台湾高速列車(パブリック・ドメイン)

 ある日、夫と実家へ帰るため高速鉄道に乗りました。指定席を買ったにもかかわらず、夫の席には見知らぬ女性が座っていました。夫は女性に何も言わず通路に立ち、私だけ席に座りました。よく見ると、その女性は右足が少し不自由な方でした。

 彼は嘉義(ジャーイー、台湾南部にある町)から台北(タイペイ、台湾北部にある中華民国の直轄市)までずっと立ちっぱなしで、最後まで女性に話しかけませんでした。高速鉄道から降りた後、夫をいたわる気持ちから「席を譲るのはいいことだけど、なぜずっと何も言わなかったの?少しでいいから代わってもらってもいいじゃない」と聞きました。その時、夫はこう言いました。「あの方は一生不自由があるかもしれないが、私はたった三時間だけ不便なだけだ。だから大丈夫、ありがとう。」

 その話を聞いて、私は非常に心を打たれました。たとえ誰にも知られなくても、優しいことを黙々としている夫がそばにいるだけで、世界まで優しくなったように感じました。心が変われば、世界はこんなにも美しく感じられるのです。

 心の持ちようが変われば、世界の見方も変わってきます。長い人生の中で、どんなに小さなことでも心持ちを変えるチャンスとなりえます。すべては私たちがどのように思い、行動するかにかかっています。三分間の間に成功することは難しいかもしれません。しかし一瞬の行いによって、大きな違いを生むことはできるのです。

(翻訳・平清竹)