」

人権活動家のコメント
 アメリカ在住の人権活動家、界立建(かい・りっけん)さんは、コロナ流行期間中、多くの人が不動産を投げ売りし、資金を海外に移し、より多くの人が中国を離れることを選択していると述べました。これには体制内の人々も含まれており、彼らの決断は中国の現状に深刻な不信感を抱いていることを反映しています。

 界さんは、ボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、「体制内の人々、特に公務員の多くは、かつて中国当局の悪事を執行する者であり、陳情者や反体制派に対する暴力の加害者でありながら、結局は政府の管理対象にもなっている。彼らは党の一員だと思っているが、最終的には出国を制限され、退路を失い、政府の支配と経済の安定を維持するために利用される駒になっている」と述べました。

 界立建さんは、中国当局がパスポート管理を強化する根本的な原因として、中国の経済崩壊、雇用市場の縮小、資金の大規模な流出、若年層の労働力の大量流出などを挙げています。

(翻訳・藍彧)