中国当局は近年、高速鉄道などのインフラ建設に力を注いでいます。しかし、路線や規模を拡大し続ける一方で、利用率不足から深刻な破たんや赤字に直面しています。2022年上半期までに、中国国家鉄路集団の負債総額は6兆元(約117兆円)に達しています。

雄安高速鉄道、利用者不足で巨額の負債を抱える

 香港メディア「星島日報(せいとうにっぽう)」は6月6日、習近平が5月に3人の政治局常務委員を率いて雄安新区(ションアンしんく)を視察し、雄安(ションアン)を「奇跡」と称賛したと報じました。

 雄安新区は、2017年に習近平総書記から「河北雄安新区計画要綱」という形で発表された新たなハイテク都市構想計画です。

 この計画は、中国の主要な経済圏である「京津冀(けいしんき)(北京市、天津市、河北省)」地域の共同発展を促進し、北京の非首都機能の分散・移転を目的とした国家級新区です。雄安新区は河北省の雄県(ゆうけん)、安新県(あんしんけん)、容城県(ようじょうけん)などから構成されており、習近平が直接主導し計画された「千年大計(1000年にわたる大計画)」の一環とされています。公式には30兆元(約587兆円)の資金が投入され、「未来都市」の建設が宣言されました。

 この雄安新区の開発は、深セン経済特区や上海浦東特区と並ぶ、非常に重要な国家戦略と位置づけられています。京津冀地域の経済発展を牽引し、北京の過剰集中を緩和することを目指しています。

 しかし、300億元(約5842億円)を投じて建設された雄安高速鉄道駅は、2年以上稼働しているにもかかわらず、一度も正式に検査が行われていません。

 この雄安高速鉄道は、北京西駅と雄安新区を結ぶルートで、所要時間は50分、また大興国際空港と雄安新区を最速で19分で結ぶことができます。このアジア最大の建築規模を持つ高速鉄道駅は、サッカー場66面分に相当する面積を持ち、新区域で最初に着工した大型インフラプロジェクトです。

 「星島日報」の記者は北京西駅から高速鉄道に乗り、約1時間で雄安駅に到着しました。しかし、高速鉄道の車内にはほとんど乗客がおらず、広々とした駅舎ロビーもほとんど人影がありませんでした。駅構内には2つのレストラン以外は営業している商店はありません。市内の住宅地やビジネスセンター、市民サービスセンターなどを訪れても、人の波は全く見当たりませんでした。

習近平は積極的に高速鉄道建設を推進

 中国の高速鉄道は、「中国の夢」を実現するための「加速器」として公式に称されています。習近平は2015年7月17日、中国国有の鉄道車両メーカー「中国中車集団」を視察した際、高速鉄道は中国の名刺だと強調しました。

 その後、中国の高速鉄道建設は急速に進んでおり、鉄道路線はどんどん増えています。2016年7月、中国国務院は「中長期鉄路網計画」を承認し、2020年までの高速鉄道の運行距離目標を3万キロメートルに大幅に引き上げ、初めて「高速鉄道網」という概念を導入しました。

 また、習近平は2021年1月19日に、北京冬季五輪の張家口競技エリアを視察する際、「中国の自主的な革新の成功例は高速鉄道であり、ゼロから始まり、(海外から技術の)導入、消化、吸収、そして再び自主的な革新へと進んでおり、現在はすでに世界をリードしている」と述べました。

中国の高速鉄道、普遍的に赤字

 中国の高速鉄道は、経済的なコストが非常に高く、社会的な効益は予想からはるかに及びません。一般の人々は、中国の鉄道システムはかなり儲かっていると思いがちですが、近年の財務報告書では、中国国鉄集団が深刻な赤字を出していることが明らかになっています。2022年上半期までに、負債額は6兆元(約117兆円)に達しています。

 実際、中国の高速鉄道は、年間数千億元(数兆円)の赤字を出しています。中国には18の鉄道局があり、そのうち12は赤字状態にあり、残りの数局は赤字でなくても利益を上げることはできません。

 高速鉄道の運営には、膨大な電気代、定期的なメンテナンス費用、設備の更新、職員の給与など、多額の費用がかかります。これらの費用を総合すると、天文学的な数字になります。現在、地方政府の財政状況はすでに破たんしており、高速鉄道の赤字を埋める余裕はありません。そのため、一部の高速鉄道駅は建設後に直接廃棄され、他の駅も利用率や乗客数が低いために閉鎖されています。

