中国の経済は内外の課題に直面しています。香港の企業家で、かつて中国人民政治協商会議全国委員を務めた劉夢熊(ルー・モンハン、74)は最近、次のように発言しました。「中国は政治が経済を主導し、政治的な考慮が経済的要因を凌駕(りょうが)し、経済の実態よりも政治的な利得を優先する習慣がある。中国は今日の世界において、経済が政治に最も縛られている国であり、他に類を見ない」。この発言はネット上で瞬く間に広がり、話題となっています。

 

劉夢熊「経済問題の根源は政治にある」
 シンガポールの「聯合早報」は8月21日に劉夢熊が執筆したオピニオン記事を掲載しました。彼は記事の中で、アメリカや西側諸国では、経済の繁栄・衰退・回復、そして再びの繁栄といった周期が存在し、その周期性に対応する経済対策も存在する一方で、中国では政治が経済を制御し、政治的な利得のみが計算され、経済的な利得は度外視されていると指摘しました。

 「現在、中国の経済は様々な課題に直面している。民間企業の倒産、外資系企業の撤退、投資の急激な縮小、輸出入の低迷、深刻な消費不足、連鎖的な債務破たん、大規模な失業、政府の財政危機などが挙げられる。投資・輸出・消費といった三大経済エンジンはすべてにおいて力不足であり、ひいては停滞状態に陥っている」

 中国国家統計局の7月の経済データは、不振でありまた予想にも遠く及ばない内容で、明らかにデフレの兆候を示しています。中国の第2四半期の海外直接投資(FDI)はわずか49億ドル(約7200億円)に過ぎず、前年同期比で87%減少しました。中国の恒大集団や碧桂園(カントリー・ガーデン)などの不動産大手は巨額の債務に苦しんでおり、不動産業界全体がすでに崩壊しており、それに伴う産業も危機に瀕していることが明らかです。バイデン大統領が、中国の景気後退は世界にとって「時限爆弾」とも表現しました。

 記事はまた、中国民間で流れている「経済の3つの新しいエンジンは国家統計局、中央宣伝部、新華社通信だ」というジョークを引用し、「経済を救うための手段はもはやただのホラ吹きしか残っていない」と皮肉交じりに指摘しました。世界第2位の経済大国である中国は、改革開放以降、急速な成長を遂げましたが、なぜここ数年で風雲急変(ふううんきゅうへん)し、急激に衰退に陥ったのでしょうか?その答えは、簡潔に言えば、経済問題の根源が政治にあるからです。

 劉夢熊は、「中国は現代世界で最も政治に縛られた経済国家であり、他に例を見ない」と批判しました。

 劉夢熊は中国の経済問題を次のように指摘しました。1966年から1976年にかけて、中国共産党政権は「文化大革命」運動を展開し、国民経済が崩壊の瀬戸際に追い込まれました。その後、1978年5月、胡耀邦は「実践こそ真理を検証する唯一の基準である」という思想解放運動を推進し、誤判や冤罪を大々的に糾正し、公民権を回復しました。これを基盤として、1978年末には鄧小平をはじめとする指導者たちによって、中国共産党政権は「階級闘争を中心とした総合戦略」を中止し、経済建設に重点を置く方針に転換し、改革開放の時代が幕を開けました。

 その後も、農村改革が行われ、人民公社制度は廃止され、家計単位での生産が導入されました。沿海部の都市が開放され、私営企業が市場に参入し、大量の労働力が吸収されました。海外からの投資を誘致し、香港、マカオ、台湾、アメリカ、ヨーロッパ、日本の企業が資本や先進的な科学技術、設備だけでなく、市場経済、法の支配、知的財産権、現代的な企業管理システムなどの概念も導入されました。

 2001年には中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、経済のグローバル化が一層加速され、国際分業の中で世界の工場となり、世界で最大の外貨準備を蓄積し、世界第2位の経済大国としての地位を確立しました。

 劉夢熊はまた、「実際、アメリカが中国に最恵国貿易待遇の提供から、中国のWTO加盟への支持まで、中国に市場を開放し、中国産商品を大量に輸入してきたこと、アメリカ企業が中国に大規模な投資を行い、最先端の技術を提供したこと、中国のために毎年多くの留学人材を育成し、米中友好の互恵的な関係などが国の経済発展の重要な原動力の1つとなっている」と強調しました。

 しかし、近年、中国の経済は螺旋状に下降しており、その原因は主に4つあります。

 1つ目は、政治的にイデオロギーを強化し、国家安全保障やスパイ対策の概念を悪用して、投資家や専門家に心理的脅威を与え、中国から遠ざかるようにしています。

 2つ目は、「国進民退」政策が挙げられます。

 3つ目は、習近平の個人崇拝を新たな高みに押し上げていることが挙げられます。

 4つ目は、戦狼外交(せんろうがいこう)の推進により、中国を再び鎖国状態に戻す結果となりました。「連年にわたる戦狼外交の影響で、米中関係は1972年のニクソン大統領の訪中以来の最低水準までに低下した。中国と日本、韓国、オーストラリア、カナダ、欧州諸国との関係も数十年来の谷底にまで落ち込んだ。一帯一路政策や借金漬け外交、アフリカへのばら撒き政策の結果、真の盟友は得られず、中国人民の膏血(こうけつ)を台無しにし、国民の生活が犠牲にされるだけだった」

 劉夢熊は記事の最後で、中国共産党体制が今日の中国におけるあらゆる問題の根源であると指摘し、「政治体制を改革しなければ、経済体制改革の成果が失われる恐れがあり、文化大革命のような歴史的悲劇が再び繰り返される可能性もある」と、元総理である温家宝の警告を引用して述べました。

劉夢熊と「聯合早報」の背景
 劉夢熊は香港の実業家で、かつて中国人民政治協商会議(CPPCC)第11期全国委員会委員や香港特別行政区政府戦略発展委員会委員を務めた経歴を持ち、現在は海外に居住しています。

 公開情報によると、劉夢熊は1948年に広東省台山市(たいさんし)で生まれ、1966年に広州市の華南師範大学附属中学校を卒業しました。1973年9月、当時イギリス統治下にあった香港に密航しました。その後、香港の金融業界で頭角を現し、金融界の魔術師として名を馳せる存在となりました。彼は1990年代後半から、徐々に中国共産党政権に接近し、支持の意を示す記事を執筆するようになりました。また、何度も中国共産党の金融部門の高官に提言を行いました。

 さらに、シンガポールの「聯合早報」の姿勢も注目に値します。近年、同紙の報道姿勢は北京に対してより傾斜していると言えます。では、なぜ今回「聯合早報」は中国共産党を公然と非難することに踏み切ったのでしょうか?

 この転機には背後にある事情があります。ワシントン・ポスト紙は7月、中国共産党が地政学的野心を達成する道具として華僑を利用していると批判する長文の記事を掲載しました。その記事は「聯合早報」に対して刺激的だったようで、その後、現地の読者は同紙の姿勢に大きな変化が見られることに気づいたのです。

 中国政治・経済の観察家である秦鵬は、「グローバルな民主主義社会が中国共産党の暴政に対抗する中で、異なる人々や組織が新たな選択をしている」と指摘しました。

(翻訳・藍彧)