中国では3年間のコロナ対策で、大量の企業が倒産し、多くの失業者が出ています。景気低迷が続く中、一般市民はもはや自由にお金を使うことに躊躇しています。最近、中国社会科学院の専門家があるフォーラムで、1.8億人の農村出稼ぎ労働者「農民工」の消費を刺激する方法について発言し、ネット上で大きな論議が巻き起こっています。

権威筋の提唱「戸籍制度改革で消費刺激」

 中国で消費刺激策の一環として戸籍制度改革の必要性を求める声が権威筋の間で上がっています。農村戸籍と都市戸籍の「二重戸籍制度」となっている中国では、農村戸籍保有者の医療や年金などの社会保障は都市戸籍保有者に比べて十分に整備されていません。農村戸籍が7億人以上いる中、戸籍制度改革を通じて農村戸籍保有者のセーフティネットを整備することで個人消費を活性化させる必要があると指摘されています。

 複数の中国メディアによると、中国社会科学院元副院長で中央銀行金融政策委員会委員などを務める蔡昉氏は、7月8日の「2023青島・中国財富フォーラム」で、目下の中国経済について回復の大きな足かせになっているのが消費不振であると指摘しました。個人消費を刺激することが急務であるとの見解を示しました。

 そのうえで、個人消費を刺激する策として農村戸籍改革が必要と訴えました。農村戸籍であるが故に消費が抑えられている状況に関して、すでに都市で働いているが、まだ都市戸籍を取得していない1.8億人の農村出稼ぎ労働者について言及しました。「これら出稼ぎ労働者の消費は、社会保障が不十分なため23%抑制されている。換言すれば、これら出稼ぎ労働者が都市戸籍を取得し、関連の社会保障を受けることができれば、消費力は30%押し上げられる」とし、年間2兆元(約38.7兆円)以上の消費が喚起されるとの試算を打ち出しました。

 蔡昉氏は次のように強調しました。「2兆元(約38.7兆円)であるかどうかはともかく、それは兆レベルの金額だ。兆レベルの新たな消費は、コロナ流行期間中に生じた兆レベルの過剰貯蓄に相当する。GDPの3%として計算すると、私たちの3年間の過剰貯蓄は少なくとも3.6兆元(約70.6兆円)になるはずだ。数兆元の新たな消費を使って、3.6兆元の過剰貯蓄を相殺すると、効果は非常に明らかだ」

戸籍制度改革の目的に疑問視

 蔡昉氏の上記の発言はメディアに報道された後、ネット上で大きな議論を引き起こしました。

 中国のネットユーザーたちからは、戸籍制度改革の目的に疑問符がつけられ、批判的なコメントが相次いでいます。
 「いわゆる戸籍制度改革は、農民が都市に移り住んで家を購入し、消費を増やすことを目的としているだけだ。しかし、農村の人々が大量に都市に移り住む背後には、雇用、住宅、教育、医療などの社会問題があり、現在多くの都市で解決できていない。たとえ自由化されたとしても、農民が都市へ移り住む意欲はそれほど高くないだろう」

 「農民工が苦労して稼いだわずかな収入をどのように刺激するかについて一日中考えているようだが、専門家たちは次の2つの問題について考慮したことがあるのか?1つは、住居地の変更により、物価が上昇し、ますます消費する勇気がなくなること。もう1つは、住居地の変更により、生計源がより少なくなり、よけい消費拡大できないこと。さらに、これらの農民工の将来の保障リスクはますます大きくなる。このような提案は、見識が浅いだけでなく、国や国民に害を与えるものである。この専門家は非常識な人間なのか、それとも悪意があるのかわからない⁉」

 「消費を刺激する目的での戸籍改革は詐欺だ。はっきり言って、ただ庶民の財布に目をつけているだけであるのだ。なぜ国外に7.8兆元の預金を持つ378人の富裕層に目をつけないのか?3年間のゼロコロナ対策で、底辺の人々は多くの損失を被っており、貯蓄がほぼ残っていないだろう?家族に子供と老人がいて、お金が必要とするところがたくさんある。住宅、医療、教育、失業、老後の生活などの問題を根本的に解決しない限り、庶民たちは気軽に消費することはできない!」

住宅購入意欲が低下、貯蓄志向が高まる

 中国中央銀行が6月末に発表した「2023年第2四半期都市預金者アンケート調査報告書」によると、中国国民の住宅購入意欲と住宅価格への期待は、第2四半期において同時に大幅に低下しました。また、58%の市民が「さらに貯蓄を増やす」傾向を示しています。

 これまでのメディアの報道によると、中国では厳格なコロナ対策を実施した3年間で、多くの企業が倒産し、大勢の人々が失業しています。経済が衰退の一途をたどる中、多くの人が自由にお金を使うことを恐れています。中国当局も「これから支出を切り詰めなくてはいけない」と繰り返し提唱しています。

(翻訳・藍彧)