香港出身の女性歌手ココ・リーさんが7月5日、うつ病で亡くなったというニュースは、世間を震撼させました。中国では近年、精神障害や抑うつ問題が深刻化しており、特に若者の間でうつ病に罹患するリスクが他の年齢層よりも明らかに高まっています。これには具体的にはどのような原因があるのでしょうか?

中国の若者、「うつ病」の高リスク集団

 ボイス・オブ・アメリカによると、中国ではここ20年間、精神障害や抑うつ症状の発症率が急激に増加しており、患者の年齢も明らかに低下しています。今年2月、中国科学院心理学研究所は「2021~22年における中国国民精神衛生調査」を発表しました。同報告書によると、中国の成人のうつ病発症リスクは10.6%となっています。中でも、18歳から24歳のうつ病発症リスクは24.1%に達し、他の年齢層よりも著しく高く、25歳から34歳の発症リスクも12.3%で、35歳以上の各年齢層よりも明らかに高いです。一方、精神的不安の発症リスクの年齢差も同様の傾向が見られます。

 同報告書によると、いわゆる「抑うつ病発症リスク」とは、専門医による診断ではなく、心理テストで測定される回答者のスコアを指します。

 では、若者の精神的健康問題が社会の発展にどのような影響を与えるのでしょうか?中国赤十字基金会の元医療援助部長である任瑞紅氏は、「この世代は実際に社会の中核的存在であり、社会への貢献が始まる黄金期だ。しかし、この年齢層の人々が心理的に深刻な問題を抱えているとしたら、それはまるで火薬庫のような存在で、いつ爆発するか分からない状態になるだろう」と述べました。

王霞さんの恐れと理解されない苦悩

 北京の賃貸部屋に住む半失業状態の王霞さん(女性)は、抑うつの問題について、記者に対して言った最初の言葉が「昨日の午後、ビルから飛び降りそうになった」とのことでした。

 王霞さんは大学を卒業してから3、4年が経ちましたが、最近の抑うつ症状の発症は母親と電話で喧嘩したことが原因でした。彼女は、「母親の電話に出た時、自分がずっと泣いて大声で怒鳴っていた。それから、私はバルコニーに行って窓を開き、その時、ビルから飛び降りようと思ったのだが、彼氏が素早く後ろから抱きしめてくれた」と語りました。

 母親との口論がすでに数日間続いており、直接的な原因は母親が威圧的で自分を理解してくれないと、王霞さんが考えています。王霞さんは、大学時代から中国の人権問題に関心を持っています。卒業後は故郷を離れて北京で働きながら引き続き人権や公益活動に関わり続けています。ここ2年間、中国の人権・法治状況は急速に悪化しているが、王霞さんは去年の「白紙運動」で逮捕された人々の救済を呼び掛けるなど、相変わらず反体制派の人々を支援しています。この間、彼女は多くのトラウマを経験し、それが抑うつ症状を引き起こしました。

 王霞さんのこれらの精神的苦悩やプレッシャーを、家族に打ち明けることで和らげたり解消したりすることができません。「私の両親は体制内の人であり、特に母親の支配欲が非常に強くて、私の私生活に干渉したがり、私の価値観を軽蔑している。母の支配欲に対して嫌悪と恐怖を感じている」

 王霞さんはこれまで、心理カウンセリングの治療を受けることができていません。また、仕事の不安定さとわずかな収入で、彼女に深刻な不安をもたらしています。彼女は現在、時折抗うつ薬を服用しています。また、彼氏の付き添いが精神的な安らぎと励ましとなっています。

学校側に弾圧される孫さん

 王霞さんの彼氏、孫さんは現在大学に在籍しています。二人は政治について議論するグループで知り合い、交際するようになりました。校内では孫さんも学校側から厳密に監視され、弾圧の対象となっています。

