3年前、中国本土では、露天商(ろてんしょう)は城管(都市管理職員)に取り締まられる可能性がありましたが、3年後には状況は一変し、「露店経済(中国語、地攤経済)」が復活しつつあります。

「露店経済」再び後押し 雇用受け皿づくり

 中国の大都市では、「露店経済」を後押しする動きが広がっています。景気が回復しつつあるものの、雇用改善のペースは遅いため、露店経済を再び容認し、雇用や所得の改善につなげることを狙っています。かつて治安対策などを目的に露店経済を取り締まっていたが、これを緩和する方針です。

 広東省の深圳市は最近、都市の景観や衛生に関する規制を改正しました。9月からは露店の出店規制を見直し、街道弁事処が指定したエリア内での出店を認めることになります。

 上海市も、時間帯を区切った歩行者天国や夜市での屋台出店を促進する方向で検討しています。中国メディアの第一財経によると、5月下旬に最終的な具体策が公表される予定です。また、首都の北京市や甘粛省の省都・蘭州市も同様の規制緩和方針を打ち出しました。

 狙いは雇用の創出にあります。都市部における1〜3月の新規雇用は297万人で、前年同期を4%上回りましたが、2019年同時期と比べると8%少なくなっています。雇用はまだ回復途上にあります。

 中国では、1月にゼロコロナ政策が終了し、厳しい移動制限が緩和されました。市民の外出機会が増え、外食や旅行などのサービス業ではリベンジ消費が起きました。

 中国共産党は4月28日に開催された中央政治局会議で、サービス消費を促進する方針を示しました。露店経済を復活させる背景には、外出の増加と相乗効果によって消費を活性化させるという意図もあるようです。

 新型コロナウイルスが中国経済を初めて直撃した2020年でも、露店経済は注目を集めました。

復活しつつある「露店経済」

 2020年に「新型コロナウイルス(中共ウイルス、SARS-CoV-2)」が引き起こした経済の衰退の中で、四川省成都は2020年3月に露店などの設置を認め、その結果、約10万人の雇用が2カ月間で生まれたとされています。当時の李克強首相は5月下旬の記者会見で、成都の取り組みに言及しました。また、6月に山東省煙台を視察した際にも、「露店経済は雇用を生み出す重要な源泉である」と強調しました。

 当時、東北財経大学の周天勇主任は中国メディアに対し、露店経済の支援を通じて5000万人の雇用問題を解決できると試算して明らかにしました。

 しかし、その後、北京の共産党委員会機関紙である北京日報が「露店経済は北京にふさわしくない」と題する評論を掲載しました。これは、治安対策や景観保護のために無秩序な屋台出店を取り締まってきた経緯があるためです。また、習近平国家主席と李克強前首相の政治的な駆け引きも背景にあるとの見方も存在しました。

 最近ではこの政策が大きく逆転し、中国のハイテク中心地で3番目に富裕な都市である深セン市は先週、9月から路上の露店販売を見直し、禁止を解除すると発表しました。

 今回の規制緩和では、地方政府が統制する枠組みの下で、特定の地域において出店を容認する形となっています。これにより、従来の景観保護などの観点も考慮しながら、無秩序な露店の設置は許可されません。

 北京、上海、蘭州、昆明、杭州などの都市も順次、露店販売の制限を緩和することを発表しています。これらの都市では、経済活性化と雇用促進のため、失業中の若者が地元の特産品、軽食、衣類、おもちゃなどを販売する露店を出すことを奨励しています。

 規制が解除される前、今年の3月に「淄博(しはく)バーベキュー」というのが、大きな話題となり、その手頃な価格と熱心なサービスの動画がソーシャルメディアで拡散された後、淄博市は中国で最も人気のある観光地の一つとなり、五月の大型連休中に全国で大ブームとなりました。そして、中国の他都市の政策にまで影響を及ぼしています。

 一夜にして、淄博は工業都市から必ず訪れるべき観光地へと変貌し、全国を驚かせました。一部の地方政府は、淄博に職員を派遣して勉強させ、その成功を模倣しようとしています。

 経済の見通しが楽観視できないことで、中国当局は民間企業や中小企業に対する規制を緩和せざるを得なくなりました。中国の市場監督機関である国家市場監督管理総局の羅文局長は先月、露店などの「自営業者」に対してより多くの支援を提供する必要があると述べました。

 また、中国公式の言辞にも明らかな変化が見られました。公式メディアは、若者たちが夜市での露店販売によって裕福になったり、特色のある軽食の販売でお金を稼いで車や家を手に入れたりする様子を取り上げ、失業した若者たちに街頭販売業者となることを呼びかけています。

露店商になることは「絶望の証」

 では、「露店経済」は、中国を消費者主導の成長モデルに転換させることができるのでしょうか?

 CNNは分析家の意見を引用し、現在の緩和策は中国共産党の一か八かの賭け勝負だと指摘しています。なぜなら、三年間の「ゼロコロナ政策」が中小企業に重大な打撃を与え、都市の失業率が懸念すべき水準まで急上昇しているからです。また、規制の強化により、教育やテクノロジーの分野でも数万人の雇用機会の消失をもたらしました。

 英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院 (SOAS)中国研究所の曾鋭生所長はCNNに対し、「中国共産党の幹部層は、若者に路上販売人となることを奨励する以上に、雇用創出や生活の安定を維持する方法が見つからないようだ。デジタル時代のスキルを持つ労働者や卒業生にとって、露店商になることは絶望の表れであり、創造的な思考ではない」と語りました。

 中国国家統計局が16日に発表したデータによると、4月における16〜24歳の都市の失業率は20.4%と過去最高を記録しました。今年は過去最高の1160万人の大学生が卒業する予定であるため、この比率はさらに上昇する可能性があります。

 曾鋭生氏は露店経済で経済復興させようというやり方について、次のように述べました。「私の見解では、淄博バーベキュー現象は必要に迫られて生まれたものだ。その成功は、人々が『目新しいもの』を試したがっていることを反映しているかもしれないが、同時に人々がより貧しいと感じていることも示している。ミシュランの星付きレストランに行けるなら、屋台料理を選ぶだろうか?ごくわずかの人は屋台を選ぶかもしれないが、ほとんどの人はそうはしないだろう。露天商は一時的に失業率を下げるかもしれないが、人々がより貧しいと感じさせるだけで、中国の経済を救えない」

 米国在住の時事評論家・唐靖遠氏は、「国民の消費は知らず知らずのうちに全体的に格下げされている。淄博バーベキューを見ればわかるのだ」と大紀元時報に語りました。

 ベテラン時事評論家の文昭氏は次のように述べました。淄博バーベキューは小規模な露店経済であり、質の高い雇用をけん引することはできません。淄博バーベキューを模倣しようとする都市は、実質的に中国の経済水準が途上国レベルに後退することを宣言しているのに等しいのです。

(翻訳・藍彧)