生活費を節約して、好きな絵画を買い集める男がいました。長年の苦労の甲斐あって、多くの有名画家の絵をコレクションしていました。 ある年、彼の祖国が戦争に巻き込まれ、一人息子が徴兵され、戦場に送られてしまいました。ほどなくして、息子の訃報が届きました。それによると、既に安全な場所に撤退していた息子が、負傷した戦友を救出するため、再び危険地帯に戻り、1人、また1人と負傷者を運び出し、最後の仲間を運んでいた時、飛んできた弾丸に撃たれ、倒れてしまった……とのことでした。
息子が亡くなって最初のクリスマスの日のことです。玄関のベルが鳴りました。 男がドアを開けると、そこには若者が立っていました。若者は「私のことをご存じないと思いますが、僕は、息子さんが最後に救出した負傷した兵士です」と涙を浮かべながら言いました。 そして、若者は「僕は何もお土産を持って来ていません。ただ、お父さんは美術品が大好きだと息子さんから聞いていました。私は画家ではありませんが、命を救ってくださった息子さんの肖像画を一生懸命描きました。心を込めて描いたこの絵をぜひ受け取ってください」と言いました。
男は差し出された小包をゆっくりと開き、息子の肖像画を手に取りました。 そして、彼は暖炉の上に掛かっていた名画を取り外し、代わりに息子の肖像画をかけました。「 これは私の最も貴重なコレクションだ。これまでのどの名画よりも価値のあるものだ」と、彼は涙をこぼしながら、若者にお礼を言いました。
その1年後、男は亡くなりました。そして、彼が収集した全ての絵画がその年のクリスマスにオークションにかけられることになりました。
最初の競売品は、皆が期待していた名画ではなく、息子の肖像画でした。 人々は、早く名画をオークションにかけてほしいと急かしましたが、競売人は「申し訳ありませんが、この肖像画をオークションにかけるのが先です」と答えました。
その時、1人のおじいさんが立ち上がって、「10ドルでこの絵を買いたいのですが、いかがでしょうか。これは手持ちの全てのお金です。 この子のことを知っています。彼は仲間を救うために亡くなったのです」と言いました。
競売人は 「10ドルです。いかがですか?他にいなければ、はい 、落札です」と言いました。
皆がいよいよ本番だと期待していたら、競売人は、「この度はたくさんの方のご来場、ありがとうございました。本日のオークションはこれで終了です」と言いました。
「コレクションがまだ一つもオークションにかけられていないのに、もう終了なのか」と会場にいた人々は皆驚きを隠せませんでした。
この時、競売人は真剣な表情で、 「息子さんの肖像画を購入した人は、コレクションのすべてを所有することになる……。これが遺言です」と言いました。
皆はコレクションの中の最も高価なものを狙っていましたが、10ドルで買われた肖像画が最も値打ちのあるものだったとは誰も予想していませんでした。
最も大事なものは意外に身近にあるのかもしれません。それとすれ違う人もいれば、それを手に入れる人もいます。心を落ち着かせて、まだ気づいていない大切なものを再発見してみませんか?
(文・劉一淳/翻訳・一心)