佛光寺の山门と影壁(Zhangzhugang, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 京都には、中国・唐代の様式を受け継いだ建築物が多数残っているため、京都に訪れた多くの中国人観光客は、「歴史的建築物がとても良い状態で保存されていて驚いた」、「唐の面影は今の中国より、むしろ京都にある」、「京都にいると、タイムスリップしたような感じがした」等の感想を述べています。

 中国は、長い歴史の中で、素晴らしい建築物を多く生み出し、その存在が膨大な史書に記されています。

 しかし、度重なる戦乱、王朝の交代、廃仏などが繰り返されることにより、時代の変遷と共に歴史上の名だたる最高級な建築はいずれも失われ、特に、唐、宋以前の建築物で今日に伝わるものはほとんどありません。

 唐代だけを見ても、中国に現存する唐の木造建築物は4つしか残っていないとされています。

 一、南禅寺大仏殿

 南禅寺は中国山西省忻州市五台県五台山にある仏教寺院です。創建年および開基は不明ですが、その大仏殿の平梁下端に782年(唐の徳宗)に再建の墨書銘があることから、中国に現存する最古の木造建築とされています。

 782年建造の大仏殿 中国現存最古の木造建築とされる

南禅寺大仏殿(Zeus1234, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 中国の古い寺院の多くは、840年に唐の武宗が行った会昌の廃仏(※1)において壊滅的な打撃を受けました。五台山周辺の寺院は、海抜2800~3000メートルという立地のせいか、弾圧を免れました。南禅寺はその中の一つだと言われています。

 五台山は古くから霊山として知られ、南禅寺を含む五台山全体が2009年に世界遺産に登録されました。

 二、広仁王廟正殿

 広仁王廟は、別名「五龍廟」とも言います。それは中国山西省運城市にあり、中国にて現存する4つの唐代の木造建築の一つとなっています。広仁王廟正殿の壁に、二つの石碑が埋められており、その碑文である『広仁王龍泉記』によると、唐の憲宗(808年)に創建されたと記され、もう一つの碑文『龍泉記』には、唐の文宗(832年)に設立されたと記されています。 

広仁王廟「五龍廟」正殿(猫猫的日记本, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 三、佛光寺東大殿

 佛光寺は、中国山西省忻州市五台県にある仏教寺院です。本堂である東大殿は857年に建立され、中国に現存する木造建築物の中で3番目に古いとされています。寺内の建築物の他、唐代の塑像と壁画もあり、墨跡は中国の「四絶」と称せられる国宝として名高い寺院です。

 佛光寺自体は、北魏の孝文帝(在位471〜499年)の時に建立されたと言われ、785年から820年にかけて高さ32メートルに及ぶ九間三層の弥勒大閣が加えられました。しかし、佛光寺は唐の武宗が行った会昌の廃仏の際に破壊されました。

佛光寺東大殿(Zhangzhugang, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 唐の宣宗(在位846〜859年)の即位後、仏教が再興され、佛光寺が再建され、857年に東大殿も焼失した弥勒大閣の跡地で建てられました。そして、佛光寺は時代と共に修繕され、現在に至っています。

 四、天台庵

 天台庵は、中国山西省長治市平順県にあり、唐代の木造建築の一つです。具体的な建造年は不詳ですが、現存するのは正殿と唐代の石碑一つのみです。晩唐建築とされる根拠は、その築造形式に由来していると言われ、木材の結合方法から唐代の建築と見なされています。正殿は平面が正方形で、幅三間(7.05m)、奥行き三間(7.03m)、四本の垂木があり、単層の入母屋造となっています。 

天台庵(Huang Xin, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons)

 日本大百科全書(ニッポニカ)の「中国建築」の解説によると、上記の唐代の建築物4、5棟の他、宋、元以前の建築物は中国各地に残っていますが、秀作は少なくないとのことです。

 一方、時代が下がりますが、明、清以後の建築物は中国に数多く存在しています。例えば、歴史上の名建築に比肩しうる規模や伝統的形式を踏襲した宮殿として、明、清の両王朝の宮殿であった「紫禁城(故宮)」全域が現存しており、同じく北京の「天壇」も古来の遺制をとどめており、山東省曲阜の「孔子廟」も明代再建時の全貌を伝えています。

 「唐時代の建築物を見学したければ、日本へ行くと良い」という中国人観光客の気持ちが、とてもよく分かるような気がします。

 (※1) 唐の武宗の会昌5 (845) 年に行われた仏教弾圧。中国史上3度目の大規模な廃仏で,隋,唐に栄えた仏教諸派に深刻な打撃を与えた。

(文・一心)