オリンピックスタジアムで公開討論会中のゼレンスキー氏(President.gov.ua, CC BY 4.0 , via Wikimedia Commons)

 ウクライナのゼレンスキー大統領(44)は、両親がユダヤ人で裕福な家庭に生まれた。ゼレンスキー氏は、2015年に自作自演した政治風刺ドラマに出演したことで一躍有名になり、大統領になるための礎にもなった。

 同氏は2015年、政治風刺コメディー『国民の僕』を執筆した。同年、ウクライナの国営放送「1+1」で放送され、全24話。一介の歴史教師がふとした事から素人政治家として大統領に当選し、権謀術数が渦巻く政界と対決する姿をユーモアを交えながら描いた同作はウクライナで大流行した。物語は選挙で授業を妨害された主人公が怒りに任せて政府批判を行う様子を隠し撮りした映像が投稿され、インターネットでバズ化した事が導入部になっている。現実世界でも放送後にインターネット上でエピソードの無料公開が行われ、Youtubeに投稿された第1話の再生数は1200万に達している。

 ドラマがなんと現実となった。大統領を演じたゼレンスキー氏は2018年、自らの政党「国民の僕」を立ち上げ、選挙に出馬した。

 当時のウクライナ大統領選挙の勝算が最も大きかったのは3人だった。当時のペトロ・ポロシェンコ大統領、政治家のユーリヤ・ティモシェンコ氏、政治素人のゼレンスキー氏だった。そのうち、ポロシェンコ氏は億万長者「チョコレート王」で、ティモシェンコ氏は「ガスの王女」と呼ばれている。

 ウクライナの首相を何度も務めていたティモシェンコ氏は、1回目の投票で敗れた。2019年4月19日、2回目の投票の前に、ゼレンスキー氏とポロシェンコ氏はキエフのオリンピックスタジアムで公開討論会を開催し、ライブ中継された。

 ウクライナの国防とクリミア問題に関する議論で、ゼレンスキー氏はポロシェンコ氏の無能な統治やドンバス地域の紛争解決の失敗を問い詰めた。ポロシェンコ氏は、ゼレンスキー氏が当選しても何もできず、プーチン氏にひざまずくしかないだろうと揶揄った。

 それを聞いたゼレンスキー氏は衝撃的な行動に出た。彼は2歩前に出て、突然ひざまずいて、「プーチン氏に決してひざまずかない、ウクライナの人々にだけひざまずく」と述べた。

 この突然の行為は、討論を見ている多くのウクライナ人の心を動かした。最終投票の結果、ゼレンスキー氏が73%の得票率でウクライナ大統領に選出された。

 2022年2月24日未明、プーチン氏は突然、ウクライナへの大規模な攻撃をロシア軍に命じた。圧倒的な軍隊の巨大な圧力に直面しながら、ゼレンスキー氏は屈服せず、米政府の避難支援さえ拒否し、キエフに残り、ウクライナ人に闘い続けるように指揮し、選挙で国民に約束したことを果たしている。

(翻訳・徳永木里子)