 孫さんは、最初に学校側の要求に従って「国家反詐欺センター(中国語:国家反詐中心)」という詐欺防止アプリをインストールしなかったため、校内で注目されるようになったのです。孫さんは、このアプリがユーザーの個人情報を収集しているから、インストールを拒んだのだと述べました。このことにより、彼は学校側に「反体制派」と見なされました。孫さんは、「実際に私は何の対抗もしていなかったし、他の人たちに私と一緒にボイコットするよう呼びかけたわけでもない。自分がそのアプリをインストールしなかっただけだった。しかし、学校側の指導教員に呼び出されて説諭された。その指導教員の態度はかなり悪かったし、1時間以上も説教された」と述べました。

 孫さんを不安させるもう一つの理由は、中国の大学生全員が進学するか就職するかという大きなプレッシャーに直面していることです。彼は次のように述べました。「入学の初日、校長が私たち新入生に対する演説で、あなたたちの専攻では卒業後に仕事を見つけることはできない。唯一の道は大学院入試だ」、「しかし、大学院への合格率は非常に低いため、みんなが絶望している」

劉方さんの職場の悪夢

 抑うつや絶望を感じるのは在籍している大学生だけでなく、就職に成功した若者たちも、歪んだ社会の現状によって適応する難しさを感じています。

 小都市に住む劉方さん(女性)は、大学を卒業して体制内で働いてわずか4年後に抑うつ病と診断されました。彼女は、自分が持つ価値観と社会の労働環境と相容れないことが、主な原因だと感じています。

 劉方さんは、「彼らが私を批判する言葉で言えば、私は『外国びいき』で、思想が西洋的な考え方をしているとされている。私は自由、平等、人権という普遍的な価値観を信じている。私は誰もが平等であるべきだと思っている」と述べました。

 性格が真っ直ぐな劉方さんは、職場の上司にごまをすることや盲目的に服従することを嫌っています。その結果、直属の男性上司から排斥や抑圧を受けてきました。劉方さんは、公に恥をかかされるだけでなく、上司からセクハラを受けたこともありました。彼女はセクハラを直接拒絶したため、上司の不満は増してしまいました。劉方さんはこれまで受けた心理的虐待を「悪夢のようだ」と表現していますが、辞職したらすぐに再就職できるという保証がなく、現状を我慢するしかありません。

 社会に幻滅した劉方さんは、恋愛も結婚も拒んでいるため、両親からも圧力を受けています。今年の3月、彼女は医師にうつ病と診断されました。

趙迪さん「この社会は病んでいる」

 上海に住んでいる30代の趙迪さん(女性)は、次のように述べました。「私の周りには、幸せだと言う人が一人もいない。この社会はすでに病んでしまっている。一本の薬や数人の医者では治せないほど病んでいる。中国社会がこのような状況に至ったのは、全員に責任がある。誰もができることは、まず自分自身から始めて、悪いことをしないようにすることだと思う。良い人になることを目指し、そうして初めて社会は少しずつ良くなっていくだろう」

うつ病になる根源

 世界保健機関(WHO)によると、先進国では人口10万人当たり平均9人強の精神科医がいるが、中国では現在、人口10万人当たり2人弱の精神科医しかいないことが分かっており、中国ではうつ病患者のわずか9.5%しか治療を受けていないのが実態だと、台湾紙「聯合報」が報じました。

 中国疾病予防管理センターが2023年6月に発表した調査によると、山東省のある大学の学生の21%が少なくとも1回はトラウマとなる出来事を経験しているとのことです。

 この大きな原因と考えられるのは、3年間続けられた「ゼロコロナ政策」だとされています。その間、大学生らは大学寮などに軟禁されていたのに等しい状況であり、同センターの調査では「この3年間で自殺者が相次いだ」と報告しているとのことです。

 国際的なNGO団体「フリーダムハウス」の2023年の報告書によると、「中国政府は国家官僚、メディア、オンライン言論、宗教活動、大学、企業、市民団体など、生活のあらゆる側面に対する統制を強化し続けている」と指摘しました。

(翻訳・藍彧)