田中社長は、13歳の時、大人に無断で何人かの友達と一緒に裏山へ果物を採りに行きました。
その時、突然山火事が起きました。
最初はそれ程大きな火事ではありませんでしたが、草木が密生して山の中の空気が乾燥していたので、山火事はたちまち広がって、田中くんたちの方へ向かって来ました。
山火事はまるで巨大な火竜のようで、彼らに向って襲い掛かるように巻き上がるのを見ると、子どもたちはとても恐ろしくなりました。
子どもたちは叫びながら、烈火を背にして、山の頂上に向かって必死に走りました。しかし、辛うじて山の頂上に到着するやいなや、山火事も子どもたちの横まで駆け上がってきました。
辺り一面の濃い煙が空をも暗くし、方向を見失った子どもたちは山火事を避けるためどちらへ逃げたら良いのか分からなくなりました。田中くん以外の子どもたちは恐怖と絶望の中で叫び続けていましたが、叫び声はすぐに草木を焼き尽くす山火事の音に飲み込まれてしまいました。火はどんどん勢いを増し、子どもたちはまるで巨大なかまどの中にいるようでした。限界を超えた恐怖せいか、子どもたちは泣き止み、声も無くぼんやりと山の頂上に立ちすくんでいました。
その時、田中くんは足元の草の中のバッタなどの小さな虫たちが、群がって一生懸命ある方向に向かっていることに気づきました。「虫たちも災害に気づいているに違いない!」と思った瞬間、田中くんは躊躇なく友達に「おしっこをし、尿を手のひらで受けて、髪の毛を濡らそう」と言いました。友達らが田中君に言われた通り髪の毛を濡らすと、田中くんは「僕は逃げ道を知っている!ついて来て!」と落ち着いた声で力強く叫びました。
田中くんたちは、小さな虫たちの向かう方向へ走り出しました。田中くんの読み通り、虫たちは安全な場所を知っていました。走り続けて一時間後、彼らは一人も脱落することなく、髪の毛が少し焦げただけで、無事に山の中腹にある安全な場所に到着しました。
その場所で待っていた子どもたちの親と、子どもたちを探しに来た村人たちは、悲喜交々子どもたちをしっかりと抱きしめました。田中くんも母親の腕の中で泣かずにはいられませんでした。
家に帰ってから、田中くんは母親に「ほんとは、山頂にいた時、僕もとても怖かったんだ。でも僕は、友達が脱出する気を無くすことがもっと怖かったから、それを皆に気づかれてはいけないと思った。炎に囲まれた時だって、虫たちが逃げた方向に走っただけで、僕は正しい方向を本当に分かっているわけじゃなかったんだ」と言いました。
母親は田中くんをしっかりと抱きしめて「すごい!とてもすごいわ!本当の意味で立派な男になったね!」と涙にむせびながら言いました。
田中くんは40年を経て、現在は大手企業の社長になりました。田中社長は、毎年必ず、新入社員の歓迎会で、13歳の時のことを話します。
「あれは突然起きた山火事でした」から始まる物語の最後、田中社長はいつも新入社員たちに真剣に、「皆さん、自分の仕事と人生に大きな希望を持ってください。どんな困難があっても必ず克服できると信じましょう!」と語り掛けます。
(翻訳・宴楽)