あるイタリアの商人は、南アフリカで大金を使って、極めて希少なダイヤモンドを購入しました。このダイヤモンドは透き通ってきらきらと輝いており、まばゆいばかりでした。
しかし、玉に瑕(きず)なことに、このダイヤモンドの真ん中にかすかな亀裂がありました。容易に気づかないので、ダイヤモンド全体の価値には影響しないものの、やはり見るたびにすっきりしない気持ちになったのです。
帰国してから、商人はその大事なダイヤモンドを持って、非常に有名なダイヤモンドの切断師を訪ね、真ん中のその亀裂を処理してくれるようお願いしました。
切断師はダイヤモンドに顔を近づけた後、その高価で華麗な美しさに何度も賛嘆の声をあげました。最後に彼が商人に提案したことは、その亀裂に沿ってダイヤを2つに分けることでした。そうすることで、ダイヤの高級感を損なうことがないだけでなく、なおいっそうそのダイヤを完璧で非の打ち所のない宝物にすることができる、と言いました。
切断師のアドバイスを聞いた商人は、これは両全の方法であると思い、切断師に処理を任せることに決めました。しかし、切断師は溜息をつきながら、「あなたのこのダイヤはあまりに高価すぎるので、自分が作業する時にミスをするのではないかと心配で、私にはできません。もし、本当にそんなことでも起きたら、いくらなんでも私には賠償できませんから。ダイヤに必要な完璧さを保持するためには、さらに卓越した技芸を持った切断師に頼むことを、私はお勧めします」と言いました。
その切断師の話を聞いた後、商人は残念ながらダイヤを持ってその場を離れるしかありませんでした。
その後、商人はまた何人かの切断師を訪ねましたが、相変わらず、誰一人としてこのリスクを冒す勇気のある人はいませんでした。みな作業が失敗して、ダイヤが自分の手によって砕けてしまうのではないかと恐れていました。
まさに商人が絶望しそうになっていた時、彼の友人がある年寄りの切断師を紹介してくれました。しかし、友人は彼に「その切断師は性格がひねくれている変わり者で、尋常じゃないことをする時もあるから、行くか行かないかは、自分で考えて決めてください」と、わざわざ忠告しました。
商人は長い間思案したあげく、運に任せて、その切断師のところへ行ってみることにしました。
行ってみると、白髪交じりのその切断師はダイヤを手に持って見た後、この難題を解決してくれることをすぐに承諾してくれました。
しかし、意外にも、切断師は自分で手を下さず、この非常に重要な作業を、見たところとても若く、傍で磨く仕事をしている年少の弟子に、商人のダイヤを直接渡してやらせました。
心配してやまなかった商人でしたが、質問する間もなく、その若い弟子は思いのままにダイヤを手に持って、何も言わずに、直接手にしていたハンマーを振るって、一気にその高価なダイヤを2つに打ち割りました。しまいには、その若い弟子は無表情でダイヤを親方に渡した後、あっという間に去って行きました。
商人は目の前で起こった一連のことにあっけにとられ、びくびくしながら切断師に「先程のあなたのお弟子さんはおいくつなんですか?彼はあなたのところでどれくらいの期間学んだのですかね?」と聞きました。
切断師は商人の質問に明らかに不機嫌になりました。眉間に皺を寄せて、不満げに商人を一瞥した後、極めて嫌そうに、「あんたがどうしてそんなことを聞くのか、わしは本当にわからん!だが、いいだろう、そんなに興味があるなら教えてあげよう。あの弟子は今年まだ二十歳にもなっておらん。ここで弟子になってまだ1か月もたっていない」と言いました。
切断師の答えに、商人は再び唖然として、口をぽかんと開けました。ついには彼はいくぶん怒って、「こんなに重要な作業を、どうしてまだ修行中の弟子にやらせたんですか?」と切断師に言いました。
切断師はほんの微かな笑みを浮かべて言いました。
「このダイヤの価値を、あの小僧が知らなかったからだよ。だからこそ、作業に取りかかる時は手が震えるはずがないし、動作も当然、正確できっぱりとしていたんだ。雑念さえなけりゃ、いかなることも成し遂げることができるのさ」と言いました。
切断師の答えを聞いて、商人はほっとしたと同時に、心を打たれ、この切断師の見識に心の底から敬服しました。
多くの場合、失敗は能力の高低と関係なく、心の中に功利などの雑念がひそんでいるからかもしれません。逆に、雑念を捨て、心を静め、やりたいことに集中することができれば、成功しないことはないでしょう。
(翻訳・夜香木)