ニューヨークの世界貿易センター(イメージ / Pixabay CC0 1.0)

 昨年の中国による米国への直接投資は、米中貿易摩擦の高まりと、米国の国外投資に対する取り締まり強化によって、急激に減少したことがわかった。

 調査会社ロジウム・グループ社によると、この減少傾向は2017年に始まったが、昨年になってさらに加速しているという。

 同社の報告書によると、「中国側の規制強化、そして強化された米国側の投資規制によって、2017年の中国人投資家による米国資産への投資意欲は抑制された」、「2018年になると、新規投資額は過去7年で最低の水準に低下した。投資意欲の減速はますます深まっていると言える」

 中国人投資家による米国への投資額は、2016年は460億ドル、2017年は290億ドルだったのに対し、2018年はわずか48億ドルだった。

 中国による世界への投資額は、2010年から2016年の間に急上昇した。その間、米国は中国企業にとって重要な市場であり続けた。特に米国の不動産およびホスピタリティー産業には人気があり、カリフォルニアは中国人投資家にとって最も人気のある州となった。

 中国企業は、2010年から2016年までの間、950以上の取引を完了し、米国の幅広い産業に1000億ドル以上を投資した。

 しかし2017年、このトレンドは逆転する。ロジウム社によると、米中両国が過去2年間にわたって中国人の投資意欲を弱める政策を実施したことが原因の一つであるという。

 中国側は対外投資に厳しい資本規制を課し、一方の米国側は、中国の投資によってもたらされる安全保障上の脅威に取り組むため、投資選別プロセスを強化した。

 米国では、「外国人投資リスク評価近代化法(FIRRMA)」が圧倒的な超党派的支持を得て議会で可決された。2018年8月には、同法案はトランプ大統領から署名を受けた。

 同法案には、新たな審査手続きを付与することで「米国対外投資委員会」の権限を強化する意図がある。同委員会は法改正によって、重要インフラやテクノロジーを扱う企業について、支配株式の譲渡だけでなく少数株主持分の取引を精査・ブロックすることができるようになった。

中国政府の「投資引き揚げキャンペーン」

 中国による米国への投資収支は、2018年、資産売却を計算に入れれば実際は流入超過であるという。ロジウム社の調査によると、中国の投資家は昨年、政府から「レバレッジ解消」の圧力を受けたのに伴い、130億ドル相当の米国資産を売却したという。

 ある著名な中国人投資家の中には、資本流出を止めるため、中国政府から資産を売却するよう追い込まれた者もいるという。

 ロジウム社によると「2018年には総額130億ドルの資産売却が完了したが、いまだ200億ドル分が未決済である」という。

 この資産売却がカウントされれば、中国による米国への対外直接投資額はさらに減少し、米国への投資額はマイナスが計上される。

 中国政府は2019年、莫大な資本流出を解決するために、中国人による対外投資の規制と投資解消政策を継続すると予想されている。ある経済専門家は、中国経済の低迷によって、政府側は短期的には対外投資の引き揚げや対外投資規制の緩和は行えなくなると指摘している。

 対外投資の減速にもかかわらず、中国のベンチャーキャピタルによる投資額は最高記録を更新した。ロジウム社の報告書によると、在米の中国ベンチャーキャピタルによる資金調達は、規制緩和に伴い、2017年の21億ドルから2018年には31億ドルに増加した。

 ベンチャーキャピタルの最大の投資先は、電池メーカーFarasis Energy社、ゲーム会社のEpic Games社、そしてバイオテクノロジー企業のGrail社とViela Bio社であるという。

 対外投資に対する制限は今年も続くと予想されている。同報告書によると、中国企業による保留中の対米投資案件は5年ぶりの低水準にあるという。

 「米中の経済関係に対する不確実な見通しは広範囲に影響を及ぼしており、引き続き投資家心理の重しとなるだろう」と同報告書は結論付けた。

 トランプ政権は、中国の不公正な貿易慣行を是正するための一環として、昨年初めから関税引き上げを開始した。米中間で数ヶ月間の緊張が続いた後、双方は関税引き上げに関し90日間の「停戦」に合意した。交渉はいまだ進行中であり、協議の結果は2019年の投資に重要な要素となる。

米国で「新規プロジェクト」が増え続ける理由とは

 「ロジウム社報告書」から見いだされる唯一のポジティブな面は、中国側が米国での事業をゼロから構築する、いわゆる「グリーンフィールド」への投資が増加していることだろう。

 同報告書によれば、「2018年下半期、特に基礎材料・自動車・一部の消費者分野については、高まる貿易障壁にもかかわらず、新規プロジェクトが著しく増加した」という。

 この理由について、米国のコンサルティング会社ATカーニーは次のように分析している。
「米国政府による保護主義的な言動や行動を踏まえ、一部の企業は、米国への市場アクセスを維持するために対米投資をあえて促進している可能性がある」

 米国は6年連続で、ATカーニーによる「対外投資信頼指数調査」においてトップの座を維持し続けている。その大きな消費者市場、堅調な経済パフォーマンス、企業減税などにより、外国人投資家はアメリカに魅了され続けてきた。

 対外投資は、グローバル化する企業にとっては重要なビジネス戦略であった。そして今後、反グローバリゼーションや保護主義的感情が高まる中でも有効な一手であり続けるだろう。

(翻訳・今野秀樹)