中国経済の減速と不動産企業の経営破たんが相次いで発生しているため、ここ1年間で労働と住宅に関する抗議デモが急増し、今後も増え続ける可能性があります。アメリカの非営利団体「フリーダムハウス」傘下の「チャイナ・ディセント・モニター」が発表した最新の統計で明らかになりました。

 ボイス・オブ・アメリカの報道によると、中国当局は国内での様々な抗議デモを抑制し、世論に対する厳格な検閲・統制を行うことにより、国内の抗議デモの連携や情報の外部への伝達が難しくなっています。「フリーダムハウス」が昨年立ち上げた「チャイナ・ディセント・モニター」の最新の統計によると、今年6月末までの1年間で、中国では公に記録された反体制抗議デモは2803件にのぼり、関係者数は3万人を超えたとされています。

失業・減給の不満で、抗議デモが倍増

 「チャイナ・ディセント・モニター」が8月に公表した第二四半期の報告書によると、4月から6月にかけて、メディアの報道、ソーシャルメディア・プラットフォーム、中国の民間組織などを通じて、合計535件の反体制デモを収集しました。そのうち、労働および住宅に関する抗議デモが多くを占め、それぞれ59%と22%に達しています。

 報告書によると、中国全土での労働関係の抗議デモは、昨年12月から激化し、今年6月の単月だけで、少なくとも93件の労働権益関係の抗議デモが発生し、昨年同時期の2.35倍に上るとされています。抗議デモの背後には、中国経済の減速や製造業の4ヶ月にわたる縮小と密接な関連があるとされています。

 地域別に見ると、中国の製造業の主要拠点である広東省が最も深刻な状況です。ここ数か月間で労働者の抗議デモの35%から50%が広東省で発生しています。広東省政府は輸出の低迷、製造業の縮小、外資系の投資が18年ぶりの低水準に減少するなどの影響を受けて、昨年の財政収入が2021年に比べて4.8%減少しました。

 「チャイナ・ディセント・モニター」網の責任者であるケビン・スラテン(Kevin Slaten)氏は、住宅に関する抗議デモについて、中国の不動産市場が近年、大手不動産企業の債務不履行危機や未完成物件などをめぐる論争が相次ぎ、その結果、ますます多くの住宅物件所有者が被害を受け、自身の権益を守るために街頭に出て抗議デモを行わざるを得ない状況に追い込まれていると述べました。

 スラテン氏はボイス・オブ・アメリカに対して、「中国の不動産業界には深刻な問題が生じており、さらなる抗議デモの波が起きる可能性がある。我々はさらなるデータを調査し、この傾向を明確にするために努力している。今年上半期においては、労働者による抗議デモが明らかに急増している」と述べました。

内モンゴル族やチベット族の抗議デモ、強く打撃されている

 「チャイナ・ディセント・モニター」は、昨年6月から中国の反体制派をモニタリングし始め、定期的にデータを公表しています。このモニタリングは、中国メディアの検閲による情報欠如や、中国国内からの関連情報の収集に伴うリスクに対処するために設立されたものだと、スラテン氏が述べました。同ウェブサイトは、中国国内の実体の抗議デモを優先的に注目するだけでなく、さまざまなオンラインの反体制事件も統計対象とし、「中国国民を声援し、世界中の人々が彼らの声を聞くことができるようにする」ことを目指しています。

 統計によると、中国国民の78%が抗議デモを通じて反対を表明しており、残りの抗議デモは阻害、占拠、非協力(5%)、請願、ストライキ、芸術的表現などを通じて行われています。

 これらの抗議デモの動機は、住宅物件や労働者の権益などといった個人的な経済利益の問題に限らず、中国の少数民族による抗議デモも70件公に記録されています。その中で、内モンゴル族やチベット族は伝統文化やアイデンティティの保護を目指す抗議デモが多く、注目すべきは、これらのオフラインデモのうち約三分の二が鎮圧されていることです。これは、デリケートな民族問題に関連する抗議者が依然として高いリスクにさらされていることを示しています。

中国には世論を表明する手段がない

 宗教や民族問題と比べ、住宅物件や労働者の権益に関わる抗議は、個人の権益に焦点を当てており、政治的な問題や公共の利益についての訴えでないにもかかわらず、中国当局に無差別に弾圧されています。

 スラテン氏は、経済の不振が反発を引き起こす可能性が高いですが、中国当局はより深い懸念を抱いていると分析しました。中国当局は、給料がもらえず、新居に入居できない市民や他の少数民族たちが抗議デモを通じて結びつくことで、中国共産党の政策や権威主義的な統治体制に対する批判が高まり、それによってより大きな政治的な混乱が生じることを恐れています。

 海外に亡命しているある中国の人権活動家(匿名)は、ボイス・オブ・アメリカとのインタビューで、中国国内での抗議デモが絶えず発生する背後には、中国国内での世論や民意を反映させるメカニズムが不在であることが一因として挙げています。

 この人権活動家は、「全国人民代表大会」が事実上政府の意思を反映するだけの存在であり、市民の声を真摯に受け止めたことはないと指摘しました。また、以前は調停役として機能していた人権弁護士や労働者団体も、2015年以降、中国共産党政権により弾圧されたため、さまざまな社会問題が政府と国民の対立へとエスカレートしてしまいました。

 中国共産党の体制が変わらない限り、未完成物件や金融危機などの論争は解決が難しいでしょう。最終的には経済問題の悪化が、より敏感な政治的な混乱へと発展する可能性もあるでしょう。

地方官僚が「タンピン」姿勢を取る疑念

 台北に在住している北京六四天安門事件の元指導者、王丹氏は、近年の中国の抗議デモについて、抗議する市民や地方の官僚の両方に変化が見られていると述べました。

 昨年末の「白紙革命」は一時的に国際的な注目を浴びましたが、失業などの経済的困難に直面している中国の若者たちは、「タンピン(低欲望のライフスタイル)」を選んだり、「我々は最後の世代だ」を叫んだりなど、消極的な抵抗を取っています。

 このような背景を踏まえて、抗議デモの総数は「チャイナ・ディセント・モニター」の統計よりも遥かに多いかもしれませんが、明確な政治的訴求を提出するほどの増加や、中国共産党の支配に揺さぶりをかけるほどの地域間連携は見られないと、王丹氏が指摘しました。

 また、抗議者だけでなく、抗議者を鎮圧する地方政府も「タンピン」の姿勢をとっているようです。例えば、昨年4月に河南省で起きた銀行預金者たちの抗議デモや、最近の河北省霸州市の市民たちによる洪水対策への不満から起きた政府包囲事件では、公式の強制鎮圧や報復が見られません。

 王丹氏はボイス・オブ・アメリカに対して、「地方政府のデモ鎮圧力は、以前ほど強くはないようだ。実際、中国の安定維持機関もある程度『タンピン』の状態になっているようだ。さらに、タンピンは習近平政権に対する一種のソフトな抵抗でもある」と述べました。

(翻訳・藍彧)