ロシア国内で民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が起こした反乱は、プーチン政権に大きな打撃を与えました。これにより中国共産党にとって台湾攻撃のコストが増加し、習近平氏は側近や周りにいる誰もがプリゴジン氏に見えるかもしれないと、矢板明夫氏が述べました。

 「産経新聞」の台北支局長である矢板明夫氏は、6月25日のフェイスブックへの投稿で自身の見解を発表しました。

 矢板氏は、「ワグネル軍による反乱は、わずか24時間しか続かず、あっけなく終った。ワグネルはモスクワへの攻撃を停止した。リーダーのプリゴジン氏はベラルーシに逃亡し、プーチン政権は彼に対する刑事責任を追及しないと発表し、双方とも妥協があった」と述べました。

 矢板明夫氏はまた、次のように指摘しました。今回のワグネルの反乱が途中で挫折したのは、プリゴジン氏もプーチン氏も明確な見通しが立たず不安を抱いていたためでしょう。プリゴジン氏は自ら率いる2万5千人の部隊がモスクワ郊外で激しい抵抗に遭い、短期間で突破できなければ、補給や士気に問題が生じる可能性を懸念していたでしょう。なにしろ、囚人などで構成されたワグネル軍には強い忠誠心や使命感はなく、敗北すれば全員が滅びることになるからです。

 一方、プーチン氏が懸念していたのは、ワグネルの反乱軍がロシア全土に広がる連鎖反応を引き起こす可能性です。1年以上にわたるウクライナへの侵攻は、すでに深刻な経済問題を引き起こしています。もし国民の不満が爆発し、反乱軍に加わる人が増えれば、事態は制御不可能になるかもしれません。そのため、双方とも賭けることを避けました。結果として、上記のような妥協が生じたのです。

 プリゴジン氏がクーデターを起こしたとき、アメリカを中心とするNATOが自分を支援してくれることを心の中で期待していたに違いないだろうと、矢板明夫氏が考えています。NATOが後方で補給支援を提供してくれれば、まだ勝機はあるとプリゴジン氏が思っていたのかもしれません。しかし、結局は支援がなくて、諦めざるを得なかったのです。実は、NATO側にも考えがあったと矢板明夫氏は指摘しました。NATOがワグネルを支持しなかったのは、ウクライナへの侵攻戦争でたくさんの悪事を行ったからです。

 矢板氏は、プリゴジン氏らが戦後に軍事法廷にかけられることになるだろうと分析しました。NATOは今、もしプリゴジン氏を助けたら、後ではっきりさせること(裁判すること)ができなくなるからです。また、ワグネルの力では、たとえモスクワを占領したとしても、ロシア全土を統一することは非常に困難です。プーチン政権が倒された後、混乱した軍閥の争いが起こる可能性が高いのです。西側諸国は核兵器拡散の問題を考慮しなければなりません。

 矢板氏は、小規模な軍閥は大国の指導者とは異なり、目先の勝利のために核兵器を使用して敵を攻撃する可能性があると強調しました。また、ワグネルはシェフが率いる囚人集団で構成されており、一国を統治した経験はまったくありません。仮に彼らが政権を握った場合、ロシア情勢は不安定なものになるでしょう。プリゴジン氏との交渉は、プーチン氏よりも難しいかもしれません。

 ワグネルの反乱を中国共産党の台湾攻撃になぞらえて、矢板氏は次のように述べました。このワグネルの反乱は、プーチン政権にとって大きな打撃を与えました。ロシアのウクライナへの侵攻はまだしばらく続くかもしれませんが、プーチン氏は事態を逆転させる資本はすでになくなっています。世界にとって、これはよいことです。しかし、中国(共産党)の指導者である習近平氏にとっては、台湾を攻撃するコストがまた増えることになります。今後、習近平氏が共産党の将軍たちの名簿をめくる際に、誰もがプリゴジン氏のように見えることに驚くかもしれません。

(翻訳・藍彧)