習近平(しゅうきんぺい)が台頭して以来、多くの中国共産党党規を廃止し、後継者も指名していません。中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)後、習近平は3期目の政権をスタートさせ、終身政権へ進んでいると見られています。
米国メディアは、習近平の後継者の空席期間が長すぎると、クーデターの火種になる可能性があると分析しています。
習は後継者を指名せず
習近平は2023年6月に70歳を迎えますが、後継者候補の指名や育成をしていません。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、5月20日の記事で習近平の後継者の究極の状況について分析しました。独裁者は自分の利益を守るために、信頼できる後継者を指名する傾向があります。一方、後継者は就任前に自身の権力基盤を築く必要があり、さもなければ、就任後に罷免や架空化される可能性があります。
明確な後継者が決まれば、中国共産党内の幹部らは自然に忠誠心を再調整し始め、習近平の権威は次第に弱められ、習自身も後継者による権力簒奪を懸念することになるでしょう。
しかし、習近平が後継者を指名しなくても、党内の各派閥も依然として警戒心を高めており、後継者のポジションを長期間空席のままにすると、習近平は党内の仲間から疎外され、敵を刺激する可能性があり、クーデターの種を蒔くことになると記事が指摘しています。
中国における後継指名の制度的欠陥
中国政治の最大の弱点は、後継者を決めるルールが存在しないことです。通常、中国では前任者が後継者を決定します。そこに選挙は存在しません。しかし、後継指名は人事権と利権の多くが絡むため、中国政治ではそのたびに内部で激しい権力闘争が起こります。
初代党首の毛沢東は1950年代末から引退モードに入り、大躍進政策失敗のあとの破滅的な状況のなかで、劉少奇(りゅうしょうき)や鄧小平(とうしょうへい)らに権力を移譲しました。ところが、毛沢東は彼らの経済政策への不満を募らせ始めました。しかし、劉少奇指導部は引き続き柔軟な経済政策を続けたため、毛沢東の怒りは爆発し、文化大革命という学生・労働者を巻き込んだ権力闘争となり、社会は大混乱に陥りました。
文化大革命の混乱を抑えるために国防部長の林彪(りんひょう)を登用し、彼の功績を評価して毛沢東は中国共産党第9回党大会で彼を後継者に指名しましたが、その2年後に毛沢東の暗殺クーデターを計画したとの理由で、モンゴル逃走中に墜落死しました。毛沢東は自身の死の直前に華国鋒を後継者に指名しましたが、毛沢東の死後、華国鋒(かこくほう)が復活した鄧小平によって失脚させられました。
鄧小平は毛沢東政治の欠陥を教訓とし、早めに後継者を決定し、終身制を廃止して、最高指導部の任期を2期10年までとする中国共産党政権の画期的な制度を構想しました。彼がまず後継者に指名したのは胡耀邦(こようほう)でしたが、胡は政治の民主化と指導者の若返りを図ろうとしました。1986年末から学生の民主化運動が起こり、それに同調した胡耀邦は保守派の反発から失脚しました。胡耀邦失脚後、鄧小平は趙紫陽(ちょうしよう)を後継者に据えましたが、学生の民主化運動に共感した趙紫陽もまた天安門事件で失脚させられました。
その後、鄧小平は引退に先立って、後継人事を安定させるために、2人の人物を後継者に指名しました。一人は江沢民で、もう一人は胡錦涛でした。したがって、江沢民は10年間の最高指導者の任期を終えた後、後継者を考える必要はありませんでした。ただ、江沢民は自身の権力と利権を保持すために、その後も権力に執着したため、胡錦涛はその後の10年間、強力な政治権力を握ることができず、江沢民派に揺さぶられ続けました。
この様に中国共産党の後継指名は激しい権力闘争の連続があり、いまだにその悪循環から抜け出せていないのです。
習近平の後継者問題の不透明さ
習近平は政権を握ると、ゴルバチョフのような後継者の出現が中国共産党の崩壊につながることを懸念し、旧ソ連崩壊の教訓から学ぼうとしました。
今年4月、中国当局が発行した「習近平著作選読(習近平著作のセレクション集)」では、後継者の問題に触れていました。
習近平はあるスピーチで、一部の幹部が「儲君(ちょくん)」のように座って昇進を待ってはいけないと述べ、人選と育成の第一原則は、党への忠誠心を教え、政治の二枚舌を防ぐことだと指摘しました。
中国共産党第18回党大会で習近平が政権を握ってから、胡春華(こしゅんか)、孫政才(そんせいさい)、陳敏爾(ちんびんじ)の3人が「後継者」と見られてきましたが、彼らの昇進の道は予想外でした。前重慶市委書記であった孫政才は、中国共産党第19回党大会の前に習近平の命令で逮捕されました。一時的に後継者として有力視されていた胡春華は、中国共産党の第20回党大会で、政治局常務委員に昇進しないばかりか、その中に残ることさえできなかったのです。もう一人の後継者として注目されていた陳敏爾も政治局常務委員会入りすることはなかったのです。
習近平の後継者問題は、中国政治の不透明さと不安定さを浮き彫りにしています。彼の後継者が現れなければ、中国政治は混乱し、党内の権力闘争が激化する可能性があります。しかし、明確な後継者が登場すれば、習近平自身も後継者による権力奪取のリスクに直面することになります。
一方、党内の幹部層は、後継者問題に関して慎重なバランスを保ちつつ、自身の権力基盤を強化しようとしています。彼らは習近平が権力を失った場合に直面する深刻な結果を認識しています。
学者らの分析
歴史学者でアメリカン大学助教授のジョセフ・トリギャンは、旧ソ連と中国党内の権力闘争に関する本を書きました。
ジョセフ・トリギャンは、中国共産党の後継者問題が多くの高官の微妙な関係に関わっており、後継者が最高指導者の意図を理解できないために誤解が生じ、排除される可能性があると考えています。また、後継者は予測不可能な社会的な出来事、例えば1989年の天安門事件によって排除される可能性もあります。
ジョセフ・トリギャンは、「独裁者の遺産に対する最大の脅威は、おそらく彼自身であろう」と述べました。
BBCは、ユーラシア・グループの中国担当アナリスト、ニール・トーマスの分析を引用し、「習近平の考えを知ることはできないが、5年または10年後に後継者となる可能性のある人材を昇進させないことは、彼が終身政権を計画していることを示唆している」と述べました。しかし、ニールはまた、習近平が多くの中国共産党の慣例を破ってきたため、後継者に関するシグナルはもはや正確でない可能性があり、彼が晩年になって後継者を指名する可能性もあると警告しています。
独裁者の共通の宿命
独裁者は権力を失えば、深刻な結果に直面する可能性があることを知っています。イェール大学の教授であるアレクサンダー・デブスと、政治学者でロチェスター大学の教授であるH.E.ゴーマンズの研究でもこの点が裏付けられています。彼らは1910年代後半から2000年代初頭にかけて政権を握った世界中の1800人以上の政治指導者の運命をまとめた結果、1059人の独裁者のうち約41%が退任後1年以内に追放、投獄、または死亡し、763人の民主主義指導者の場合はその比率がわずか7%にとどまっていることがわかりました。
(翻訳・藍彧)