客流量の少ない高速鉄道駅、相次いで破棄

 江蘇省南京市に位置する紫金山東駅(しきんざんひがしえき)は、2010年に建設されたものの、これまで一度も開通していません。この駅の規模は小さくて、2階建ての駅舎で、2階のホームへは階段とエスカレーターが設置されています。待合室は乱雑で、建築関係のゴミが散乱しています。

 同じく南京市内にありながら辺鄙な地域にある江浦駅(こうほえき)も、2011年に完成しましたが、コストや乗客数などを考慮して正式に運行されたことはなかったのです。

 『南京都市総合計画』の修正草案では、紫金山東駅と江浦駅に関する記述はすでに削除されています。

 また、コロナ流行期間中の2020年4月10日に、上海・南京間の高速鉄道が、昆山花橋駅(こんざん・かきょう・えき)と句容宝華山駅(くよう・ほうかざん・えき)の2駅を閉鎖しました。鉄道当局は、「以前から乗客数が少なく、コロナの期間中にはさらに少なくなった」と説明しています。

 このように閉鎖された「小さな駅」は全国に多く存在しています。中国雲南省に位置する陽宗鎮(ようそうちん)は、交通が不便で発展が制限されており、地域の経済活動と観光業を活性化するために高速鉄道駅が建設されました。しかし、この駅は昆明南駅や石林西駅と距離が近過ぎてしまい、2016年に完成して以来、使用されていません。もし開通して運行されると、システム管理や運行スタッフの経費などにより赤字になるでしょう。

高速鉄道の赤字は5つの要因に帰する

 第一に、地方政府の官僚は政治的実績を求め、メガプロジェクトを建設する傾向がありますが、地方政府の債務返済能力を考慮しないことが多くあります。高速鉄道の建設には先行投資が必要であり、コスト回収の見通しが立ちにくいため、赤字状態が続いています。

 第二に、高速鉄道の拡大は一般的に、人口増加を見込んで行われますが、実際には中国の人口は減少しています。人口の減少により需要が減り、利用客数が予想に反して低いため、赤字状態が生じています。

 第三に、高速鉄道の運営コストや維持費が高額です。電力消費や定期的なメンテナンス費用、設備の更新など、運営には多額の費用がかかります。これにより、収入が費用を上回らず、赤字が生じるのです。

 第四に、中国当局の政策的制約により、中国の高速鉄道の運賃はコストよりも低く設定されています。政府は高速鉄道の利便性や社会的効益を重視し、低運賃を維持しています。しかし、運賃収入が運営コストをカバーしきれず、赤字が生じる結果となっています。

 第五に、中国の高速鉄道は腐敗や汚職と密接に関連しています。高速鉄道は中国で最も深刻な腐敗の一つとされています。かつて「高速鉄道の父」と呼ばれた元鉄道部長の劉志軍(りゅうしぐん)や、「中国の高速鉄道の第一人者」と称される元鉄道部運輸局局長の張曙光も汚職の罪で死刑判決を受けています。腐敗による資金の浪費や不正な取引が赤字の一因となっています。

高速鉄道は「クロサイ」と喩えられる

 北京交通大学経済管理学院の趙堅教授は、高速鉄道の運行で発生する巨額の損失が地方財政に深刻な圧力をもたらすと指摘した論文を3本連続で発表しました。彼は高速鉄道を中国の経済発展を妨げる「クロサイ」と喩えました。

 趙堅教授は、多くの高速鉄道が遊休化され、深刻な損失が発生しており、高速鉄道の運営コストを考慮せずとも、運賃の総収入が建設負債の利息を支払うのに十分ではないと述べました。

 趙堅教授はまた、中国の高速鉄道の負債と運営損失は世界一であり、高速鉄道建設による債務を無視してはならないと指摘しました。

 習近平政権の下で、中国は多くの高速鉄道路線の建設を加速させてきましたが、その損失は年間数千億元(数兆円)に上ると言われています。3年間のパンデミック後、中国経済は低迷し、外資系企業の撤退が相次ぎ、失業率が上昇し続けています。このような状況の中で、年々赤字の中国の高速鉄道はいつまで維持できるのでしょうか。

(翻訳・藍彧)