アップルCEOティム・クック氏(左)、Bloomberg LP創始者マイク・ブルームバーグ氏(中)及びBusinessWeek編集者ミーガン・マーフィー氏(2017年グローバルビジネスフォーラム)(Mike Bloomberg, CC0, via Wikimedia Commons)

 米テック大手Apple Inc.(アップル)にとって、中国は現在、米国に次ぐ市場となっている。中国事業における規制の脅威を払拭するために、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、数年前に中国共産党(以下、中共)当局との間で、推定価値2750億米ドル(約31兆円)の5年間の契約を秘密裏に締結した。

 米テクノロジーメディア「The Information」6日の報道によると、当時、アップルは地域経済に十分に貢献していないと中共が考えたため、取り締まりにより、中国での携帯電話の販売台数は激減した。アップルのApple Pay(アップルペイ)、iCloud(アイクラウド)、App Store(アップストア)は、中国で一連の規制上の問題に直面していた。同社に不利な規制を設けないように、クック氏は2016年から3回にわたって中国を訪問し、中共の国家発展改革委員会との間で、2750億米ドル相当と推定される5年間の契約を結んだ。

 同契約には、中国での新しい小売店の設立、研究開発センターや再生可能エネルギープログラムへの投資などが含まれている。アップルは、中国のサプライヤーへの「最先端製造技術」の開発支援、優秀な中国人人材の育成支援、中国製部品の採用拡大、中国のソフトウェア企業との契約締結、中国の大学との研究協力、中国のテクノロジー企業への直接投資、多数の中国国有企業への支援などを約束している。

 クック氏は2016年5月、中共当局をなだめるために、アップルが中国版Uber(ウーバー)である配車サービス大手・滴滴出行(ディディ)に10億ドル(約1100億円)を投資すると発表した。その直後、クックCEO、ジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)、リサ・ジャクソン副社長は中共の高官と会談をした。

 同報道では、クック氏が2016年5月の最初の訪中時に覚書を交わし、その3カ月後の2度目の訪中時に当時中共の張高麗(ちょう・こうれい)副首相と会談したことに言及した。アップルの内部資料によると、上記の取引によって同社は中共との脆弱な関係を修復することができた。クック氏は同年10月に3度も中国を訪れ、李克強(り・こっきょう)首相から招待され、深圳で会談を行った。内部文書や情報筋によると、今回の会談で、アップルが中共の規制当局と交渉する立場を強化した。

 権威主義体制の不透明さと会社の秘密主義の傾向のため、中共当局とアップルの取引の多くは秘密裏に行われていた。また、アップルは「中国の法律を遵守し続ける必要がある」として、関連アプリケーションの分野でより厳しい審査を受け、中国のユーザーに新しいプライバシー機能を提供することを拒否した。アップルの経験は、中国に進出している他の外国企業にとっての教訓となっている。現在、電気自動車(EV)メーカーのテスラも、2016年にアップルが経験したことと同様に中共の規制当局から複数の方面で挑戦に直面している。

(翻訳・徳永木里子)