『写生珍禽図巻』(五代十国・黄筌 パブリック・ドメイン)
『写生珍禽図巻』に描かれた可愛い動物たち
『写生珍禽図巻』にはかわいらしい小動物たちが描かれています。特に数多くの小鳥たちは姿も様々で見応えがあります。小鳥たちには口が閉じているのもいれば、口を開けて鳴いているものもいる。さらにうつむいてなにかを考え込む様子の小鳥もいます。そして、この小鳥たちはみな何かをじっと見つめている様子で、中には遠方を眺めているものもいます。
飛ぶことは鳥にとって一番楽しく感じることでしょう。絵の中には、風に乗って羽ばたいている鳥たちの様子が綺麗に描かれています。
鳥にとって羽は最も重要な構成部分の一つです。画家はこの複雑な部分を丁寧に描き、濃淡をつけることによって羽の階層感をうまく描いています。細かい部分まで丁寧に描かれたこの絵を見ると、黄筌の子供に対する愛情が感じられます。
さらに、鳥の足や爪も細筆で細密に描かれており、質感や鋭利さまで見て取ることができます。
しかし黄筌はこれだけでは満足しませんでした。息子に上達してもらうために、彼は同じ生き物でも書き方を変えました。例えば、鳥たちの足の広がり具合はそれぞれ異なっています。
三匹の蜂も描き方がそれぞれ異なり、正面、背面、側面の三つの角度から描かれている。そして動いている蜂もいれば、止まっている蜂もいます。特に飛行中の熊蜂の描写は非常に写実的です。
この2匹の亀も細部まで描かれ、西洋の写実画となんら変わりません。絵からは甲羅の暑さや硬さまで伝わってきます。同時に亀の動きもそのまま描かれており、亀がゆっくり歩いている様子は見所です。
セミも細部まで描かれており、細い触角やうっすら見える背中の模様まで見て取れます。セミの透明な羽は細筆で細密に描かれており、羽の筋も一本一本丁寧に描かれています。
この『写生珍禽図巻』は、良い先生でありやさしい父親でもある黄筌が息子のために描いた精緻な見本です。この作品は息子の黄居宝を啓発しただけでなく、後世に宋王朝の発達した芸術を伝えることになりました。
(おわり)
(文・鄭行之/翻訳・謝如初)