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 偉大な文学者であるトルストイの名言の一つに「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」というものがあり、世界中の人々がこの言葉から、人生の真実の趣きを感じています。では、幸福には個人に共通するものがあるのでしょうか? もしこのようなアンケート調査があったとしたら、みなさんはどのような結果になると思いますか?

アンケート調査:自称幸せな人たち

 時は1988年4月。24歳の青年ハワードは、米国コロンビア大学の哲学科の博士課程で学んでいました。卒業論文のテーマ「人間の幸福は何によって決まるのか」を完成させるために、彼はランダムに1万通のアンケート用紙を市民に向けて配布しました。アンケートには、詳細な個人情報を登録してもらうほか、「現在の生活における幸福度」を選んでもらえるように、次の5つの選択肢が用意されていました。

A:とても幸せ B:幸せ C:普通 D:苦痛 E:とても苦痛

 2か月以上を経て、ハワードは最終的に5,200通を超える有効回答を回収することができました。集計の結果、「A:とても幸せ」を選んだ人はわずか121人でした。

 次に、ハワードはこれらの121人について詳細な調査と分析を行いました。これらの121人のうち50人はこの都市の成功者であり、彼らの幸福感は主にキャリアの成功から来ていることが分かりました。残りの71人は、一般的な家庭の主婦であったり、野菜を販売している農家であったり、会社の平社員であったり、さらに生活保護の受給者のような人までいました。

 これらの平凡な職業に就き、煌びやかな人生とは言い切れない人々が、なぜ成功者たちと同等に高い幸福感を持っているのでしょうか?
ハワードは、この71人との多くの接触と交流を通じて、これらの人々は職業も様々で、異なる性格であるにも関わらず、共通点があることに気づきました。彼らは質素ですが、他人に振り回されず、貧しくとも平和な気持ちで暮らしており、日常生活における必需品があれば普通の生活を楽しむことができるのです。

 この調査結果で啓発されたハワードは、論文を次のように結論づけました。
「世の中の最も幸福な人は2種類に分けられます。平凡だが静かで平穏な生活を送っている人と、傑出した人物で成功して有名になった人です。もし、あなたが平凡な人ならば、心を修め、欲望を減らすことで幸福を得ることができます。もし、あなたが傑出した人であれば、努力することで目的を達成し、キャリアの成功を収め、さらに高いレベルの幸福を得ることができます」

 ハワードの指導教官はこの論文を読んだ後、高く評価し、「優」の成績を与えました。

追跡調査:予想外の結果!

 あれから20数年が経ちました。学生だったハワードは、自分の生徒に授業を行う先生になっていました。ある日、思いがけない機会から、ハワードは当時の卒業論文を読み返しました。当時、自分を「とても幸せ」と思っていた121名の人々の現在がどうなっているか、ハワードの興味が湧きあがりました。この人たちの幸福度はその頃と変わらず高いままなのでしょうか?

 そこで、ハワードはこの121人の連絡先を調べ出し、3か月かけて彼らに追跡アンケート調査を行いました。当時71名の平凡な人たちからは、亡くなった2人を除いて、69通の有効回答が回収できました。20数年の間に、この69人の生活には大きな変化がありましたが、成功者の仲間入りをした人もいれば、相変わらず平凡な暮らしを送っている人もいました。また、病気や事故によって金銭面において生活が苦しくなった人もいましたが、彼らは依然として変わらず「とても幸せ」の選択肢を選びました。

 一方、当時の成功者だった50名の人たちの選択肢は大きく変化しました。順調なキャリアを歩み「とても幸せ」という選択肢が変わらなかったのは9人だけで、23人は「普通」の選択肢を選びました。倒産や降格などキャリアにおける挫折を味わい、「苦痛」を選んだ人が16人で、「とても苦痛」を選んだ人が2人でした。

 この調査結果を見て、ハワードは深く考え込み、数日間も考えに浸っていました。

 2週間後、彼は日刊紙に『幸福のパスワード』と題する記事を掲載しました。記事の中で、彼は2度のアンケート調査のプロセスと結果について詳しく述べました。記事の最後に、彼はこのように結論をまとめました。
「物質的なものによって支えられた幸福はすべて長続きできず、そのものの消失とともに去って行きます。心の安定と静けさ、そしてその結果として得られる心身の喜びだけが、真の幸福の源なのです」

 広く注目を集めたこの記事を読んだ無数の読者が「この人(ハワード)は幸福へのパスワードを解いた!」と、思わず感嘆しました。日刊紙は1日に6回も増刷し、この記事を世界中に広めました。

 メディアのインタビューで、ハワードは恥じ入った表情で「20年以上前、私は若すぎて『幸福』の本当の意味を誤解していました。しかも、多くの学生たちにこの間違った幸福観を伝えてしまった。この学生たちに対して、そして『幸福』そのものに対して、心からお詫び申し上げます!」と言いました。

 苦痛と感じることは、金銭に関することが多く、幸せと感じることの多くは、金銭とは関係ないところにあるようです。物質的なものによって支えられた幸福感は、長く続くことはなく、そのものの消失と共に去って行きます。心の安定と静けさ、そしてそれに伴う心の喜びこそが、真の幸せの源なのです。多くの人々に衝撃を与えた「幸福のパスワード」を、あなたは解けたでしょうか?

(翻訳・夜香木)