経営危機に陥っている中国の不動産大手「中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ)」が8月17日、米国で連邦破産法15条の適用を申請しました。専門家によると、恒大は積極的に再編を図り、再び事業を立て直すことを試み、中国当局の「保交楼(不動産の引き渡し保証)」要求に対応するために時間を稼ごうとしています。しかし、恒大が危機を脱するためには、「融資」と「売上高」の2つの課題を克服する必要があります。特に、中国の不動産市場の見通しが不透明であり、「銀行、信託商品、地方債」も不動産企業に続いて破たんすれば、恒大は迅速に清算して損失を抑えない限り、債務の穴はますます広がる恐れがあります。

恒大、中国史上最大の債務再編ケース
 米連邦破産法15条は外国企業に適用されるが、外国企業が債権者の差し押さえなどから米国内の資産を保護するために申請する。恒大集団は2021年12月にドル建て債の債務不履行(デフォルト)に陥っているので、この申請には意外感はありません。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、恒大は裁判所の承認を得るため、総額190億米ドル(約2.78兆円)に及ぶ債務再編協定を提出し、米国の債権者による差し押さえや清算から資産を守ることを試みています。

 恒大はかつて、中国で第2位の売上高を誇った不動産デベロッパーであったが、2021年初に債務不履行が発生して以来、債権者との債務再編交渉が2年近く続いています。一部の市場関係者は、恒大が香港、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島で進めている債務再編計画が近く法廷で承認されれば、全てのオフショア債権者に法的拘束力を持ち、債務危機を一時的に和らげる可能性があると見ています。

 香港の裁判所は、9月5日から6日にかけて、恒大のオフショア債務再編計画に関する審理を行う予定です。

金融アナリスト聂振邦の分析
 香港に拠点を置く金融機関であるBlackwell Global(ブラックウェル・グローバル)のファイナンシャルチーフアナリストである聂振邦(71歳)は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、恒大が米国で連邦破産法を申請したのは、「時間と交渉の余地を確保し、すべての債権者に債務再編案を受け入れてもらうよう説得するためである」と述べました。ただし、米国の裁判所が9月末に承認するまでは、恒大は依然として破産や清算のリスクにさらされているため、現時点では投資家が中国本土の不動産企業に関わることをおすすめしません。

 聂振邦は、「恒大が債務再編の合意に達すれば、市場は大きな朗報と捉え、不動産業全体の債務不履行リスクが大幅に低下するだろう」と述べました。しかし、ロビー活動が失敗すれば、市場は中国の不動産企業に対する信頼を取り戻すことが難しくなり、中国の不動産市場も引き続き低迷が続く可能性が高いです。
聂振邦は、もし恒大が清算に入った場合、多くの資産の処理にかかる時間は数年単位となるため、債権者にとって必ずしも有利ではないと指摘しました。一方、債権者が債務再編協議を受け入れる場合でも、恒大が債務を帳消しにするまでには長い時間がかかるでしょう。

 中国政府が要求する「保交楼(不動産の引き渡し保証)」については、聂振邦は「恒大は建設中のプロジェクトを他の不動産企業に売却して現金化すれば、財務状況が改善されるだけではなく、保交楼の圧力も軽減されるだろう」と見解を示しました。

謝田教授「中国版のリーマンショックか」
 サウスカロライナ大学エイキン校の謝田教授は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、恒大は復活の可能性を見出せないと指摘しました。なぜなら、中国の不動産市場は供給過剰で、人口成長が鈍化し、若者の失業率が上昇し、住宅に対する硬直的な需要(経済用語:実際の需要)が不足しているため、急速な売上回復は不可能だからです。さらに、中国の不動産価格は持続的に下落しており、一般市民は慎重姿勢をとり、蓄えを投じて住宅を購入することを躊躇しています。

 謝田は、特にコロナ流行後の中国の景気回復が弱いため、投資・消費・輸出のいずれも停滞しており、経済成長の駆動力が不足しているため、不動産市場が栄光の時代に戻るのは困難だと指摘しました。利下げや貸出緩和などの政策が実施されても、不動産市場を刺激する効果は限られているでしょう。

 謝田教授はまた、恒大だけでなく、碧桂园(カントリー・ガーデン)などの他の中国の大手不動産企業も次々と財務危機に見舞われ、資金繋がりの途絶により未完成物件がますます増えるだろうと述べました。そのため、中国当局が掲げる「保交楼」、つまり契約通りの数量・品質・納期で物件を購入者に引き渡すという任務は実現困難です。将来的には正常な引き渡しが行われない場合、中国の住宅購入者がローン返済を拒否することにより、銀行、信託商品、地方債、外国為替などの分野で連鎖的な破たんを引き起こす恐れがあります。

 恒大の出来事は単なる「中国版のリーマンショック」に留まらず、中国の金融システム全体の崩壊を引き起こす可能性があります。

 謝田教授は「赤竜の金袋」という本を執筆し、中国共産党がどうのようにして中国人民から巨額の富を収奪・蓄積してきたかを深く分析しています。謝田教授は10年前に中国の不動産市場が過熱していることを予測し、当時バブルが崩壊しても市場が回復できる可能性があるとしましたが、現在では過剰に膨張しており、崩壊を食い止めることは非常に難しい状況にあると述べました。

 恒大の破たんについて、謝田教授は次のように語りました。通常の商業ロジックに従えば、破産して損失を止めるべきであるが、習近平は、恒大の破たんが不動産市場と金融システムに連鎖的影響を及ぼすことを懸念し、恒大が負債を回避するために破産することを禁じただけでなく、中国共産党政権に影響を与える社会的騒乱を引き起こさないよう、物件の引き渡しを保証する任務を果たすよう求めています。

 また、江沢民や曾慶紅といった中国共産党の権力者一族も、恒大を資金洗浄(マネー・ローンダリング)のための道具として利用し、金儲けに手を染めてきたため、恒大の破たんは彼らにとって都合の悪いことです。恒大は過去に、これらの元権力者の影響力を利用して地方政府から土地を取得し、国営銀行から融資を受け、その後に配当や現金化などの手段を通じて資金を権力者の懐に流し込んでいました。

 「習近平も当然困っているだろう。(恒大を)救わなければ、金融システム全体を崩壊に引きずり落としてしまう可能性がある。救えば、かつてのライバルたちを助けることになり、彼ら(江派と曾派)は習近平を脅かすためにこれを利用する可能性がある。今の状況では、習近平政権にとって、救うかどうかにもかかわらずジレンマに陥ることにある。もう1つの問題は、(恒大を)救った場合、次はどうするかということだ。不動産が崩壊すれば、さらに多くの信託会社が続いて破たんする可能性がある。信託会社が破たんすると、最終的に銀行も破たんし、そうすると中国共産党政権が破滅しかねない」

 台北に拠点を置き、敏感な話題のために匿名を希望する海峡両岸の不動産業界の研究ディレクターもボイス・オブ・アメリカの取材に対し、中国の不動産企業が多額の借金をして建設を進め、高レバレッジの金融取引モデルを採用しているため、資金回転が滞ると大規模な金融危機を引き起こす可能性があると語りました。90年代に台湾が経験した不動産市場の崩壊を考えると、中国も低迷する不動産市場を立て直すには10年以上の時間がかかるかもしれません。

(翻訳・藍彧)