中国では最近、「国家重点大学の新卒者が辞職して宅配デリバリーに転職する」、「フォーチュン500企業の管理職が宅配デリバリーに転職する」というニュースや記事が頻繁に見られます。出前・宅配デリバリーの仕事が新時代において最も求められている職種のようです。福耀玻璃工業グループ(フーヤオ・ガラス・インダストリー・グループ)の創業者である曹德旺(そう・とくおう)会長は、「若者たちは製造業に従事するよりも、出前や警備員の仕事を選ぶ。これは正常なのか?」と述べました。
若者たちが製造業を敬遠する理由について、「看中国」中国語版の記事は次のように分析しています。
製造業の劣勢は何か?
製造業は中国の国家経済において非常に重要な支柱です。しかし、最近では若者たちが製造業から離れ、代わりに出前・デリバリー・宅配などの業界に転職するケースが増えています。製造業からの人材流出は、経済のバブル化を助長し、国の経済発展に悪い影響を及ぼす可能性があります。若者たちも製造業の重要性は理解しているものの、複雑な要因から、出前・デリバリー・宅配やその他の業界へと転職しています。
デリバリー配達員の仕事は、実際には高品質の仕事とは言い難く、彼らはほとんど一日中、都市の通りや路地を駆け巡り、負担の大きな労働をこなしています。また、夏の暑さや冬の寒さ、あらゆる悪天候を避けることができないだけでなく、店舗や顧客からの苦情も頻繁に対応しなければなりません。これは多くの人にはが理解しにくい側面です。同じハードな仕事であるにも関わらず、なぜデリバリーの仕事が製造業よりも魅力的に感じられるのでしょうか?
製造業の労働環境は基本的に工場内でのものです。現在、製造業で最も人手不足なのは、工場の生産現場という職種です。生産現場には、一般労働者だけでなく、高学歴の管理職も必要とされますが、各種募集広告や年に一度の大学生向けの採用イベントにおいても、注目を浴びることなく、人気が集まりません。
多くの若者が就職に難渋している中、製造業はそれでも彼らにとって最も望ましくない仕事の一つです。その理由は、現代の若者たちには多くの選択肢がありながらも、同じく低賃金で大変な仕事をしても、工場での勤務よりもレストランで皿洗いや宅配デリバリー、警備員といった仕事のほうが魅力的に思われるからです。
工場は厳しい現実に直面しています。それは、今の労働者に提供できる労働環境が極めて劣悪であるという現実です。若者たちは仕事に対して独自の評価基準を持っており、活気ある環境を求めていますが、製造業の生産ラインは最も単調な仕事の一つです。
製造業の窮地
若者たちにとって耐え続けるための重要な要因の一つは賃金です。労働は慈善事業ではありません。十分に魅力的な賃金や待遇があれば、続けることも可能です。しかしながら、現在の状況ではほとんどの工場の賃金は月に数千元(数万円)程度でしかなく、宅配デリバリーの仕事と同程度の報酬が得られます。また、工場の仕事内容は単調であるため、若者たちは当然ながら揺らいでしまうでしょう。
また、宅配デリバリーの報酬はアプリなどを通じてオンラインで支払われるため、賃金は必ず手元に届く保障があります。対照的に、工場の賃金は宅配デリバリーほど安定していません。多くの労働者は給与未払い問題に直面し、さらに多くの工場は細かな規則や制約が設けており、わずかな違反でも賃金が差し引かれることがあります。一部の工場では労働者を維持するために、1か月分の賃金を差し押さえるケースもあります。これは避けられないほど極めて劣悪な労働体験につながります。
このような一時しのぎの行動は、結果的にすべての若者が製造業に対して、ひどい待遇と劣悪な環境という固有の印象を抱くことにつながります。たとえ一部の製造業企業が努力して生産環境を改善しようとしても、業界全体の悪い名声を払拭するのは難しい状況です。むしろ若者たちが製造業を選ばないというよりも、実際には製造業が若者たちを追い出してしまったと言えるでしょう。
中国の製造業は徐々に衰退している一方で、出前サービス業は着実に成長しています。1つの業界の台頭は、別の業界の圧迫を意味します。遺憾ながら、製造業はその圧迫を受ける側となっています。大局的に見ると、製造業の崩壊は非常に憂慮すべき事象ですが、歴史は前進するものであり、人々は歴史の参加者としてその一部となる運命にあります。出前サービスの仕事をする若者たちも例外ではありません。
製造業を離れる原因として、超高圧の労働強度が挙げられます。一方、出前サービスはより自由な選択肢であり、上司や顧客と対面する必要もなく、複雑な人間関係のコミュニケーションも不要です。スマートフォンを使って操作するだけで仕事が成り立ち、事業主や顧客と深い関わり合いも必要ありません。しかし、工場の環境ではこれらの些細なことを細やかに配慮する余裕がありません。
製造業の危機を転機に
デリバリーの仕事は若者にとって解放感をもたらす一方で、製造業にとっては数十年ぶりの大きな危機となっています。経済は進歩し、工場の技術も発展していますが、従業員の管理観念だけが停滞しています。実際、製造業が最初に労働力不足や採用危機に直面したとき、経営者たちはこれらの問題に早く気づくべきでした。
楽観的な視点から見ると、製造業にとっては、この危機が新たなチャンスとなる可能性もあります。危機は転換を迫り、もし中国の製造業が逆境に立ち向かい、新たな一歩を踏み出し、状況を好転させることができれば、未来に大いなる希望が見込まれるでしょう。
多くの工場がすでに自己改革に取り込んでおり、労働者の待遇向上や労働環境の改善を実現し、若者たちにより人道的な工場を示す試みを行っています。実際、魅力的な条件を提供する業界であれば、いくら人気がなくても、人々はそれを競って従事したがるでしょう。製造業は必ずしも人気のない業界ではなく、改革を決意して改善に取り組めば、若者たちは制造業に投じることを躊躇しないでしょう。
デリバリー業界は若者を惹きつける要素を多く持っています。製造業はその点を学び、悪いイメージを打破することができるでしょう。雇用に関する選択は常に両者の意思決定によるものであり、魅力のない仕事は若者たちの意欲だけに依存して解決するのは難しいでしょう。
製造業が国にとって重要であることは誰もが分かっています。製造業の経営者たちは市場の変化に適応し、適時に改革を行うことで勝者となることができるでしょう。未来において、製造業が若者たちの支持を受ける産業となり、新たな活気を取り戻す日が来るかもしれません。
(翻訳・藍彧)