習近平氏は、昨年10月の中国共産党第20回全国代表大会の報告で、「共同富裕」を将来の重要政策として繰り返し強調し、これを中国式の近代化の一部と位置づけ、高所得者への規制の必要性を強調しました。
中国国民は、これに対し、中国当局が「共同富裕」という名目で個人の私有財産を奪おうとしていると考えています。そのため、中国本土では大規模な資金流出が発生し、富裕層は危機感を感じ、相次いで香港に口座を開き、香港を中継地として資産を移す動きが広がっています。
専門家が、中国本土から香港などへの資金流出の根本原因は、北京にあると考えています。
「共同富裕」政策が中国の資金流出を加速
中国の富裕層が最も懸念しているのは、資産の安全性とその保護です。中国当局の「共同富裕」政策は、すでに富裕層や中産階級に不安を抱かせ、パニックを引き起こしています。多くの富裕層は、資産の多様化を実現させるためであれ、将来の移住計画を進めるためであれ、海外での資産保有が極めて重要だと考えています。そのため、多くの中国の富裕層が様々な手段やルートを使って資金を海外に移しています。
ブルームバーグが10月9日に報じたところによると、地下銀行を通じて資産を海外に移す富裕層がますます増えており、今年には中国から合計で1500億ドル(約22兆円)が流出すると予測されています。
今年に入って以来、中国本土の観光客は、香港で口座を開設するため、大行列を作り、香港の各銀行で取り付け騒ぎを引き起こしています。9月7日の午前8時、香港尖沙咀の広東道に位置するチャイナ香港シティ(中港城)の中国銀行支店の外では、多くの中国本土からの観光客が長い列を作って、営業の開始を待っていました。
中国本土からの市民、朱さんのケース
西安市から香港を訪れた朱さん(女性)は、メディアに対して、わざわざ香港に来て口座を開設しようとしたのは、資金を香港の銀行に預けて高い利息を得るためであると語りました。彼女は今回、10万香港ドル(約190万円)を預けるつもりだと述べました。
朱さんの説明によると、中国本土では人民元が元安になり、利率も下がり続けており、一方で香港では利率が上昇しており、さらに中国本土の経済状況が厳しいため、資金を他の通貨に切り替えることに決定しました。また、香港を訪れる中国人は1人あたり1回に2万元(約40万円)の現金を税関を通過させて持ち込むことが許されているため、多くの人々がこの「アリの引越し」のような形で人民元を持ち出していると説明しました。
香港での口座開設ブームは依然として続いており、増加傾向にあります。中国銀行のチャイナ香港シティ支店は「SNSで話題の口座開設スポット」と言われており、通常、午前8時半に営業を開始しますが、7時にはすでに客が列を作り始めています。一部の人気銀行の口座開設予約は、1か月先まで詰まっていることさえあります。しかし、列に並んだからといって、必ずしも口座開設が成功するわけではありません。香港の住所や資産証明が必要な銀行もあれば、口座開設手続き前に一定額の預金や金融商品の購入が必要な銀行もあります。
中国本土から香港への預金ブームもあり、香港の口座開設を専門に扱う「口座開設仲介業者」が現れるようになりました。これらの口座仲介業者は、主に中国本土の顧客に香港での口座開設サービスを提供しています。
ある口座開設仲介業者は、現在香港の銀行と提携しており、預金や投資などの資産証明を提供する必要のない口座開設の枠を提供することができると紹介しました。それには、香港上海滙豐銀行(HSBC)、香港スタンダードチャータード銀行、香港中信銀行などが含まれており、当日に口座開設し、当日に銀行カードを受け取ることができます。1口座あたりの手数料は、1880元(約38000円)から2880元(約59000円)まで異なります。
香港ドルや米ドルの預金を購入するだけでなく、貯蓄型の香港保険も資金移動の手段として活用されています。香港の保険契約は、中国本土よりも保障が充実し、優れており、それに伴う貯蓄および投資商品のほとんどが米ドルで計られおり、グローバルに送金できる利点があります。
香港への資金流出の根本原因は北京にある
香港のベテラン銀行家である吳明德氏は、中国本土の資金が香港へ流出する背後に、中国当局の幹部層の裏での操作・関与が欠かせないと考えており、彼らが「ゴーサイン」を出していると指摘しました。
香港金融管理局(HKMA)が9月29日に発表したデータによると、香港の人民元預金は8月に6.0%増加し、8月末には9625億元(約20兆円)に達しました。一方、香港ドルの為替レートの安定を支えるための政府の財政準備である香港為替基金は、8月に358億香港ドル(約6800億円)減少しました。これはつまり、香港の資金が流出しており、しかも大規模であることを示唆しています。
一部のアナリストは、香港からの資金流出の根本的な原因は北京にあると指摘しています。香港特別行政区政府の元財務官僚であった馬時亨氏は、現在の香港経済は過去20年で最も悪い状況であると述べました。
また、資金流出と経済の低迷の影響により、人民元はアジア地域で最も弱い通貨の1つとなっています。10月初めの大型連休中に人民元は比較的安定していましたが、ブルームバーグの調査によると、年末までにオフショア人民元対米ドルの為替レートは7.6元に下落すると予測されています。
「共同富裕」なのか、それとも「共同貧困」なのか
中国経済が低迷し続ける中、北京当局は依然として「共同富裕」のスローガンを掲げ続けています。習近平氏はこのほど、浙江省を訪れた際、共同富裕モデル地区の建設に焦点を当て、新しい時代を全面的に示す重要な窓口を作成することを強調し、浙江省は「共同富裕」の推進において、最初のモデルになり、実証を行うべきであると述べました。新華社が9月26日に報じました。
評論家の蘇文寅氏は、鄧小平時代の改革開放によって蓄積された富が、中国の一般庶民に「共同富裕」をもたらすものではなく、地域間の格差、都市と農村の格差、所得格差、貧富の格差を拡大させるなどの問題をもたらしたと指摘しました。現在のデータによると、「共同富裕」は現実社会とは完全に乖離しており、中国の貧富の格差は縮小どころか、ますます拡大し、二極化が進んでいるとされています。
北京大学経済学部の張維迎教授は、中国経済50人フォーラムでの投稿で、富を創出しているのは企業家であると指摘しました。富裕層や企業家の起業意欲が低下すると、雇用機会、消費者、慈善事業に影響を及ぼし、国が貧困に逆戻りする可能性があると述べました。張維迎氏は、「市場への信頼を失い、政府の介入がますます増えると、中国は共同貧困に向かうしかない」と強調しました。
(翻訳・藍彧)