中国の旧正月に際し、国際社会に衝撃を与えた「鎖でつながれた8児の母親」事件は、世論の的となり、どんどん掘り下げられ、闇に隠された煉獄が徐々に明らかにされてきた。
事件の発端
1月下旬、江蘇省徐州市豊県歓口鎮董集村の荒れ果てた小屋で、首に鎖をかけられた薄着の女性が、熱心なネットユーザーによって発見された。
女性の夫は董志民(ドン・ジーミン)といい、二人には少なくとも7人の男の子と1人の女の子、計8人の子供が生まれている。董は「妻は精神的に病んでいて、人を傷つける恐れがあるので、小屋に閉じ込めた」と説明している。
政府の声明で疑問点が露呈
同女性に関する動画は瞬く間に注目を集め、拡散された。ネットユーザーは人身売買、レイプ、虐待などの問題をめぐり議論を展開しているが、当局は関連話題の多くのコンテンツを削除した。その後、地元当局は2つの公式声明を発表した。
豊県党委員会広報部は1月28日、同女性と董は法律婚であるとし、人身売買について否定した声明を発表した。
2日後の1月30日夜に、2回目の声明で詳しい状況が公開された。1998年6月に歓口鎮と山東魚台県境で物乞いしていた女性を、董の父親が引き取り、それ以来董は女性を楊某侠(某は伏せ字)と名付け、一緒に暮らし始めた。民政機関の職員が身元の確認をしっかり行わずに婚姻届を受け付けたと説明されている。
また、2021年6月以降、精神的な疾患がある楊が重症化し、自宅の物を壊したり、老人や子供に暴力を振るうことが多くなったため、鎖でその行動範囲を制限したという。
しかし、政府の声明はネットユーザーの疑問と怒りをもみ消すことができなかった。
まず、身元がわからない女性を勝手に引取り、そのわずか2カ月後に婚姻届を出したことは人身売買の疑いが拭えない。身分証明書類もなし提出した婚姻届の合法性も疑われた。「民政機関の職員が身元の確認をしっかり行わずに婚姻届を受け付けた」という説明だけで「法律婚」と認めた当局のいい加減さが露呈した。さらに、8人もの子どもを生ませた董の行為はレイプに該当するかどうか。もし楊に精神的な疾患があるとすれば、「中国障害者保護法」では強姦(ごうかん)に該当することになる。ネットユーザーからの8人の子どもの父親は本当に董であるかという疑問に対し、当事者董は「誰の子でも構わん。お父さんと呼んでくれればいい」という常識外れな回答。
2月1日、董親子だけでなく、村自治会や党委員などもレイプに関与したことを村の人は知っていると明かしたネットユーザーもいた。
中国人身売買の闇―中国共産党当局の黙認
2016年4月、中国作家賈平凹(か へいおう)はかつて「中国の人身売買は法律の角度からは間違ったことであるが、嫁を買わなければ、永遠に嫁がいない。村が嫁を買わなければ、村が消えゆく」と言ったことがある。
時事評論家李沐陽はこれに対し、「これが貧しい田舎の共産党員をはじめとする多くの共産党員の考えである」と述べた。政府が黙認しているため、女性の誘拐や売買が盛んに行われており、地元村民は買ってきた女性が逃げられないように一斉に見張っている。
これこそ楊が二十数年不当な扱いをされても、地元政府に見て見ぬされた本当の理由かもしれない。
数年前に発表された「売買された女性や子どもを助ける工作の意見書」では、「売買されたときには少女で、すでに法定の結婚年齢に達し、本人が買主と生活し続ける意志がある者は、法に基づき婚姻届と戸籍の転入手続きを済ますべき」と書かれている。つまり、女性の売買はある意味合法化された。
社会の責任
また、同事件で社会の責任も再び提起された。「1998年から2022年、25年間だれも彼女を助けようとしなかった。少なくとも同じ村の人は誰も通報をしようとしなかった」と、向莉人権弁護士が指摘した。
この事件がこれほど注目を集めたのは、ちょうど旧正月を迎え、一家団欒の雰囲気の中で、楊の遭遇とのギャップゆえかもしれない。ソーシャルメディアでは連日討論されている。
しかし、ネットでの反響は実際に社会の変化をもたらす可能性が低いという意見もある。ある匿名のネットユーザーは、「この類の事件が起きた後、水に小石を投げた後、少しの波紋ができてもすぐに消えてしまうように、何かの事件があるたびに騒がれるが、中国人はだんだん麻痺してくる」とコメントした。
同ユーザーは、民衆が麻痺するのは、現在の体制下で、人民の声が弾圧され、誰かが問題提起しても、政府は問題を解決するのではなく、問題提起した人をもみ消すからだと強調した。
(翻訳・北条)