『写生珍禽図巻』(五代十国・黄筌 パブリック・ドメイン)

 先日インターネット上で黄筌(こうせん)が描いた『写生珍禽図巻』を目にする機会があったが、初めてこの絵のすばらしさに気付き、思わず感動してしまった。精巧に描かれた鳥や昆虫を見て、画家の観察眼に感服した。

 絵の左下には「付子居宝習」という文字が小さく書かれてあった。これは「息子の居宝に与え、練習させる」という意味だ。つまりこの『写生珍禽図巻』は父親である黄筌が息子のために描いた練習帳なのだ。この文字を見たとき、優しい父親が若い息子に付き添って絵の指導をしている姿が目に浮かんだ。

『写生珍禽図巻』

 黄筌は中国の五代十国時代(907年―960年)の最も有名な宮廷画家であり、宮廷で40年間画家として勤めた。そして宋王朝時代(960年―1279年)になってからは太宗皇帝に称賛された。宋王朝の最初の百年間、黄筌とその息子の作品は画家たちの手本として使われた。宋王朝の『宣和画譜・卷十八』には次のような記述がある。「祖宗以来、図画院之較芸者、必以黄筌父子筆法為程序(太祖皇帝太宗皇帝以降、宮廷画家は必ず黄筌親子の作品を模範とせよ)」

 黄筌の作品は、皇帝から農夫まで、誰からも賞賛された。この『写生珍禽図巻』も例外ではなく、その見事な腕前と豊かな内容で世の人を感服させた。

 この絵には小動物や昆虫が24匹も描かれている。これらの鳥たちは宮廷で大切に飼育されているもので、宮廷画家として黄筌は彼らをじっくり観察することができた。

 この絵にはまとまりがなく、構成がなっていないという批判があるかもしれないが、それは当然なことだろう。この絵は練習帳であり、完成された作品ではないからだ。鳥や虫を別個に描くことで、初心者にこれらの動物たちの描き方を身につけさせることこそ本来の目的だ。

 この24匹の小動物は図鑑のように小さな絹に置かれ、混雑さを全く感じさせないどころか、にぎやかにさえ感じられる。

 教育熱心の父親・黄筌の努力は実り、息子の黄居宝氏と黄居采氏は彼の画風を継ぎ、花鳥画で宋王朝期の二大画家となった。

(つづく)

(文・鄭行之/翻訳・謝如初)