中国の新エネルギー自動車分野で最も有名なブランドであるBYD(ビーヤーディ、比亜迪)の長沙工場で、従業員が辞職するために長い列を作っていることが、ネット上で話題になっています。
仕事量や収入が減少、大量辞職
BYD湖南省長沙市の望城工場で、従業員の馬力さんが辞職を申し出たところ、「今月の退職枠はすべて埋まった」と言われたと、財聯社が8日に報じました。
記事によると、BYD長沙工場の複数の元従業員とのインタビューや、求職者としての実態調査により、仕事量の削減や賃金の低下が、一部の労働者が離職を選択した直接的な理由であると判明しました。第一線の一般労働者が、期待される収入を得るためには残業する必要があるのです。
工場の仕事量減少や生産能力低下の原因は、末端需要の鈍化にあります。現在、BYDの新エネルギー車の月間販売数は、昨年11月と12月のピーク時と比較して約10%減少しています。しかし、BYD社は「年末までに中国最大の自動車メーカーになる」という目標を掲げており、今年の新エネルギー車の販売目標は300万台です。
馬力さんは、「入社時の契約には、就職して3か月未満の場合、3日前に退職願いを出せば辞められると書いてあった。しかし、多くの同僚がこの規則に従い、3日前に辞表を出しても、7日経っても辞められない状況が続いている。自分が辞職書を取りに行った時、工場側から4月の退職枠は既に全部埋まったから、5月9日まで待たなければならないと言われた」と語りました。馬力さんは、離職票を受け取らずに辞めることにしました。そうすると、4月に稼いだ分の給料は1円たりとも手に入らないことを意味します。
記事によると、一部の従業員は、残業時間の減少による収入減少や、同僚が大量離職していると感じているといいます。
馬力さんは最近の離職状況について、「数日前、工場寮の二部屋の従業員が全員辞職した。1つの部屋に6人が住んでいる。何人かの友人も辞めてしまった。その前にも、4月末まで働くつもりだと言っていた友人もいた」と述べました。給料が安く、残業もなく、それに工場側の規則や条件なども不合理な点があると感じているため、馬力さんも早急に辞めることを望んでいます。
報道によると、50キロ離れた場所にあるBYDの新エネルギー車を生産する拠点である長沙雨花区工場でも、従業員の離職が相次いでいるとのことです。
BYDは今年の販売目標を達成できるか
BYDの創業者兼CEOである王傳福(ワン・チョワンフー)会長(52)は先日の決算会見で、「BYDの目標は、今年の年末に中国ナンバーワンの自動車メーカーになることだ。BYDの今年の販売目標は、まず300万台」と発表していました。
しかし、5月3日の夜にBYDが発表した最新の生産・販売レポートによると、同社は4月に約21万台の新エネルギー車を販売したことが明らかになりました。今年は既に年の三分の一が過ぎており、第一四半期の累計販売台数は約76万台で、年間目標の300万台にはまだまだ距離があります。
財聯社の記者が、BYD望城工場の稼働率低下や従業員の離職などの問題について、取材するために訪れ、また、同社の証券部取材の申し込みメールを送ったところ、どちらも返答を得られませんでした。
BYD車の値下げと在庫滞留
中国のEV市場はテスラが今年値下げしたことを受けて、BYDを含む複数のメーカーがシェアを守るために相次いで売れ筋モデルの価格を引き下げました。
今年3月、湖北省では、従来の燃料を使用する自動車の価格競争が始まりました。新エネルギー車のテスラが大幅な値下げをし、BYDも追随しました。
BYDは5月10日、人気セダン「シール」の最低価格を10%引き下げました。世界最大の自動車市場の中国でリード拡大を狙います。
同モデルのラインナップが刷新され、新たな後輪駆動の「チャンピオンエディション」が登場しました。1回の充電で550キロメートルの走行が可能で、価格は18.98万元(約368万円)からです。同社のウェブサイトによると、同じ航続距離の旧バージョンよりも2万元(約39万円)安くなっています。
しかし、多くのブランドが価格を下げたため、消費者がじっくり時間をかけて検討する機会が与えられました。その結果、今では多くの工場が操業停止状態にあります。
報道によると、多数のBYDの乗用車が放置された駐車場にあり、建物の何階にもわたり、車体にはほこりが積もっています。また、ある都市では「BYD海」と呼ばれる駐車場に、20台一列になって数百台のBYD車が駐車されています。
3月下旬、BYDは2つの電気自動車工場のシフトを減らすことを決めたというニュースが流れました。この問題に詳しい情報筋によると、BYDは最大の製造拠点である西安工場の一部の従業員に対し、週に4日だけ働くよう要請し、1日あたり2つの8時間シフトになるよう求めたそうです。このニュースはすぐにネット上で話題となりました。
BYD株を14年間保有してきたバークシャー・ハサウェイ社は、2022年8月24日から10回連続でBYDのH株保有比率を下げる動きを見せ、保有比率を19.92%から現在の10.9%に減らしました。同社のウォーレン・バフェット会長兼CEOは今年の3月31日、さらにBYDのH株を248万株売却しました。
ホライゾン・フィナンシャルのチーフエコノミスト、陳凱豐氏によると、バフェット氏が保有株を減らす決断をした背景には、リスクを避ける考えなど複数の理由があるとされています。
ベトナムで現地生産を計画
ベトナム政府の5月5日の声明によると、中国の電気自動車(EV)大手、BYDがベトナムでのEV生産と組み立てを計画していることが明らかになりました。
BYDの王傳福会長とベトナムのチャン・ホン・ハー副首相が同日会談し、王氏は同社の投資手続きのためにベトナムによる有利な条件の提供を期待していると述べました。
ロイターは1月、BYDは隣接するタイで計画している組立工場に輸出する目的で、ベトナムに自動車部品の生産工場を開設する計画だと報じていました。
声明によると、現在ベトナム北部のフート省で電子機器と部品の組立工場を運営しているBYDは、現地でのサプライチェーン(供給網)の構築も提案しています。
また、BYDは昨年9月に、タイで年間生産能力15万台のEV組立工場を2024年に完工する計画を発表しています。
(翻訳・藍彧)