現在の中国は景気回復が鈍く、内需が深刻に不足しています。この状況を打開するため、中国当局は一連の新たな消費刺激策を打ち出していますが、いずれも効果は薄いです。当局は、中国社会が「低欲望社会」に入り、多くの人々が「タンピン(躺平)」というライフスタイルを選択していることを理由に挙げています。しかし、北京大学の劉俏(りゅう・しょう)教授が最近、新たな見解を示しました。同教授は、2.8億人もの中国人の年収が8400元(約17万円)未満というデータがあり、中国が「低欲望社会」に入ったのではなく、社会全体の所得水準が極めて低いからだと述べました。この話題はネット上で大きな反響を呼んでいます。

中国「低欲望社会」ではない=専門家
 北京大学光華管理学院院長の劉俏教授は、中国のウェブメディア「澎湃新聞」とのインタビューで、中国社会が「低欲望社会」に入ったとは考えていないと述べました。「現在の収入水準はあまりにも低すぎるため、基本的な公共サービスの対象となっていない人々がまだ多く存在し、彼らの多くのニーズが抑圧されている。例えば、14億の中国人の中で、どれだけの人がパスポートを持っていないのか、どれだけの人が高速鉄道や飛行機を利用したことがないのか、どれだけの人が一度も出身都市を離れたことがないのか。これらの問題は『低欲望』が原因ではない。むしろ、私は、人々のニーズを満たせないことが社会問題を引き起こす可能性を懸念している」

 劉氏はまた、中国の約2.8億人が年収8400元(約17万円)以下という統計データがあると明かしました。

 中国の公式データによると、2020年の中国の一人当たりGDPは、世界の経済圏の中で63位に位置し、一人当たり10503米ドル(約150万円)でした。これを人民元に換算すると、中国の一人当たりGDPは75683元(約150万円)です。しかし、中国の約2.8億人が年収8400元(約17万円)未満で生活しています。中国の国民が辛苦して創り出した経済的利益は一体どこに消えてしまったのでしょうか?その利益は誰の懐に入ったのでしょうか?

 劉氏は消費刺激策について、次のように述べました。現在の中国経済の短期的な回復には、財政政策への依存が必要です。すなわち、政府が経済政策の一環として、特定の金額や補助金を低所得者や社会的に弱い層に直接支給することにより、彼らの生活水準と消費能力を向上させ、需要を刺激する必要があります。もし2.8億人にそれぞれに年間1万元(約20万円)の補助金を支給すれば、年収を8400元(約17万円)から18400元(約36.7万円)に引き上げることができ、月収に換算すると700元(約14000円)から1500元(約3万円)になるでしょう。

 「多くの人々がこのお金を消費に使うだろう。このような財政政策が実施されれば、これまで長らく満たされなかった多くの硬直的な需要(人々が基本的な必需品や生活に不可欠なサービスを求める需要を指す)が解放されることが予測される。例えば、お肉の消費頻度が月に一度から週に一度に変化するなどの効果が考えられる」

 しかし、記者がウェイボー(Weibo)でハッシュタグ「#中国に約2.8億人が年収8400元未満」を検索したところ、関連するコンテンツはすでに見当たらない状況です。

 その代わりに、「#北京大学の教授が我が国の現在の所得基準はまだ低すぎると指摘した」というハッシュタグがネット上で話題となり、ネットユーザーの間で熱い議論を引き起こしました。

インフルエンサーや経済系ブロガーの投稿
 「専門家の言う通りだ。政府に言われた『低欲望社会』は、実は私たち国民が低欲望に迫られたのだ。お金があっても使いたくないのではなく、単にお金がないから使えないのだ」

 「やっと真実を語る教授が登場した。去年、我が国の世帯当たりの可処分所得の中央値は31370元(約63万円)であり、つまり、半数の人が月収2500元(約5万円)未満だったわけ。しかし、2500元(5万円)で何が買えるのか?家計を管理する人なら、そのお金の使い道がいかに少ないかわかるだろう」

 「1%の人が99%の富を持ち、99%の人々が1%の富を争い合っている現状だ。すべての物価が上昇している中、給与だけが下がっている。さらに、仕事を失うリスクも高まっている。いわゆる低欲望というのは単に貧しさからうまれたものだ。底辺の庶民は生活を楽しむ余裕がなく、生きることに必死だ。食べるために必死に働かなければならず、やっと生計を立てられる状態だ。働けば働くほど収入が減り、医療費を貯めなければならず、リストラされる可能性も考えなければならない。こうした状況の中では、消費などできる余裕がないし、ましてや子供を産むなんて到底考えられない」

 「この教授は真実を語っている。収入水準があまりにも低すぎて、消費能力もないのに、どうやって刺激することができるのか?」

「新浪熱点」の調査結果
 中国版ツイッター・微博(ウェイボー)アカウントの「新浪熱点」は、劉俏教授が澎湃新聞のインタビューで述べた見解に関して、「あなたは現在の収入水準についてどう思いますか?」という内容で調査を行いました。

 この質問に対して、中国の多くのネットユーザーやインフルエンサーからコメントが寄せられました。

 「広州市は四大一線都市の1つだが、給与の中央値はわずか4000元(約8万円)強で、一線都市でない都市については言うまでもなく、収入は低いどころか、超低いだろう。富はピラミッドの頂点にいる人々によって占められている」
 「これは最大な事実だ。ただし、専門家を含む一部の人々は、この事実を完全に無視しているようだ。一般大衆の低収入を向上させる方法に重点を置くことなく、消費を刺激することにばかり注力している。これらの刺激対策は非現実的なユートピア的なアプローチに過ぎない」
 「ほとんどの富はごくわずかな人々の財布に流れ込み続けている。ほとんどの人々は病気になることも、多くの子供を出産することも恐れている。厳しい現状をいくら覆い隠しても、これは現在および将来の現実となるだろう」
 「物価は年々上昇しているが、給与だけはまったく上がらない。良いスマートフォンを買うためには3ヶ月分の給与を貯金しなければならず、ドリアンを食べたくても値段の高さで躊躇する」
 「物価が絶えず上昇し、支出が増える一方だ。不必要な消費を減らし、基本的な生活費を確保し、まず生きることを保証しなければならない!さらに、緊急時のために少し貯金も必要だ!」
 「私が死を求めて車道に飛び出そうとしたとき、死を前にして恐怖ではなく解放感や安堵を感じている。結局、別の通行人が私を引き止めてくれた」

 2023年8月9日の報道によると、需要の刺激と消費の拡大は、中国の現在の経済政策で最も重要な課題の1つとされています。

利益は結局誰の懐に入ったのか
 中国の公式データによると、今年第2四半期のGDP成長率は前年同期比6.3%増で、2.7%増の米国を大きく上回っています。

 しかし、なぜ専門家や学者は中国の経済回復が鈍いと評価しているのでしょうか?なぜ中国の指導者たちは口頭で状況が良好だと言いながら、7月末から経済回復を促進する消費刺激策を次々に発表しているのでしょうか?

 また、中国国務院は7月28日、国家発展改革委員会による「消費の回復・拡大に向け20項目の措置」を公表しました。

 これらの事象は論理的に説明がつかないです。なぜ一般国民が経済成長を感じないのでしょうか?これらの利益が誰に独占されたのでしょうか?

 HSBC銀行の経済学者、辛怡然氏は、政策的な支援が強化されているにもかかわらず、最近の中国経済に強力な刺激が欠けており、市場を失望させる可能性があることは、詳細を見ればすぐにわかると指摘しました。

(翻訳・藍彧)