聖王名君、唐の太宗・李世民(希望之声 より)

 唐王朝期・貞観の時代には、才能のある人がたくさん出てきました。君子でも小人でも、それぞれの居場所を持っていて、文臣も武将もそれぞれの強みを発揮することができました。このような場面を創り出したのは、人の才能と人格を知り尽し、その才能を最大限に活用できた中国史上随一の聖王名君、唐の太宗・李世民なのです。

 太宗は『帝範(ていはん)』でこのように語りました。

 聖明の君主は、名匠が木器を作るように人材を選びます。真っ直ぐなものは車轅、曲がったものは車輪、長いものは柱、短いものは斗栱(ときょう)や角梁(かくりょう)などに使われます。曲がっていても、まっすぐでも、長くても短くても全部役に立ちます。聖明の君主は、名匠が木材を選ぶのと同じように人材を採用します。賢い人の知恵を、愚かな人の力を、勇敢な人の威武を、臆病な人の慎重さを活用します。賢くても愚かでも、勇敢でも臆病でも、その人の全体像を考察してから任用します。したがって、名匠には使えない材料はなく、賢明な君主には使えない人はいません。悪いことをしたからといって、その人が良いことをしたことを忘れてはいけません。ちょっとした過ちがあるからといって、その人の功績を消し去ってはいけません。異なる政務に応じて、異なる機能の部門を設置し、人々の能力を十分に発揮させる必要があります(註)。

 これが唐の太宗・李世民の人材採用の知恵です。この人材採用方法によって、貞観の時代には「多士済々(たしせいせい)」の盛況が現れました。実は、古代の皇帝が国を治める技術だけでなく、現代の企業経営にも適用できます。

 企業経営の重要点は、人材採用、人材を繋ぎ留めることです。人はそれぞれの長所と短所を持っています。企業の経営者として、従業員一人ひとりの長所と短所を理解し、長所を伸ばし、短所を回避することができれば、従業員の才能を最大限に活用することができ、企業を順調に発展させられます。

 人はそれぞれ知恵や能力が異なります。能力の高い人は多く兼任しても余裕がある一方、能力の低い人は一つの仕事だけでも疲れてしまいます。浅知短才の人に重い責任を負わせると、重い負担に耐えられないだけでなく、部署全体までめちゃくちゃになります。脳力に才能のある人に、重い肉体労働をやらせたら、その人は遅かれ早かれ別の会社にスカウトされてしまいます。人材に適した職場を提供することによって、人の才能を十分に発揮させることができます。

 翡翠にも小さな欠点があるように、人にも小さな欠点があります。優秀な経営者として、欠点によって翡翠を捨ててはならず、人の欠点によって、功績を忘れてはなりません。完璧な理想的な人材はいないので、人材採用のカギは寛容さであり、人の長所を活かすだけでなく、人の短所を許すこともできることが重要です。

 チームの経営者が成功するために備えなければならない資質を、千年以上前に唐の太宗が教えてくれました。

註:
 中国語原文:故明主之任人,如巧匠之制木,直者以為轅,曲者以為輪;長者以為棟梁,短者以為栱角。無曲直長短,各有所施。明主之任人,亦由是也。智者取其謀,愚者取其力;勇者取其威,怯者取其慎,無智、愚、勇、怯,兼而用之。故良匠無棄材,明主無棄士。不以一惡忘其善;勿以小瑕掩其功。割政分機,盡其所有。(李世民『帝範・審官第四』より)

(文・雲中君/翻訳・宴楽)