中国の投資銀行、華興資本(チャイナ・ルネサンス・ホールディングス)のバオ・ファン(包凡)会長兼最高経営責任者(CEO)は2月19日まで、音信不通となっていたことが注目を浴びています。華興資本は26日付の証券取引所向け届け出書類で、消息不明となっていたバオ・ファン氏が現在、当局の行っている調査に協力していると明らかにしました。

 英国メディアは複数の情報筋の話として、バオ・ファン氏が音信不通になる前、シンガポールにファミリーオフィスを設立し、資産の分散化を図ろうとしていたと報じました。中国一部のトップ富豪は、中国共産党の経済政策に懐疑的になっており、財産を保全するためにシンガポールに目を向けています。

バオ・ファン氏の音信不通前、シンガポールに「逃げる」予定だった

 2023年2月、BBC(英国放送協会)などは、バオ氏の身内が2日間も連絡が取れなくなり、誰もバオ氏の行方を知らなかったと報じました。バオ・ファン氏の音信不通により、華興資本の株価は50%下落したが、同社は声明で、「取締役会としては、事業やグループの業務は平常通り継続している」と述べました。複数の海外個人メディア人は、バオ・ファン氏が中国共産党当局に秘密裏に逮捕されたに違いないと見ています。

 フィナンシャル・タイムズ紙2月22日の報道によると、この件の関係者4人は、バオ氏が音信不通の数カ月前に、中国本土と香港からシンガポールに財産の一部を移す準備をしていたと明らかにしました。関係者によると、2022年の最後の数カ月間、バオ氏はシンガポールに個人資産を管理するためのファミリーオフィスをシンガポールに設立していたといいます。関係者の1人は、「中国共産党によるフィンテック分野への取り締まりや、疫病で都市封鎖を実施して以来、バオ氏は多くの中国富豪らと同様に、シンガポールで財産の分散を図ろうとしている」と述べました。

 中国共産党当局はこれまで、バオ氏が音信不通になっていたことに対して、まだ何の対応もしていません。バオ氏の消息不明は、中国の金融・経済界に寒気をもたらしました。中国企業のオーナーや重役が現在、シンガポールにファミリーオフィスを構えるケースが増えています。「アジアのスイス」と呼ばれるシンガポールは、投資家にとってセーフヘイブン(安全な避難所)としてますます利用されるようになっています。

 中国本土から資金を移動させるのは難しいが、多くの富豪が香港などで資産を持っており、ここから資金を移すのは容易です。

中国トップの富豪ら、シンガポールに殺到

 米中の政治的緊張は、一部の中国人富豪の海外移住への渇望を深め、シンガポールは彼らの第一選択の地となっています。

 フランス(AFP)通信を引用した中央通信社(CNA)2月7日の報道によると、ある企業の会計士が、中国の富豪たちは中国共産党からの圧力を懸念し、低価格で事業を買収されることを恐れており、「シンガポールへの移住は家族の財産の安全を確保し、何世代も楽しむことができる」と明らかにしました。

 事情に詳しい関係者がAFP通信に語ったところによると、中国の一部のトップクラスの富豪らは、財産を失うことを恐れて、すでにシンガポール行きの航空券を予約し始めているといいます。移住を準備しているこれらの富豪にとって、このアジアの重要な金融センターは彼らのあらゆるニーズを満たすことができます。

 シンガポールは過去60年間、同じ政党に支配され、ストライキや街頭抗議行動を禁止する法律があり、税率が比較的低く、国民の中で中国系の割合が最も高い国なのです。

 シンガポールでは、最近に移住したばかりの中国富豪たちが、テーマパークやカジノ、有名なゴルフクラブもあるセントーサ島のウォーターフロントに面した高級住宅に入居しています。彼らはロールス・ロイスやベントレーに乗っており、外国人会員が67万米ドルの年会費を払って利用する一流ゴルフクラブにさえ頻繁に出入りしています。

 ある関係者は、こうした中国人がシンガポールを真の故郷と見なしていると明らかにしました。ある顧客が「少なくとも私がここにいる間は、私のお金が私のものである」と話しました。

 シンガポール金融管理局の推計では、ファミリーオフィスの数は2020年の400軒から2021年には700軒に急増しています。

セーフヘイブンのシンガポール

 ニューヨーク・タイムズ紙1月20日の報道によると、2022年は中国にとって多事多難(タジタナン)な年であり、多くの富豪が海外に移住し、一時的なものもいれば、永続的なものもいるといいます。彼らは新たな移民ブームに加わり、昨年中国で最も話題になったネット流行語の一つ「潤学(ルンシュエ)」の実践者となったのです。

 中国語の「潤(ルン)」の発音表記は英語のrun(ラン)と同じです。潤学は英語のrun(ラン)の「逃げる・走る」という語意から「海外移住」という意味に転換された新しい造語で、いかに中国を離れて先進国に移住するかの方法を研究することを指します。

 セーフヘイブンを求める際、多くの中国富豪がシンガポールに目を向けています。

 シンガポールを拠点とするコンサルタント会社Lotusiaの創設者である霍(ホー)氏によると、中国人顧客リストは過去1年間で急増し、その多くは中国の教育、ゲーム、暗号通貨、フィンテック業界から彼のサービスを求めており、これらの業界はここ数年、政府の取り締まりの対象になっています。

 霍(ホー)氏は、上海が都市封鎖されている間、富豪顧客からの電話は「鳴りっぱなしだった」と語りました。富豪たちは、いくらお金があっても、「ゼロコロナ政策」という厳しい制限の下で、食料や物資を買い占めに行かなければならないことに気づいています。

 欧米人はシンガポールの個人の自由に対する制限に腹を立てるかもしれないが、多くの中国人にとっては、法の支配を尊重し、政策を勝手に変えない政府があれば十分安全だと、ニューヨーク・タイムズは報じました。

(翻訳・藍彧)