2022年、中国では合計1.3万人の富豪が移住を選択し、中国富豪の移住記録が更新されました。

 中国では富の増加が鈍化する中、富裕層の国外流出が2023年、世界最多となる見込みです。投資移住コンサルティング会社ヘンリー&パートナーズが6月13日公表したリポートで明らかにしました。

 ヘンリー・プライベート・ウェルス・マイグレーション・リポートによると、100万ドル超の投資可能資産を保有する富裕層の国外流出は中国が1万3500人で、世界最多となります。次いでインドが6500人、英国が3200人と予想されています。この数字は移住先の国に年間6カ月以上滞在する富裕層のみを対象としています。

 日経新聞によると、中国には約82万3800人の百万長者が存在しているものの、この流出の傾向により、数千万ドルの富が中国から失われ、中国の経済成長の鈍化が一層深刻化することが予想されます。

 2022年、中国の企業家や富裕層は、中国共産党政権からのさまざまな抑圧を受けました。例えば、ネット上の左翼からの世論攻撃や、中国当局の規制により複数の産業が取り締りを受け、一部の産業が絶望的な状況に追い込まれました。また、中国当局は多くの民間企業が経営難に陥っている時にも、ゼロコロナ政策をやめずに推進し続けました。

 これにより、中国の富裕層の海外への移民がブームとなりました。昨年、中国で最も話題となったネット流行語の一つ「潤学(ルンシュエ)」です。中国語の「潤(ルン)」の発音表記は英語のrun(ラン)と同じです。潤学は英語のrun(ラン)の「逃げる・走る」という語意から「海外移住」という意味に転換された新しい造語です。

 複数のメディアによると、中国の多くの富豪はすでに資本を海外へ持ち出し、移住していると報じられています。

 中国最大の不動産開発会社「碧桂園(カントリー・ガーデン)」のトップである楊惠妍氏、中国の不動産大手「融創中国(天津市)」の創業者である孫宏斌氏、中国の電子機器メーカー「歩歩高(ブーブーガオ)集団」の創業者である段永平氏、中国太陽電池大手の「尚德電力(サンテック・パワー)」の創始者である施正栄氏、不動産の「星河地産集団」の創業者である黄楚龍氏、中国の火鍋チェーン「海底撈(ハイディーラォー)」の創業者である張勇氏、不動産開発会社「龍光集団(ローガン・グループ)」の紀凱婷(ペレンナ・ケイ)氏、中国を代表する四川料理チェーン「俏江南(チャオジャンナン)」の創業者である張蘭氏、中国武漢発の鴨の加工食品のおつまみが有名なチェーン店「周黑鴨」の創業者の妻である唐建芳氏などが含まれています。

富豪の移民ブーム、中国の社会危機を加速させる

 中国における富裕層の移住ブームについて、時事評論家の李林一氏は、2022年10月の中国共産党第20回党大会で習近平氏が前例のない再選を果たし、新たな政治局常務委員はすべて習氏の側近や腹心となったことで、企業家や富裕層が抱いていた最後の希望が打ち砕かれたと述べました。すでに失望した企業家たちは、中国当局がなだめただけで引き返すことはありません。また、当局のなだめが単に経済的な懸念に基づくものであり、本心ではないことが明らかです。

 李林一氏は、「富裕層はみな海外に資産を移すだろう。彼らは中国当局の統制に対しても不信感を抱いており、その表れが海外移住なのだ。これは中国共産党にとって好ましくない状況であり、政権の崩壊を早める要因の一つになる可能性さえある」と述べました。

 米国在住の中国問題専門家である唐靖遠氏は、「(中国当局は)富裕層や中産階級全体に、財産の安全が保証されなくなったという恐怖心を抱かせている。富裕層だけでなく、役人たちも『中国共産党には未来がない』という認識がより深まっている。そのため、彼らは妻子を海外に送り、退路を準備し、何かしらの動きがあればすぐに飛行機のチケットを買って国外に出国する準備をしている。この沈みゆく船から離れる官僚たちが大勢存在している」と分析しました。

李強首相、中外の企業家を必死でなだめる

 中国の李強首相は、6月27日開かれた経済フォーラム「夏のダボス会議」で演説し、市場開放を進める姿勢を強調しました。厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策の影響などで打撃を受けた経済の回復のため外資系企業の投資を呼び込むねらいがあるとみられます。

 李首相は「経済・貿易の問題を政治化することに断固反対し、世界のサプライチェーンの安全と安定を維持しなければならない」と述べました。

 その上で「高い水準の対外開放を進めるなど、より多くの有効な措置を打ち出していく。世界経済の回復と成長の原動力となり、各国の投資家に互いに利益が得られる機会を提供していく」と述べ、市場開放を進める姿勢を強調しました。

 李強首相は同日の午後、天津で開催された世界経済フォーラムの世界企業家対話に出席し、企業家代表らと座談会を行い、約120人の企業家が参加しました。李強首相は、「企業家の知恵と力は経済発展の不可欠な推進力である」と述べました。

 中国の公式メディア「経済日報」は27日の記事で、「企業と企業家は社会の富の創造者であり、イノベーションの主体でもある。政策の安定性、透明性、持続可能性、予測可能性は、企業家の信頼回復にとって極めて重要である」と報じました。

 「ボイス・オブ・アメリカ」27日の報道によると、李強首相はフォーラムで中国と外国のビジネスリーダーと会談し、これらのビジネス界の人々をなだめようと試みたと報じられています。

中国当局は景気の後退をデータでごまかす

 李強首相はダボス会議で、「企業が最も発言権を持ち、政府は越権行為をしてはならない」と述べました。

 これに対して、サウスカロライナ大学エイキン校ビジネススクールの謝田教授は、27日に大纪元に対し、「実際には、中国共産党自身が越権行為を行っており、政治的ニーズに基づいて一部の中国企業の生産を制限している。政府が経済に政治的な干渉をしているのは明白だ」と指摘しました。

 謝田教授はまた、「西側諸国の政府はリスクを回避し、外資系企業も同様にリスクを回避している。多くの外資系企業が産業チェーンを移転しているのは、実際にはリスク回避のためであり、より安全な産業チェーンを探し求めることでリスクを低減することになるからだ」と述べました。

 李強首相はダボス会議で「中国の経済成長は5%に達する見込みがあり、世界経済の回復に貢献するだろう」と述べました。

 これに対し、謝田教授は次のように指摘しました。中国の経済成長の3つのエンジンが完全に停止しており、現在の中国は輸出入が激減し、不動産バブルが崩壊し、消費が低迷し、政府の債務がますます増加しているため、外国資本が大量に流出している中、経済発展の動力がすでになくなっています。中国共産党自身が困難を抱えている状況であり、それなのに世界経済の発展にどのように貢献できるのでしょうか?「中国共産党は嘘をついており、組織的に経済データを改ざんし、人々を騙し続けている」

 中国の富裕層たちは中国経済の現状を一番よく知っています。李強首相の演説が彼らの移住を阻止することはないでしょう。富裕層はすでに中国経済の問題と政府の信頼性の低下に懸念を抱いており、それが彼らの海外への移住意向を高めているのです。彼らにとって、安定性と保証された経済環境が重要であり、中国経済の現状に対して懐疑的な姿勢を持っています。

(翻訳・藍彧)