ICPO本部ビル(Massimiliano Mariani, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 中国共産党(以下、中共)公安部元副部長兼国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)前総裁、孟宏偉(メン・ホンウェイ、68)氏は、2018年に中共に解任され、13年6カ月の懲役刑の判決を下された後行方不明となっている。妻であるグレース・メン(中国名:高歌)氏は18日、仏リヨンでAP通信の独占インタビューに応じ、「彼ら(中共政府)は怪物だ」などと中共を批判した。

 中共当局は2018年、孟宏偉氏を拘束しながら10日以上も事実を公表せず、法治の常識が通用しない国との印象を世界に与えた。中共中央規律検査委員会と国家監察委員会は2019年、孟氏に対し「重大な規律違反があった」として党籍を剥奪した。中国天津市の第1中級人民法院(地裁)は2020年、孟氏に収賄罪で懲役13年6カ月の実刑判決を言い渡した。

中国公安部元副部長孟宏偉(モン・ホンウェイ)(イメージ:Web Summit /CC BY 2.0

 グレース氏は、現在、政治亡命者として、双子の息子たちとフランスで暮らしている。24時間体制で監視されているが、彼女はこの状況について、中国の工作員が誘拐を企てているためだと考えている。

 彼女はこれまで自分と家族の安全を懸念していたため、顔を出したことがなかったが、ICPO総会がトルコで23~25日に開かれるのを前に、AP通信のインタビューで初めて公に顔を見せ、家族を引き裂かれた原因として、中国の腐敗したシステムについて率直に語った。「世界に対して自分の顔を見せ、何が起きたかを語る責任が、私にはある。この3年間で『怪物』、つまり権力との付き合い方を知った。中国では多くの家族が私たちと同じ経験をしている」

 彼女は、中共体制の関係者だった時に見たものにショックを受けており、孟氏がかつて働いていた中共政府を「怪物」と呼び、「彼らは自分たちの子供を食い殺すからだ」と批判した。

 2018年10月、孟氏が詳細不明の法律違反で調査を受けているという声明が発表された。中国高官が公職から追放される前兆だ。その後インターポールから、孟氏が総裁を直ちに辞任すると発表され、グレースは疑念を抱いた。

 「これは偽造された事件だ。政治的な意見の相違が刑事事件に発展した一例だ。中国の腐敗は、極めて深刻な状態にあり、まさにまん延している。しかし、腐敗を解決する方法には2つの異なる意見がある。1つ目は、現在行われているような方法。2つ目は、問題を根本から解決するため、立憲民主主義に移行するというものだ」

 彼女は、監禁されている夫の居場所や健康状態については何も知らない。2人の最後の連絡は、夫が北京に出張中の2018年9月25日に送った2通のテキストメッセージであった。最初には「私の連絡を待ってくれ」と書かれていた。その4分後には包丁の絵文字が送られてきて、明らかに危険な状態を示した。

 それ以降、音信不通になり、弁護士が中共当局に何度も手紙を出しても返事は来ないため、夫が生きているかどうかもわからないと彼女が述べた。「私はすでに、これ以上ないほどの悲しみに包まれている。もちろん、子供たちにとっても、同じくらい残酷な出来事だ」

 現在の自身の状況について、「これは私たち家族にとって大きな悲劇であり、大きな痛みの源だ。しかも、今の中国では多くの家族が私と同じような運命に直面していることも知っている」と語った。

 中国に批判的な人々は世界中に存在し、その多くが、2022年に北京で開催される冬季五輪に反対している。グレース氏もその一人だ。彼女は、関係者として内側の世界にいたが、今は元関係者として外側から見ている。

 グレース氏の生家も、中国政府とつながりがある。母親が、全国人民代表大会の諮問機関で働いていたのだ。そして、生家の人々も政治的なトラウマを経験している。1949年に共産党政権が成立した後、グレース氏の祖父は事業資産を剥奪され、強制労働収容所に送られたという。 

(翻訳・徳永木里子)